蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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とこしえの恋路

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「ただいまぁ……」
「おかえり、いろり。今日はどこに行って――」

 いろりが玄関をそっと開けると、リビングで夕食の支度をしていた母が廊下に顔を覗かせ、言葉を切った。
 理由はもちろん、愛娘とともに家に入って来た背の高い男性を見つけたからである。
 今まで恋の話一つしたことのない娘の唐突すぎる光景に、母はまさに鳩が豆鉄砲を食ったような顔でゆっくりと玄関に近づいて来た。
 
「あ……あのね、お母さ――」

 照れくさそうにいろりが言葉を始めるや否や、気づけば母は玄関先で音もなく美しい土下座をしていた。

「お母さん!?」
「お、俺は何もしてねえぞ!?」
「……あら、私何してるのかしら? なんだかその方のお顔を見たら無性にひれ伏したくなっちゃって……ごめんなさいね、よっこいしょ」

 いろりに似た小柄な身体を起こしながら、母のさゆりは困ったように笑った。
 
「いろり、そちらの方は、もしかしてあなたの……?」

 立ち上がり真剣な面持ちで尋ねるさゆりに、蛇珀は一つ深呼吸をした。

 ――ふう、大丈夫だ、落ち着いてる、よし、まずは名前を言って……


「いろりさんをください!!!!」


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