蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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とこしえの恋路

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 …………リーン…………

 蛇珀と同じ早とちりの鈴虫が、今年一番の音色を奏でた。

「……ふっ……」

 しばしの沈黙の後、堪えられなくなったいろりがついに吹き出した。

「ぷっ、ふ、ふふ、あははは……!」
「わ、笑うんじゃねえ、いろり!!」
「ご、ごめんなさい、おかしくて!」

 確かに蛇珀らしく行けばいいと言ったが、予想以上の焦り具合にいろりはなんだか蛇珀が可愛く見えて仕方がなかった。
 緊張のため何もかも順番をすっ飛ばしてしまった蛇珀は顔から火が出そうであった。
 しかしそんな二人の様子を見ていたさゆりは、口に手を添えて微笑んでいた。

「こんな場所で立ち話もなんだわ。どうぞ、入って。いろりが男の人を連れて来るなんて、最初で……最後、のようだから、ね?」

 さゆりの台詞に、今度は蛇珀といろりが驚きの表情をした。

 さゆりに誘われ、リビングにあるダイニングテーブルに腰掛ける。
 蛇珀の隣にいろり、そしていろりの前にエプロンを取り夕飯作りを中断したさゆりが腰を下ろした。

「あなた、なんだかとっても綺麗な目をしているのね。カラーコンタクト……? という感じではないわよね?」
「あ、え、えぇとこれは」
「う、生まれつき! 生まれつき珍しい色なんですよね!?」
「お、おお! あ、そうです!」

 蛇珀に目配せしながら助け舟を出すいろり。年齢としてははるかに蛇珀の方が上なのだが、しっかりしたいろりの方が母親のようである。
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