蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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とこしえの恋路

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「巫女になるには、長い髪の方がいいのかなと思いまして……」
「そんなことはねえだろうが……ん? お前、巫女になる気なのか?」
「はい…………だって、蛇珀様が神主なら、私はこの神社の巫女になりたいです」

 いろりの蛇珀の髪をとかす手が止まる。
 これを聞いた蛇珀はすぐさま「本当か!?」と喜んでしまいたかったが、不意によぎったいろりの母の言葉がそれを止めた。

「……あ、あのよ、いろり、その……気持ちは嬉しいんだけどよ、他にやりたいことがあるなら、俺に遠慮せずにやればいいんだぜ? 学校だって、仕事だって、好きなことを選べばいいんだ」
「本音では?」
「すっげえ巫女になって側にいてほしい――――あ」

 天獄が扱いにくいと言っていた蛇神も、いろりの手にかかればこの通りである。
 あっさり本心を暴かれた蛇珀は焦り、それを前にしたいろりは声を殺して笑っていた。
 夫婦めおと生活始まって僅か、すでに妻の方が一枚上手のようである。

「い、いろりぃ! お前なあ!! 人がせっかく……」
「ご、ごめんなさい、蛇珀様があまりに素直で可愛らしくて」

 こんなことでそんなに笑うお前の方が可愛いだろ、と言いたいがなかなか言えない蛇珀。
 いろりは一頻り笑い終えると、姿勢を正し蛇珀を見据えた。
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