蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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とこしえの恋路

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「母が言ったことを気にしてくださっているんですよね。わかっていますよ。偏差値が高い学校に行き、お給料が高い仕事に就く、そういったのが世間一般では価値があるように言われていますから。でもそれは私のしたいことではありません。私はあなたと一緒に、少しでも長くいたいんです、そこにしか私の幸せはありません」

 穏やかに微笑みながらも、迷いなく意志の強い目で告げたいろりは、蛇珀を釘付けにした。

「あっ、でも、巫女は独身の女性じゃないとダメだったような……」
「……神主がいいって言ってんだからいいだろ?」

 いろりの白く滑らかな頬を両の手で包むと、蛇珀はそっと口づけた。
 いろりは緊張しながらも、もうそれを当然のように受け入れる。 
 蛇珀の接吻はいつもこうだ。まずは浅く、優しく、それがどんどん深く、激しさを増してゆく。

「いろり、いろり……」

 蛇珀は無意識だが、いろりに触れる際いつもこうして囁くように名を呼ぶ。
 直接的な愛の言葉を述べるのが苦手な蛇珀が、熱に浮かされたように自身の名を連呼するのが、いろりにはたまらなかった。
 好きだ、愛してる、と、言葉にしなくても蛇珀の気持ちが伝わるからだ。
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