蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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仙界

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「狐雲様……ですよね……?」
「いかにも」

 問いに応じたその声は、間違いなく狐雲のものであった。

 いろりは急ぎ体勢を立て直し、階段の上で膝と手を揃えた。

「こ、狐雲様、あの、じゃ、蛇珀様が、蛇珀様が、突然、き、消えられて、それで、あの……」

 動揺のあまりひどく吃る少女を、狐雲は冷静は眼差しで見ていた。

 汗に濡れ振り乱した髪、土埃に汚れた一枚の衣類に滲む血液。
 いろりがどれほど必死にここまでたどり着いたのかは、一目瞭然であった。

「若いおなごが夜更けにこのような人気ひとけのない場所に来るでない」
「あの、蛇珀様は、蛇珀様は、どちらに……どちらにいらっしゃるんですか? ご無事なんでしょうか? なぜ、どうして、突然……何か、何か悪いことをしたのでしょうか? もし、もしも罪があるというなら私の方です、私が悪いのです、なんでもします、私にできることならなんでも……ですから、ですから……どうか、どうか、蛇珀様を連れて行かないでください……! お願いいたします……!!」

 いろりには蛇珀しか見えていない。
 自身の危険など省みるはずもなく、涙ながらに狐雲に頭を下げ、訴え続けた。

 そんないろりに、狐雲は最後の選択を言い渡す。
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