蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
41 / 182
仙界

9

しおりを挟む
 いつも髪を下ろしているいろりは、今日は出かける際、後ろに一つ、小さく丸めていた。そのため背後の蛇珀からは、彼女のうなじがよく見えた。
 その白く香り立つ光景の、なんと魅惑的なことか。
 蝶が蜜に誘われるように、気がつけば蛇珀は、いろりのそこに吸いついていた。

 何が起きたかわからず、いろりは声を出すこともできずに身体を震わせた。
 その反応に怖がらせてしまったと勘違いした蛇珀は、急ぎ身体を離した。
 
「わ、悪い! 驚かせたな」

 しかし、蛇珀はいろりの自身を見る目に、先ほどの気遣いは杞憂であったと知る。

「悪くなんてありません。……もっと、してください、蛇珀様」

 桃の花よりもずっと濃く色づいた少女の頬。濡れたように光りを持つ瞳と唇に、蛇珀は身体の底から湧き上がる激情を抑えきれなかった。

 ――大地が揺れる。
 蛇珀のやり場のない滾りを代弁するかのように。

「じゃは」
「――蛇珀!!」

 突如、空気を切り裂くかのような鋭い声がいろりを遮った。
しおりを挟む

処理中です...