蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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とこしえの恋路

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「狐雲……?」
「いかにも。仙界から水鏡を通じてそなたたちの内に語りかけておる」
「この人間みてえな格好は、お前の仕業かよ?」
「“人間みたい”ではなく…………正真正銘の“人間”であるぞ」

 蛇珀といろりは耳を疑った。

「それが、天獄様と私からの贈り物である」

 聞きたいことが山ほどありすぎて蛇珀といろりは顔を見合わせたまま、しばし茫然としていた。

「もちろん蛇珀が神であることを失くし、人堕ひとおちしたわけではない。そのようなことはあり得ぬ故な」
「じゃ、じゃあ俺は今どういう状況なんだよ!?」
「期間限定の人間……と言えば解しやすいか。いろりの命が尽きるまで、そなたも人として生きられるということ。人間のおなごを好いたなら、念願であろう。私もそうであった故わかる」

 人間である女性を愛した狐雲だからこそ、蛇珀の夢は痛いほど理解できたのだ。

「狐雲様も、やはり昔、人間の女性と、け、結婚? を、されたのですか?」
「その通りである。そなたたちと同じ苦行を越え、結ばれた。そして私も伴侶が亡くなるまで人として下界で生きた。そこは当時私たちが暮らした家屋である。狐神社の境内にある平家ひらやだ。もちろん普段はないものであるが、天獄様が特別にこしらえてくださっている」

 それを聞き、立ち上がったいろりが和室の襖を開けると、少し前には灰色の玉砂利と階段が見えた。
 廊下に顔を覗かせ、左右を見ると、狐の銅像があり、確かに仙界の出入口となっているあの神社だとわかった。
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