蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
144 / 182
とこしえの恋路

2

しおりを挟む
「――――なっ……なんだこりゃ!? 髪が、黒くなっていやがる!?」

 鏡に映る蛇珀の姿。
 それはいつもの白銀色の髪ではなく、ふわりとした黒髪に変貌していたのだ。
 当然、蛇珀の眠気は吹き飛んだ。

「ど、どういうことだ!? うおっ! つ、爪もなくなっていやがる!!」
「蛇珀様、お口はどうでしょうか?」

 戸惑いながら蛇珀が口を開くと、それをいろりが確認する。

「な、なんと、舌先が割れていませんよ蛇珀様! 牙も短くなっています、八重歯程度に!」
「マジかよ!? よくわかんねえけどやった!」
「でも、せっかくの蛇珀様のチャームポイントが……」
「なんで残念そうなんだよ!? 喜ぶとこだろそこは!」
「あ、でも目は変わっていませんね」
「一番蛇くせえとこが……」
「ふふ、いいじゃないですか。あ、よく見ると狩衣もありませんね」
「いろりの数珠もなくなってねえか?」
「あ! ほ、ほんとです」

 蛇珀にいつもの狩衣はなく、上半身が白く、若草色の袴をした神主のような姿になっていた。
 いろりはセーラー服のままであったが、左手首につけていた数珠が消えていた。

「……この姿はまるで……」

 黒髪になり、尖った爪や牙も舌先の割れもなくなった。
 この出立ちは、まるで――。

「人間……」

 蛇珀といろりはともに同じことを口走った。その直後。

「目が覚めたか、蛇珀、いろりよ」

 頭と心の中に直接話しかけてくるような声が、二人に響いた。
しおりを挟む

処理中です...