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あふれる想い

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 今まで積み上げてきた経験、それに基づく自信。
 “美汪”という存在は完全でなくてはならなかった。
 死んでいった同族の希望を一身に背負い、助けを求める混血たちを救済し、憎いはずの人間にも醜い復讐を企てたりしない……
 常に冷静で、視野が広く、個人の感情に振り回されることのない偶像のような生き物。

 だが、今の美汪はそうではなかった。
 穏花に棘病の匂いを感じた時、これはチャンスだと思った。みちると尾行などしなくとも、美汪の方から声をかけるつもりだった。
 棘病を餌に、穏花を側に置き、徹底的に他の者と距離を作らせた。
 吸血を言い訳に、あの滑らかな肌を愉しんだ。嫌だと言われようがやめられなかった。
 加虐傾向など今まで感じたことのなかった美汪が、自分本来の嗜好と気質を嫌というほど思い知らされることになった。

 穏花を知れば知るほど、愛すれば愛するほど、美汪は自制が利かなくなり、自分が自分でなくなってゆく恐怖を感じた。
 ――三日前、あのザマはなんだと、美汪は己を叱咤していた。
 穏花が親しくしていた、恐らく恋心を抱いているのだろうと思われた男の名前を出されただけで、何も考えられなくなった。
 そして自分が取った行動に、ひどく後悔をしたのだ。
 あの時の穏花の表情には、気持ちが高揚しなかった。
 恐怖ではない、ただただ寂しく悲しむ瞳に、胸が締めつけられるように痛み、鉛のように重くなった身体はとても穏花の元へは行けなかった。
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