蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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試練

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 いろりが高校生になってから三月みつき以上が過ぎ、季節は蝉の声飛び交う七月に突入した。

 夏休み目前。お昼休憩の教室では、仲良くなった女生徒たちと机を向かい合わせながらお弁当を食べるいろりがいた。
 
 百恋は早々に昼食を食べ終え、男子生徒たちと運動場でサッカーに勤しんでいた。

「あー、ほんとカッコイイわぁ、百恋様」
「あんな人が彼氏なんてマジ羨ましいよ、いろりぃ」
「だ、だからそういうんじゃないんだってば……」

 窓際から百恋を眺める友人に口々にそんなことを言われ、いろりは困ったように笑いながら否定した。

「好きな人がいるって言ってたもんね? でもいつ帰って来るかわからない人なんでしょ?」
「だったら近くの百恋様と付き合っちゃえばいいのに! そんな放っておくような人捨てて、あたしなら絶対乗り換えちゃうな~」

 二人の友人の何気ない言葉がいろりの胸に刺さる。自分のことなら悪く言われても我慢できるのだが、蛇珀を卑下するようなことは耐え難かった。

 無言で辛そうな顔をするいろりを見て、二人の友人は顔を見合わせて焦った。

「ご、ごめんね! 事情もよく知らないのに、勝手なこと言って」
「こんな可愛いいろりを待たせるなんて! って腹立つ気持ちがあってさ。でも、いろりの好きな人を悪く言ったみたいで、ごめん!」
「……ううん、二人の言ってることもわかるから。ありがとうね」

 弱々しく笑ういろりを見て、二人は思わず左右から彼女を挟むように抱きしめた。

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