蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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仙界

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「カーテンと同じ色だな」
「あ、そうですね。寝具もそうですし……きっと母が女の子らしいからと選んだんです」
「これは桃色だな。桜色とか、今なら西洋語でピンクとも言うだろ」
「桃に桜……なんだか風情があっていいですね」
「じゃあ見に行ってみるか」
「――え?」

 突然立ち上がった蛇珀を座ったまま見上げるいろり。
 本当に蛇珀はいつも唐突なのである。

「思い立ったが祭日だろ。ちょうど今いい時期だしな!」
「それを言うなら吉日ですよ蛇珀様!」
「いいから行こうぜ早く!」
「あ、ちょ、ちょっと待ってください、格好が部屋着なので、髪も」
「なんでもいいだろ、どうせ俺しか見ねえよ」
「だからですよ……」

 いろりの小さな呟きに蛇珀は首を傾げた。

 好きな相手と出かけるならどこであってもお洒落をしたいという乙女心だったが、いつも同じ装いである神にとっては身なりを着飾ること自体が不思議であるため、理解不能であった。
 しかしそれは裏を返せば、好きな相手であればどんな格好でもよいということである。

 いろりが急ぎワンピースと春用の上着を羽織り髪を結ぶと、蛇珀の腕に捕まり一瞬にして空間を移動した。
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