蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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仙界

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「……やっぱりそうなるよなぁ」

 蛇珀は頭を掻きながらそう呟いた。

「写真なんか撮ったことねえけど、まあ、写らねえと思ってたぜ。一応認識されちゃいけねえ存在だからな」 
「……でも、それなら、今まで願い聞きをしていた人たちは……?」
「願いを叶えた後に記憶を消すんだよ。それが掟だ」

 蛇珀の言う通り、神は願い聞きの記憶を消す。そのため人間は神に自身の寿命と引き換えに願いを叶えてもらったことを覚えていない。
 ただ、周りに話をしたとしても信憑性を持たない子供などの記憶は神の判断で消さないこともある。
 古来から子供が妖精や妖怪などを見たという噂は耳にするが、それは心の清さが理由ではない。ただその子に会った神が、記憶を消さなかっただけである。つまりあやかしとは、願い聞きに訪れた神から想像が膨らみ生まれた存在であった。

 それを聞いたいろりは突然不安になった。
 ――なら、私は……? と。

 先ほどまでと打って変わって静かになったいろりを見て、蛇珀の胸にもまた雲がかかった。

 残念そうにするいろりを目にすると、蛇珀はつい考えてしまう。
 ――自分が人間の男であれば、こんな顔をさせずに済むのだろうか、と。
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