蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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ありし日の恋物語

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 互いの瞳の中に映る自身を見つめながら、狐雲はついに、決断を下した。

「……華乃、私はそなたにこの魂までも、余すところなくすべて奪われておる。そなたがお家に背き、人の理に背いたと自身を責めるのなら、その罪を私にも背負わせてくれぬか。……分け合いたいのだ。ともに生涯、寄り添って暮らしたい」

 狐雲の愛の告白は、月明かりの欠片かけらのように華乃に降り注ぎ、その胸に染み渡った。

「……だが、そなたと出逢う前の私は、決してよい神とは言えなかった。加えて人間のおなごを伴侶に迎えたいなど、天の逆鱗に触れよう。恐らくは過去現在に至るまでの罪の制裁、苦行が課せられるであろう。そなたにも……せずともよい苦労をさせるやもしれぬ。それでも……この狐雲について来てくれるか?」

 華乃の深く神秘的な瞳から再び雫が溢れ出る。
 今度は、悲しみではなく、ただひたすらに、幸福な――。

「はい、はいっ……! 狐雲様、狐雲様……あなた様となら、どこまでも……!」

 花開くように美しく笑った華乃を、狐雲は強く抱きしめた。
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