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第三章 冒険者修行編
第十三話 仮冒険者
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冒険者学校生活は順調に進み、毎日伏魔殿での実習訓練を行い、日々アルミラージを食べ、あっと言う間に卒業試験にも合格した。
「今日でこの寄宿舎ともお別れだな」
「はぁ~――。メルケル領に戻って神官見習いとして働かなければならないのね……」
「姉ちゃんはそっちが本業なんだよ」
「……わかっているわよ」
無事に卒業試験に合格した俺達は、まだ仮冒険者なので伏魔殿には入れないが、通常の動物なら素材の換金が自分でできるようになった。
「でも姉ちゃんはいいよな」
「何がよ?」
「神殿が休みの日には伏魔殿に入れるんだよ」
「それなら、ブリッツェンは十二歳になったら毎日入れるのよ。あんたの方が羨ましいわよ」
「それはそうなんだけど、せっかく冒険者の資格を得たのに一年も伏魔殿に入れないなんて……」
これは元からわかっていたことだが、いざその現実に直面すると、やはり悔しく思ってしまうのは仕方ないだろう。
「それなら、メルケル本家の伯父様にお願いしてみたら?」
「何のお願い?」
「メルケル領の伏魔殿に入れるようによ」
「メルケル領の伏魔殿? ……その手があったか!」
メルケル本家であるメルケル男爵家は、自領に伏魔殿を持っている。そして、領主は領主権限で伏魔殿に出入りする権利を与えられる。
領主権限は、本来冒険者ではない自領の兵士などを魔物を狩るため、伏魔殿に立ち入る許可を与える目的で設定されたものなのだ。しかし、領主権限で伏魔殿に入った者が死傷した場合、領主がその責任を負う必要があるので、誰にでもほいほいと許可を与えたりしない。
ただし、許可を与えられた者が貴族であった場合、その責任は伏魔殿に入った貴族本人にある。なので、仮に俺が伯父さんからメルケル領の伏魔殿に入る許可を貰った場合、俺が死傷してもそれは俺の責任なので、伯父さんに迷惑がかからないのだ。
「姉ちゃん、俺はメルケル領に帰ったら、ちょっと本家に頼みに行ってみるよ」
「どうせなら、一般開放していない伏魔殿に入れるようにしてもらいましょう」
「何で?」
「あたしも神殿が休みの日には伏魔殿に入るからよ。誰も入らない場所なら魔法の練習もし易いでしょ」
「それもそうだね。よし、そうしよう」
そんな訳で、メルケル領に戻ったら本家の伯父さんに伏魔殿に入れてもらえるよう、お願いに行くことにした。
「……で、皆はやっぱり家にくるの?」
「リーダー、今更ダメとか言わないっすよね?」
「一応、父さんを説得してみるけど、許可が貰えるかはわからないよ」
「ダメで元々なんだからかまわないよー」
「はいはい」
「はいは一回ですよう」
「はい」
「よろしい」
シュヴァーンの四人は、どうしても俺と一緒に行動したいらしく、メルケル騎士爵家にテント生活で構わないから居候させてくれと言い出した。流石に常時テント生活は可哀想なので、倉庫を整理して住めるようにし、そこに居候できないか父に掛け合ってみることになっていた。
最早お馴染みとなった乗合馬車の旅を経てメルケル領に帰ってきた俺達シュヴァーン一行は、メルケル騎士爵家の館に到着した。
「ただいまー」
「ただいま戻りましたわ」
「おかえりなさい。――エルフィ、ちょっとこちらへいらっしゃい」
「何ですのお母様?」
置き手紙一つで家を出て冒険者学校に入学した間抜けな事実を忘れていたエルフィは、何も考えず普通に帰宅したので母に連れ去られて行った。ここからガッツリお説教を受けるのだろう。
うん、姉ちゃんのポンコツ具合は相変わらずだな、
「ちょっと長くなるだろうから、取り敢えず皆はここで休んでて」
シュヴァーンの四人をリビングに通し、少し休んでいてもらう。
暫くしてエルフィへの説教が終わった母に、倉庫を片付けてシュヴァーンの寝床にしたい旨を伝えたが、やはり母には決定権がなかった。しかし、母が後押ししてくれるとのことで、既成事実を作るべく俺達は倉庫の片付けを始めた。
元々あまり荷物が入っていなかった倉庫なので、荷物自体は少し動かすだけで済んだ。その分、余った労力でしっかり掃除を行った。
日が暮れて父が帰ってくると、冒険者になったことを褒められ、冒険者学校で知り合った仲間を倉庫に住まわせる件を了承してくれた。更に、伯父さんに伏魔殿への立ち入り許可の件もお願いしてくれると言われた。
至れり尽くせりな父の対応に若干怪しんだりしてみたが、父が息子を謀ることもないだろう、と俺は素直に感謝した。
「しかし、流石っすね」
「何が?」
「この倉庫っす」
「倉庫がどうかした?」
「自分の実家は、この倉庫より遥かにボロっす」
「……そうなのか」
俺は底辺貴族の息子として生きてきたし、日本人の感覚も相まって、自分の置かれている生活環境は恵まれているとは思っていなかった。だが、ヨルクに倉庫よりボロい家に住んでいたと言われると、何とも返事に困ってしまった。
「おはよー」
「おはようございますぅ」
「起きてるのはイルザだけか?」
「そうですよぉ。いつもあたしが皆を起こすのですよぉ。リーダーは早起きなのですねぇ~」
「早起きなのかな? 俺にはこれが普通だから、早起きとは思ってないんだけどな。朝の鍛錬ももう姉ちゃんとやってきたし」
「えっ?」
日課の鍛錬を終わらせ、シュヴァーンのメンバーも既に起きているかと倉庫に顔を出してみると、起きていたのはイルザだけだった。
そして、俺とエルフィは既に朝の鍛錬を終わらせたとイルザに伝えると、凄く驚いた表情をされてしまった。
その表情も可愛い。
「今朝は母屋の方で朝食を用意してあるから、すぐに皆を起こして連れてきてくれ」
「かしこまりましたぁ~」
先程の驚愕の表情から一変、いつもの柔和な表情に戻ったイルザが、いつもどおりの間延びした口調で返事をしてくれた。
朝から癒されるなぁ~。
朝食を済ませると、今日は予定どおり冒険者ギルドへ顔を出す。
「ここがメルケル領の領都、メルケルムルデの冒険者ギルドっすか」
「キーファシュタットのギルドよりちっさいねー」
「それでも人が一杯」
「活気がありますぅ」
メルケル領の領民であるシュヴァーンの四人だが、冒険者学校に入学するまでは地元の村すら出たことすらなかったので、領都であるメルケルムルデにきたのも当然初めてであり、皆が思い思いに感想を語っていた。
「メルケル領は王国の南西の端っこにあるから、周囲は伏魔殿だらけだからね。冒険者を入れて魔物退治をしないと氾濫が起こる可能性もある。だから、冒険者が多くいる街なんだよ。それでも辺境伯の治めるキーファーと違ってここは男爵領だから、財政的に大きな建物が建てられなかったんだろうね」
そうなのだ、メルケル領は僻地の領地なので、隣接する領地はキーファー辺境伯領しかなく、それ以外は伏魔殿に囲まれているのだ。それ故、冒険者には住み易い土地ではある。
そんなメルケル領だが、他の領地のように伏魔殿を平定した土地を開梱して拓かれたのだが、より深い土地まで進行する予定だったらしく、領都のメルケルムルデは領の最奥にある。が、結果的に伏魔殿の平定ができていない。その所為で、領都なのにも拘らず、伏魔殿に対して最前線に位置しているのだ。
「さて、登録手続きは……」
「あそこじゃないですかぁ?」
「そうっぽいな」
今日は何をしに冒険者ギルドに来ているのかと言うと、所属ギルド登録をするために来ているのだ。
俺達は冒険者学校を卒業した時点で冒険者証明書を発行して貰っているのだが、自分が主戦場とするギルドに『ここを冒険者としての活動拠点とします』といった手続きをする必要がある。
この手続をした時点で、王国民の義務である何かしらのギルドに加盟したことになるのだ。
現状の俺は、王領従事ギルドに加盟している父の庇護下にあるのだが、これで俺も個人的な証明書を得られる。とはいえ、俺が結婚して家庭を持つか父が爵位を失うまで、俺は貴族の子供として『ブリッツェン・ツー・メルケル』を名乗れるので、完全に独り立ちしたわけではない。
しかし、農民や猟師の子であるシュヴァーンの皆は、この手続により『冒険者』として独り立ちしたことになる。
「次の人」
ギルドという謂わば役所のような場所の窓口を担当するには、些か威圧感のあり過ぎるゴツいオッサンに呼ばれた。
「はい」
「今日は何の手続きだ」
「所属ギルド登録の手続きです」
「書類の書き込みが済んでるなら出してくれ」
「全員で五人分です」
「確認するから少し待ってろ」
「はい」
今日から神殿に復帰したエルフィはこられなかったので、俺を含めた五人の書類を提出した。
「先程は大変失礼いたしましたメルケル様」
「かまいません」
「ありがとうございます。では、書類の確認が終了いたしました。皆様は本日よりメルケルムルデ所属の冒険者となります。ご相談などありましたら、いつでもお声掛けください」
「ありがとうございました」
いつもの、窓口の人が『横柄な態度から貴族に対する態度に変化する』儀式を経て、俺達はメルケルムルデ所属の冒険者となった。
そして、既に何度も経験している横柄な人が急に畏まる態度の変化だが、俺は未だにこれに馴染めない。
さて、冒険者のランクについてだが、俺達のような十二歳未満の仮冒険者は必ずFランクから始まる。そして、この期間はいくら功績があってもランクは上がらず、十二歳になって正式な冒険者になるとEランクに自動昇格する。
そして、素材を剥ぎ取る前に魔石を取ってしまい、消えてしまう素材を提出するとマイナス評価が付くのだが、これはランクが上がっても消えるものではなく、冒険者を生業にしている以上は一生消せない。それ程、素材の剥ぎ取りミスの有無は重要視されているのだ。
更に、EランクからDランクに昇格するには、伏魔殿での実績が必要になる。しかし、敢えてそうしない者がおり、その者達は通常の動物を狩る猟師だ。
そんな猟師だが、冒険者学校で伏魔殿に入って魔物を狩った経験があるはずなのだが、それでも伏魔殿には入らない。何故なら、腹の足しにならない魔物ではなく、食肉を確保する猟師は無くてはならない存在だからだ。
伏魔殿に入るのは、高価な素材を求める一攫千金狙いの命知らずで、猟師になるのは比較的安定志向の者、と住み分けられているらしい。
Dランク以上に関しては、色々と条件があるので今回は割愛する。
閑話休題。
「リーダー、依頼はどうするっすか?」
「伏魔殿に入れない間は受けなくて良いんじゃないかな。イノシシやらシカやらを狩って換金するだけでもそれなりの収入になるし。それに、Fランクの依頼に狩りは殆どないだろ? でも、狩った獲物がたまたま素材確保の依頼としてあったら、それは受けても良いな」
「地道な活動も大切ですよぉ」
「自分はやっぱり狩りがしたいっす」
「あーしもー」
「マーヤも」
神官見習いのイルザは、Fランク冒険者が行う地道な奉仕的依頼を受けるのも大切だと言うが、他の皆は狩りがしたいと言うことで、イルザには申し訳ないが地道な依頼は受けないと決定した。
イルザはやや不満顔であったが、皆の意思を尊重して受け入れてくれた。
ちょっと不貞腐れたイルザも可愛いなぁ~。……って、呆けている場合じゃない。
「さて、キーファシュタットからの旅で暫く狩りをやってなかったからな。少し運動がてら狩りに行こうか」
「賛成ですぅ」
狩りだけを行う決定に不満を持っていたはずのイルザが、なぜかいの一番に賛成の意を表明した。
おっとり口調と優しそうな見た目からは想像できないが、何だかんだイルザは好戦的なのである。
そして、他のメンバーも狩りがしたかったようで、意気揚々と森へと足を進めたのだ。
「伏魔殿で魔物と戦っていたから動物相手では物足りないかもしれないけど、決して油断しないようにね。油断すれば例え相手がシカやイノシシでも大怪我するよ」
そんなのわかっている、と皆は軽く言うが、しっかり真剣な表情になっているので大丈夫だろう。
こうして、数日ぶりの実践であり、仮冒険者となって初めての狩りに向かうのであった。
「今日でこの寄宿舎ともお別れだな」
「はぁ~――。メルケル領に戻って神官見習いとして働かなければならないのね……」
「姉ちゃんはそっちが本業なんだよ」
「……わかっているわよ」
無事に卒業試験に合格した俺達は、まだ仮冒険者なので伏魔殿には入れないが、通常の動物なら素材の換金が自分でできるようになった。
「でも姉ちゃんはいいよな」
「何がよ?」
「神殿が休みの日には伏魔殿に入れるんだよ」
「それなら、ブリッツェンは十二歳になったら毎日入れるのよ。あんたの方が羨ましいわよ」
「それはそうなんだけど、せっかく冒険者の資格を得たのに一年も伏魔殿に入れないなんて……」
これは元からわかっていたことだが、いざその現実に直面すると、やはり悔しく思ってしまうのは仕方ないだろう。
「それなら、メルケル本家の伯父様にお願いしてみたら?」
「何のお願い?」
「メルケル領の伏魔殿に入れるようによ」
「メルケル領の伏魔殿? ……その手があったか!」
メルケル本家であるメルケル男爵家は、自領に伏魔殿を持っている。そして、領主は領主権限で伏魔殿に出入りする権利を与えられる。
領主権限は、本来冒険者ではない自領の兵士などを魔物を狩るため、伏魔殿に立ち入る許可を与える目的で設定されたものなのだ。しかし、領主権限で伏魔殿に入った者が死傷した場合、領主がその責任を負う必要があるので、誰にでもほいほいと許可を与えたりしない。
ただし、許可を与えられた者が貴族であった場合、その責任は伏魔殿に入った貴族本人にある。なので、仮に俺が伯父さんからメルケル領の伏魔殿に入る許可を貰った場合、俺が死傷してもそれは俺の責任なので、伯父さんに迷惑がかからないのだ。
「姉ちゃん、俺はメルケル領に帰ったら、ちょっと本家に頼みに行ってみるよ」
「どうせなら、一般開放していない伏魔殿に入れるようにしてもらいましょう」
「何で?」
「あたしも神殿が休みの日には伏魔殿に入るからよ。誰も入らない場所なら魔法の練習もし易いでしょ」
「それもそうだね。よし、そうしよう」
そんな訳で、メルケル領に戻ったら本家の伯父さんに伏魔殿に入れてもらえるよう、お願いに行くことにした。
「……で、皆はやっぱり家にくるの?」
「リーダー、今更ダメとか言わないっすよね?」
「一応、父さんを説得してみるけど、許可が貰えるかはわからないよ」
「ダメで元々なんだからかまわないよー」
「はいはい」
「はいは一回ですよう」
「はい」
「よろしい」
シュヴァーンの四人は、どうしても俺と一緒に行動したいらしく、メルケル騎士爵家にテント生活で構わないから居候させてくれと言い出した。流石に常時テント生活は可哀想なので、倉庫を整理して住めるようにし、そこに居候できないか父に掛け合ってみることになっていた。
最早お馴染みとなった乗合馬車の旅を経てメルケル領に帰ってきた俺達シュヴァーン一行は、メルケル騎士爵家の館に到着した。
「ただいまー」
「ただいま戻りましたわ」
「おかえりなさい。――エルフィ、ちょっとこちらへいらっしゃい」
「何ですのお母様?」
置き手紙一つで家を出て冒険者学校に入学した間抜けな事実を忘れていたエルフィは、何も考えず普通に帰宅したので母に連れ去られて行った。ここからガッツリお説教を受けるのだろう。
うん、姉ちゃんのポンコツ具合は相変わらずだな、
「ちょっと長くなるだろうから、取り敢えず皆はここで休んでて」
シュヴァーンの四人をリビングに通し、少し休んでいてもらう。
暫くしてエルフィへの説教が終わった母に、倉庫を片付けてシュヴァーンの寝床にしたい旨を伝えたが、やはり母には決定権がなかった。しかし、母が後押ししてくれるとのことで、既成事実を作るべく俺達は倉庫の片付けを始めた。
元々あまり荷物が入っていなかった倉庫なので、荷物自体は少し動かすだけで済んだ。その分、余った労力でしっかり掃除を行った。
日が暮れて父が帰ってくると、冒険者になったことを褒められ、冒険者学校で知り合った仲間を倉庫に住まわせる件を了承してくれた。更に、伯父さんに伏魔殿への立ち入り許可の件もお願いしてくれると言われた。
至れり尽くせりな父の対応に若干怪しんだりしてみたが、父が息子を謀ることもないだろう、と俺は素直に感謝した。
「しかし、流石っすね」
「何が?」
「この倉庫っす」
「倉庫がどうかした?」
「自分の実家は、この倉庫より遥かにボロっす」
「……そうなのか」
俺は底辺貴族の息子として生きてきたし、日本人の感覚も相まって、自分の置かれている生活環境は恵まれているとは思っていなかった。だが、ヨルクに倉庫よりボロい家に住んでいたと言われると、何とも返事に困ってしまった。
「おはよー」
「おはようございますぅ」
「起きてるのはイルザだけか?」
「そうですよぉ。いつもあたしが皆を起こすのですよぉ。リーダーは早起きなのですねぇ~」
「早起きなのかな? 俺にはこれが普通だから、早起きとは思ってないんだけどな。朝の鍛錬ももう姉ちゃんとやってきたし」
「えっ?」
日課の鍛錬を終わらせ、シュヴァーンのメンバーも既に起きているかと倉庫に顔を出してみると、起きていたのはイルザだけだった。
そして、俺とエルフィは既に朝の鍛錬を終わらせたとイルザに伝えると、凄く驚いた表情をされてしまった。
その表情も可愛い。
「今朝は母屋の方で朝食を用意してあるから、すぐに皆を起こして連れてきてくれ」
「かしこまりましたぁ~」
先程の驚愕の表情から一変、いつもの柔和な表情に戻ったイルザが、いつもどおりの間延びした口調で返事をしてくれた。
朝から癒されるなぁ~。
朝食を済ませると、今日は予定どおり冒険者ギルドへ顔を出す。
「ここがメルケル領の領都、メルケルムルデの冒険者ギルドっすか」
「キーファシュタットのギルドよりちっさいねー」
「それでも人が一杯」
「活気がありますぅ」
メルケル領の領民であるシュヴァーンの四人だが、冒険者学校に入学するまでは地元の村すら出たことすらなかったので、領都であるメルケルムルデにきたのも当然初めてであり、皆が思い思いに感想を語っていた。
「メルケル領は王国の南西の端っこにあるから、周囲は伏魔殿だらけだからね。冒険者を入れて魔物退治をしないと氾濫が起こる可能性もある。だから、冒険者が多くいる街なんだよ。それでも辺境伯の治めるキーファーと違ってここは男爵領だから、財政的に大きな建物が建てられなかったんだろうね」
そうなのだ、メルケル領は僻地の領地なので、隣接する領地はキーファー辺境伯領しかなく、それ以外は伏魔殿に囲まれているのだ。それ故、冒険者には住み易い土地ではある。
そんなメルケル領だが、他の領地のように伏魔殿を平定した土地を開梱して拓かれたのだが、より深い土地まで進行する予定だったらしく、領都のメルケルムルデは領の最奥にある。が、結果的に伏魔殿の平定ができていない。その所為で、領都なのにも拘らず、伏魔殿に対して最前線に位置しているのだ。
「さて、登録手続きは……」
「あそこじゃないですかぁ?」
「そうっぽいな」
今日は何をしに冒険者ギルドに来ているのかと言うと、所属ギルド登録をするために来ているのだ。
俺達は冒険者学校を卒業した時点で冒険者証明書を発行して貰っているのだが、自分が主戦場とするギルドに『ここを冒険者としての活動拠点とします』といった手続きをする必要がある。
この手続をした時点で、王国民の義務である何かしらのギルドに加盟したことになるのだ。
現状の俺は、王領従事ギルドに加盟している父の庇護下にあるのだが、これで俺も個人的な証明書を得られる。とはいえ、俺が結婚して家庭を持つか父が爵位を失うまで、俺は貴族の子供として『ブリッツェン・ツー・メルケル』を名乗れるので、完全に独り立ちしたわけではない。
しかし、農民や猟師の子であるシュヴァーンの皆は、この手続により『冒険者』として独り立ちしたことになる。
「次の人」
ギルドという謂わば役所のような場所の窓口を担当するには、些か威圧感のあり過ぎるゴツいオッサンに呼ばれた。
「はい」
「今日は何の手続きだ」
「所属ギルド登録の手続きです」
「書類の書き込みが済んでるなら出してくれ」
「全員で五人分です」
「確認するから少し待ってろ」
「はい」
今日から神殿に復帰したエルフィはこられなかったので、俺を含めた五人の書類を提出した。
「先程は大変失礼いたしましたメルケル様」
「かまいません」
「ありがとうございます。では、書類の確認が終了いたしました。皆様は本日よりメルケルムルデ所属の冒険者となります。ご相談などありましたら、いつでもお声掛けください」
「ありがとうございました」
いつもの、窓口の人が『横柄な態度から貴族に対する態度に変化する』儀式を経て、俺達はメルケルムルデ所属の冒険者となった。
そして、既に何度も経験している横柄な人が急に畏まる態度の変化だが、俺は未だにこれに馴染めない。
さて、冒険者のランクについてだが、俺達のような十二歳未満の仮冒険者は必ずFランクから始まる。そして、この期間はいくら功績があってもランクは上がらず、十二歳になって正式な冒険者になるとEランクに自動昇格する。
そして、素材を剥ぎ取る前に魔石を取ってしまい、消えてしまう素材を提出するとマイナス評価が付くのだが、これはランクが上がっても消えるものではなく、冒険者を生業にしている以上は一生消せない。それ程、素材の剥ぎ取りミスの有無は重要視されているのだ。
更に、EランクからDランクに昇格するには、伏魔殿での実績が必要になる。しかし、敢えてそうしない者がおり、その者達は通常の動物を狩る猟師だ。
そんな猟師だが、冒険者学校で伏魔殿に入って魔物を狩った経験があるはずなのだが、それでも伏魔殿には入らない。何故なら、腹の足しにならない魔物ではなく、食肉を確保する猟師は無くてはならない存在だからだ。
伏魔殿に入るのは、高価な素材を求める一攫千金狙いの命知らずで、猟師になるのは比較的安定志向の者、と住み分けられているらしい。
Dランク以上に関しては、色々と条件があるので今回は割愛する。
閑話休題。
「リーダー、依頼はどうするっすか?」
「伏魔殿に入れない間は受けなくて良いんじゃないかな。イノシシやらシカやらを狩って換金するだけでもそれなりの収入になるし。それに、Fランクの依頼に狩りは殆どないだろ? でも、狩った獲物がたまたま素材確保の依頼としてあったら、それは受けても良いな」
「地道な活動も大切ですよぉ」
「自分はやっぱり狩りがしたいっす」
「あーしもー」
「マーヤも」
神官見習いのイルザは、Fランク冒険者が行う地道な奉仕的依頼を受けるのも大切だと言うが、他の皆は狩りがしたいと言うことで、イルザには申し訳ないが地道な依頼は受けないと決定した。
イルザはやや不満顔であったが、皆の意思を尊重して受け入れてくれた。
ちょっと不貞腐れたイルザも可愛いなぁ~。……って、呆けている場合じゃない。
「さて、キーファシュタットからの旅で暫く狩りをやってなかったからな。少し運動がてら狩りに行こうか」
「賛成ですぅ」
狩りだけを行う決定に不満を持っていたはずのイルザが、なぜかいの一番に賛成の意を表明した。
おっとり口調と優しそうな見た目からは想像できないが、何だかんだイルザは好戦的なのである。
そして、他のメンバーも狩りがしたかったようで、意気揚々と森へと足を進めたのだ。
「伏魔殿で魔物と戦っていたから動物相手では物足りないかもしれないけど、決して油断しないようにね。油断すれば例え相手がシカやイノシシでも大怪我するよ」
そんなのわかっている、と皆は軽く言うが、しっかり真剣な表情になっているので大丈夫だろう。
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