蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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とこしえの恋路

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「なんだ、お前! 余計なこと言いに来たのかよ!?」
「すまぬすまぬ、そのようなつもりはない。今日はそなたによい話を三つ教えに参った次第」
「よい、話……? なんだよ?」
「一つは、そなたが上流神になるに最も近いということ。そなたたちのことは私が一任することになった故、その条件の公開も天獄様に了承いただけたのでな。それは」
「好いた女の死に、耐えること……か?」

 狐雲が告げる前に、蛇珀が答えを述べた。
 人間の女に恋をした二人の男神は、琥珀色の月明かりを浴びながら真摯に互いを見つめていた。

「いろりの影響か、少しは頭も使えるようになったか」
「うるせえ……お前だけが達成した苦しみと言えば、後はそれくらいしかねえだろうが」

 上流神になる第一条件は恋をすること。誰かを深く愛し、苦行を越え、結ばれ……そしてやがて来る、別れの時。
 最愛の者に先立たれ、取り残される絶望、悲嘆に耐えること。これが上流神になるための最後の条件であった。

「名答である。愛するおなごを失った時、涙を流さずして堪えること。これが最後の条件である。もし悲しみに任せ涙を流してしまえば、大地は荒れ大勢の余分な命が消えることとなり、そなた自身も露となる」

 本当はその年の人口調整の数に収まっていれば、涙一粒だけ、零すことを許されていた。それほどまでに上流神になるのは、特別なことなのである。
 しかし狐雲はそこは伏せた。泣いてもよいと思わせないためだ。

 狐雲の隣に並んだ蛇珀は、澄んだ夜空に浮かぶ月を見上げた。
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