87 / 182
仙界
55
しおりを挟む
「……蛇珀様が、私のために……」
「おい、鷹海、それは言わねえ約束だろ」
不意に、どこからか声がした。
その場にいた三人すべてがハッと顔を上げる。
数時間前まですぐ耳元にあったはずなのに、懐かしく感じさせるその声。
いろりは必死に辺りに視線を巡らせた。
「水鏡である。あちらだ」
狐雲に教えられ、いろりは呼吸を乱し走り着いた。
以前蛇珀と訪れた、薄蒼く透き通る円形の泉。
悲しみを讃えるような美しい水面には、少女の最愛の者が映っていた。
「竜の寝床から外に連絡などできるのか……」
「例にないことである」
狐雲と鷹海は遠巻きにいろりの後ろ姿を眺めていた。
――蛇珀、そなたはやはり並の神ではないな。否応なしにも期待してしまうではないか。
「蛇珀様っ……!!」
いろりは水際に縋りつくように胸をつけ、蛇珀が映る水面を覗き込む。
その立ち姿は以前と変わらぬ端正なものであったが、若草色の狩衣が奪われたことで白一色の和装になっていた。死装束に似たその格好に、いろりの肝が冷えた。
「おい、鷹海、それは言わねえ約束だろ」
不意に、どこからか声がした。
その場にいた三人すべてがハッと顔を上げる。
数時間前まですぐ耳元にあったはずなのに、懐かしく感じさせるその声。
いろりは必死に辺りに視線を巡らせた。
「水鏡である。あちらだ」
狐雲に教えられ、いろりは呼吸を乱し走り着いた。
以前蛇珀と訪れた、薄蒼く透き通る円形の泉。
悲しみを讃えるような美しい水面には、少女の最愛の者が映っていた。
「竜の寝床から外に連絡などできるのか……」
「例にないことである」
狐雲と鷹海は遠巻きにいろりの後ろ姿を眺めていた。
――蛇珀、そなたはやはり並の神ではないな。否応なしにも期待してしまうではないか。
「蛇珀様っ……!!」
いろりは水際に縋りつくように胸をつけ、蛇珀が映る水面を覗き込む。
その立ち姿は以前と変わらぬ端正なものであったが、若草色の狩衣が奪われたことで白一色の和装になっていた。死装束に似たその格好に、いろりの肝が冷えた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる