海の底のピアニストは月夜の夢を見る

白槻

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暗い海の底の深海魚

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 海の深く、深く……、月明かりも陽光も届かない暗闇の世界。海水は氷点下に迫るほどに冷たい。そこは気泡をあげる海藻もなくただ静かで冷たい。
 穏やかなその世界で自分の思考に没頭していた譜の手を、誰かが強引に繋いだ。心の準備もないままに引き上げられる。急激に変わる水圧と水の温度。目を刺すような灯り。環境の変化に、喉からくぐもった悲鳴を漏らした。
 苦しい、痛い、体が破裂してしまう。
 止めて、やめてくれ。俺は暗い海の底が好きなんだ。
 けれど周囲はどんどん明るくなってくる。宝石を散りばめたような気泡が海面に向かって浮かび上がる。海の色は幾重にも青が折り重なっていた。銀の魚たちが泳ぎ回る。月光が海の中まで差し込んでいた。
音が、聞こえる。ああ、そうだ。海の底には音が無かった。そこでようやく自分の手を引く人の姿に気がついた。
 奏……。残酷なまでに美しい人。その人は唐突に手を離して、自分はまた深海の底に落ちていく
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