蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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とこしえの恋路

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「そうだ、こんなことしてる場合じゃねえ……まだ乗り越えなきゃいけねえ難関があるからな」
「えっ? ま、まさかまだ苦行が……!?」
「いろりの母ちゃんに結婚の許可をもらわねえと……!」

 思い詰めた顔をする蛇珀に、いろりは拍子抜けしてしまった。

「一体どんな試練が……」
「あ、あの、蛇珀様、そんなに気合いを入れられなくても、大丈夫だと思いますよ。普通結婚するためにあんな苦行はありませんから」
「え!? そうなのか!?」

 神の経験から結婚=地獄のような苦行があると思い込んでいた蛇珀であった。

「私の母は、私が幸せになってくれたらそれでいいと考える人なので」
「母ちゃん優しかったもんな」
「はい。だからこそ私が小さな頃には、よく……泣いていました。『ちゃんと生んであげられなくてごめん、お父さんがいない子にしてごめん』と……。当時私は目が見えなかったので、その顔を見ることはありませんでしたが、母の啜り泣く声と、手の甲に落ちた涙の温かさは忘れません」
 
 いろりの話を蛇珀はしんみりとした面持ちで聞いていた。
 それに気づいたいろりは心配させまいとにこりと微笑んだ。

「あ、全然暗い話とかではないんです。ただ、そういうことがあったので、私には必ず幸せになってほしいと、いつも言っていますから。蛇珀様なら大丈夫ですよ。きっと大歓迎されます」
「そ、そうか? まあ、歓迎されようとされまいと、ちゃんと承諾を得に行かねえとな」
「今からですか!?」
「当たり前だろ! 善は運べって言うからな!」
「それを言うなら善は急げです蛇珀様!!」

 有言実行の蛇珀は、いいと思ったことはすぐに行動に移す。
 神だからではなく、蛇珀本来のこの性格をいろりは羨ましく、そして男らしいと思っていた。

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