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第五章 自由奔放編
第二十五話 公爵vs父
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「ここが姉さん達が暮らしている家だよ」
「ず、随分と立派な屋敷だな」
「神殿伯であるシュピーゲル枢機卿に可愛がられているからね」
遥か昔に一度だけ王都にきたことがあるだけの父と、今回が初王都の母。二人は物珍しそうにキョロキョロしていたが、”聖女邸”を見て口をアングリとしてしまった。
「そろそろ帰ってくる時間だと思うけど……おっ、噂をすればなんとやらだ」
「あらブリッツェン、どう――お父様、お母様! どうして王都へ?」
「姉さん、詳しい話は屋敷の中で」
「そ、そうね」
王都で会うはずのない両親を目にしたアンゲラは、これまでに見たことのないくらい動揺していた。そして、両親もなんと説明したらいいのやら、といった感じで苦笑いを浮かべている。
「――ってことで、新年の儀に参加するために上京したんだよ」
「お父様が王国貴族になるなんて、まるで夢のようだわ。それもこれも全てブリッツェンのお陰ね」
「うむ。アインスドルフの地を任せてもらえただけでも満足だったのだが、これでゆくゆくはモリッツに爵位を譲ってやれる」
「男爵になれば在地貴族の任命もできるから、ダニー兄さんに土地を与えることもできるよ」
「そうか、モリッツだけではなくダニーもか。これは益々ブリッツェンには頭が上がらんな」
姉達も交えた久しぶりの家族の団欒は、あまりに俺を持ち上げる話ばかりでなんとも面映ゆかった。
ちなみに、王都での師匠は聖女邸でお世話になるのが常なのだが、今回はエドワルダに連れられてフェリクス商会でお世話になっている。
『旅行に行くからその間だけ預かって』と、友人に預けられるペットの如き扱いを師匠にすることになってしまい、申し訳ない気持ちもあったが、当の本人が全く気にしていないので、俺も気にしないことにした。
「じゃあ、俺はアルトゥール様に報告とかあるから公爵邸に帰るね。次に会うのは新年の儀になると思う。それと、王都の案内とかできないから、観光の際にこれを遣って」
「こんな大金――」
「兄さん一家とか村の住人で開拓を頑張ってる人達に、お土産でも買っていってあげてよ。俺はアインスドルフの手伝いもあまり出来ずに父さんに丸投げしちゃったから、これくらいはさせて欲しいな」
「何から何まですまん」
「ちょっ! 父さん、頭を上げてよ」
『貴族は簡単に頭を下げない』
これは在地貴族であってもそうだ。なので、父が俺に頭を下げたのは今が初めてのことだった。
「ブリッツェンは私の子だが、何れは公爵家のお人となる。そして私より上の爵位を賜り、公的に私はブリッツェンより下の立場になる。そうなれば、私が頭を下げるのはおかしなことではないだろ?」
「そ、それはそうなってから考えるよ。だから、今は止めて欲しいな」
「少し意地の悪い言い方をしてしまったが、私がブリッツェンに感謝しているのは確かだ。だから今、爵位が上回られていない今だからこそ、私の感謝の気持ちを受け取ってもらいたい」
「わかったよ父さん。父さんの気持ち、確かに受け取ったよ」
「ありがとうブリッツェン」
同じ家で暮らしながらも、父との接点はあまりなかった。それこそ、俺がブリッツェンとなってからは数える程だ。それがアインスドルフを造ってから少しずつ増え、今回の思いがけない旅行で長い時間を共にし、こうして感謝の気持ちも受け取れた。
これからはまた離れ離れになるけど、この世界の父はやはりこの人だ。
少しセンチな気分になったが、色々ひっくるめて俺も感謝の気持ちでいっぱいになったのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……ブリッツェンが、魔法、使い……なのですか?」
「そうだね。それも非常に優秀な魔法使いだよ」
新年の儀まで父と合わないと思っていたが、状況説明のために父がアルトゥールと顔を合わす場に、当然ながら俺も同席させられている。場所はいつもどおり、勝手知ったるアルトゥールの執務室だ。
ちなみに、養子や叙爵の話を前もって父に説明するようにアルトゥールから連絡を受けていたが、魔法については最上級の秘匿情報なので伝えないように言われていた。そのため、父は俺が魔法使いであると、今初めて知ったのである。
「不敬かと存じますが、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「この場は公式な謁見とかではないからね。気になることがあれば何でも聞いてくれてかまわないよ」
緊張の面持ちの父とは裏腹に、アルトゥールはいつもどおり笑顔だ。
「それではお尋ねいたします。私はブリッツェンの魔法がどの様なものか存じておりません。ですが、公爵がわざわざ養子にまで迎え入れようとしているのは、それだけブリッツェンの魔法が優れているからだと推測いたします。そしてそれは、公爵が私の息子を政治の道具になさろうとしている、そう感じます。――私は、ブリッツェンには自由に生きてもらいたいと思い、冒険者になることも受け入れました。ですが、政治の道具として利用されるのは、父親として見過ごせません」
父自身も言っているが、明らかに不敬罪で処罰されてもおかしくない発言だ。だが、アルトゥールは罰することはしないだろう。
不謹慎かもしれないが、自分の身が危うくなる発言をしてくれた父の気持ちが、俺は素直に嬉しかった。
「政治の道具ではないと言い切れないけれども、何でも命令してブリッツェン君を自由に操ろうとも思っていないよ。あくまで、彼の力を借りたい、と言うのが僕の考えだ」
「では、ドラゴンを討伐させるのは、命令ではないのでしょうか?」
「なかなか手厳しいね」
処罰も厭《いと》わない、そんな決死の覚悟をしているかのような父の言葉。それを苦笑いで躱《かわ》すアルトゥールだが、瞳の奥は真剣な輝きを放っている。
「僕は、お願いとしてブリッツェン君に伝えたつもりなんだけどな」
「公爵からのお願いは、それ即ち命令《・・》かと存じます」
俺が思ってても言えないことを、父はハッキリと口にしてくれた。
「う~ん、僕は命令のつもりは無いんだけれど、そう思われてしまうのか。悲しいなぁ」
「では、公爵の仰るとおり、命令でないのであれば、ドラゴンの討伐などという危険な任務は行なわなくとも良い、ということでしょうか?」
「あくまでお願いだからね、無理強いはできないよ。でもね、『命懸けで必ず倒せ』とは言わないけれど、挑戦はして欲しいと思っている。と言うのも、ここ数年、宮中で不穏な動きがあってね、僕としては好まないのだけれども、王弟としてある程度の戦力を持っていないと拙いんだ。それが、ドラゴンを倒す程の力であれば、かなりの抑止力になると思う」
今まで敢えて言わなかったのか、それともタイミングを見計らっていたのか不明だが、俺も聞いたことのないアルトゥールの思いを聞かされた。
自分は王弟であり宮内伯であり公爵でもあるので、それなりの権力は持っている。だからこそ、敢えて武力を持たないようにしていた。だがそれがいけなかったのか、諸侯が徐々に戦力を集め始めた。自分が侮られているのだろう。
ならば、自分も戦力を持つ必要がある。誰にも負けない屈強な兵団を。
しかし、あまりに多くの兵を集めると、今度は王位の簒奪《さんだつ》を目論んでいる、などと謂れのない憶測が飛び交ってしまうだろう。
そんな時に、魔法使いという存在が手の届く場所に現れた。
いつもなら、ここで不敵な笑みを浮かべそうなアルトゥールだが、今日は何時になく真剣な顔で、その表情を崩さない。
そしてここで、アルトゥールから重大な暴露話をされた。
なんと、俺が”黒瞳黒髪”であることからの推測で、”ブリッツェン・ツー・メルケルは魔法使いある”と確信していたのが、俺の自白で確信が確定に変わったのだと。
なんでも、”黒瞳黒髪”の英雄伝説があり、それは単に御伽噺なだけではなく、実際の歴史にあった話なのだと言う。
そこから”黒瞳黒髪”が忌み子だったり、魔法使いは”劣った者”などの情報が広まり、今日まで残っている。
だが、半ば御伽噺のような伝説なので、何処まで真実味があるかわからないし、俺の力量がどれ程なのか未知でもあった。それでも、俺に賭けるのが一番良い、そう判断したようだ。
少し話が逸れるが、ドラゴンを倒すのは難しい。
それは、ドラゴンそのものの力量も然ることながら、伏魔殿の奥地に生息していることが理由である。
というのも、ドラゴンが生息するほどの伏魔殿は広大であり、ボスに辿り着くまでに多くの魔物と戦闘しなければならないわけで、必ずしも万全の状態でドラゴンと対峙できるとは限らないからだ。
もしかしたら、ドラゴンを仕留めるだけであれば、多くの兵であたれば簡単なのかもしれない。だが、その兵をドラゴンの前まで万全の状態で辿り着かせられないのだから、ドラゴンを倒すのが難しいと言われているのも仕方ないだろう。
他にも理由があるのだが、今回は割愛する。
それを踏まえると、ドラゴンを倒せる個の力を有することは、屈強な兵団を有しているのと同じくらいの意味を持つ。だが、その個がドラゴンを倒せても、それが多くの兵士からなる軍隊と同じかと言うと、それはまた違う。
シュタルクシルト王国では、個がドラゴンを仕留めるのは御伽噺の中だけであり、現実には軍隊の力が勝っていると思われている。
だからといって、個の力は侮ってよい存在ではない。
それらのことから、俺がドラゴンを倒せる力があると知らしめることは、抑止力足り得る。とアルトゥールは言う。
それこそ、個の力でドラゴンを倒せるなどと思っていない者達に、”魔法”で倒したと伝える必要はない。単に、力があることだけを誇示できれば良いのだ、不要な情報の開示などもっての外だ。
そしてもう一つ。俺が領地を持つことについてだ。
これは、アルトゥールとしては既定路線だったのだと言う。
本来は王都の北の伏魔殿、そこのドラゴンを倒して平定し、その地で俺を領主にさせるつもりだったようだ。
――それは俺も可能性として考えていたし、現実的な話であった。ただ、恒久的でないとは思っていたが。
しかし、俺は辺境の地でドラゴンを倒し、伏魔殿を平定してしまった。
そのことで、アルトゥールとしては予定が変わってしまったが、状況は何気に悪くなかったらしい。
なぜなら王都の北の地は、王都に近いので領兵団をすぐに王都へ向かわせられる利点はあるが、王都に近いがために、これもまた王位簒奪を疑われる。
だがブリッツフォルテであれば、王都への派兵は大変であるが、辺境地であるため、アルトゥールが王位簒奪のための準備とは思われにくい。――実際にはそんな気はないが、そう思われないことも重要だ。
実際、万が一王都で争いが起こった場合、ブリッツフォルテからの派兵は大変だろう。それでも、転移陣があるので一騎当千の俺が素早く動ける。――まだ転移陣の実験はしていないが……。
アルトゥールとしては、それで十分なのだとか。
――俺は自分が一騎当千と言われる程の力を持っていないのを自覚しているので、過大評価されていることに眉をひそめたくなったが、話の腰を折るわけにもいかず、必死に平静を装った。
それはそうと、現状、俺がアルトゥールの子飼いの冒険者であることは知れ渡っている。だが、俺の噂は大概が実際より小さく伝わっている。――噂話とは誇張されがちだが、意図的にエルフィを持ち上げるなどの細工をしていたことが、想定していた事態とは違っても活かされていた――
ブリッツェンという”小者”がドラゴンを倒して叙爵する。しかも辺境地でだ。そいつが多少の軍を持ったところで脅威にはならない。それでも王弟の子飼いにドラゴンスレイヤーがいることは事実だ。王弟を軽く見るのは危険だろう。
アルトゥールはそう思わせられれば良い、と考えている。
「まぁ、予測で行動しているから、全てが想定通りにはならないのは僕も理解しているよ。だから、状況に応じて臨機応変にしているつもりだ」
「私のような田舎者に、公爵のお考えや中央の政治事情はわかりかねます」
父の発言に、アルトゥールが苦笑いを浮かべた。
「ですが、ブリッツェンは既にドラゴンを倒して伏魔殿の平定を成しております。これ以上、ドラゴンの討伐を行なう必要はないのでは?」
父さんは根っからの軍人だからな、俺の扱いがかなり政治的なんだけど、そこまで理解が及んでないんだろう。だから、何となく分かるドラゴンと対峙する危険性について危惧して、こうしてアルトゥール様に突っ込んでいるんだろうけど……。
でも、父親として俺を守ろうとしている父さんの気持ち、俺には痛いほど伝わってきてるよ。
さて、アルトゥール様はどう応えるのかな?
「ず、随分と立派な屋敷だな」
「神殿伯であるシュピーゲル枢機卿に可愛がられているからね」
遥か昔に一度だけ王都にきたことがあるだけの父と、今回が初王都の母。二人は物珍しそうにキョロキョロしていたが、”聖女邸”を見て口をアングリとしてしまった。
「そろそろ帰ってくる時間だと思うけど……おっ、噂をすればなんとやらだ」
「あらブリッツェン、どう――お父様、お母様! どうして王都へ?」
「姉さん、詳しい話は屋敷の中で」
「そ、そうね」
王都で会うはずのない両親を目にしたアンゲラは、これまでに見たことのないくらい動揺していた。そして、両親もなんと説明したらいいのやら、といった感じで苦笑いを浮かべている。
「――ってことで、新年の儀に参加するために上京したんだよ」
「お父様が王国貴族になるなんて、まるで夢のようだわ。それもこれも全てブリッツェンのお陰ね」
「うむ。アインスドルフの地を任せてもらえただけでも満足だったのだが、これでゆくゆくはモリッツに爵位を譲ってやれる」
「男爵になれば在地貴族の任命もできるから、ダニー兄さんに土地を与えることもできるよ」
「そうか、モリッツだけではなくダニーもか。これは益々ブリッツェンには頭が上がらんな」
姉達も交えた久しぶりの家族の団欒は、あまりに俺を持ち上げる話ばかりでなんとも面映ゆかった。
ちなみに、王都での師匠は聖女邸でお世話になるのが常なのだが、今回はエドワルダに連れられてフェリクス商会でお世話になっている。
『旅行に行くからその間だけ預かって』と、友人に預けられるペットの如き扱いを師匠にすることになってしまい、申し訳ない気持ちもあったが、当の本人が全く気にしていないので、俺も気にしないことにした。
「じゃあ、俺はアルトゥール様に報告とかあるから公爵邸に帰るね。次に会うのは新年の儀になると思う。それと、王都の案内とかできないから、観光の際にこれを遣って」
「こんな大金――」
「兄さん一家とか村の住人で開拓を頑張ってる人達に、お土産でも買っていってあげてよ。俺はアインスドルフの手伝いもあまり出来ずに父さんに丸投げしちゃったから、これくらいはさせて欲しいな」
「何から何まですまん」
「ちょっ! 父さん、頭を上げてよ」
『貴族は簡単に頭を下げない』
これは在地貴族であってもそうだ。なので、父が俺に頭を下げたのは今が初めてのことだった。
「ブリッツェンは私の子だが、何れは公爵家のお人となる。そして私より上の爵位を賜り、公的に私はブリッツェンより下の立場になる。そうなれば、私が頭を下げるのはおかしなことではないだろ?」
「そ、それはそうなってから考えるよ。だから、今は止めて欲しいな」
「少し意地の悪い言い方をしてしまったが、私がブリッツェンに感謝しているのは確かだ。だから今、爵位が上回られていない今だからこそ、私の感謝の気持ちを受け取ってもらいたい」
「わかったよ父さん。父さんの気持ち、確かに受け取ったよ」
「ありがとうブリッツェン」
同じ家で暮らしながらも、父との接点はあまりなかった。それこそ、俺がブリッツェンとなってからは数える程だ。それがアインスドルフを造ってから少しずつ増え、今回の思いがけない旅行で長い時間を共にし、こうして感謝の気持ちも受け取れた。
これからはまた離れ離れになるけど、この世界の父はやはりこの人だ。
少しセンチな気分になったが、色々ひっくるめて俺も感謝の気持ちでいっぱいになったのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……ブリッツェンが、魔法、使い……なのですか?」
「そうだね。それも非常に優秀な魔法使いだよ」
新年の儀まで父と合わないと思っていたが、状況説明のために父がアルトゥールと顔を合わす場に、当然ながら俺も同席させられている。場所はいつもどおり、勝手知ったるアルトゥールの執務室だ。
ちなみに、養子や叙爵の話を前もって父に説明するようにアルトゥールから連絡を受けていたが、魔法については最上級の秘匿情報なので伝えないように言われていた。そのため、父は俺が魔法使いであると、今初めて知ったのである。
「不敬かと存じますが、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「この場は公式な謁見とかではないからね。気になることがあれば何でも聞いてくれてかまわないよ」
緊張の面持ちの父とは裏腹に、アルトゥールはいつもどおり笑顔だ。
「それではお尋ねいたします。私はブリッツェンの魔法がどの様なものか存じておりません。ですが、公爵がわざわざ養子にまで迎え入れようとしているのは、それだけブリッツェンの魔法が優れているからだと推測いたします。そしてそれは、公爵が私の息子を政治の道具になさろうとしている、そう感じます。――私は、ブリッツェンには自由に生きてもらいたいと思い、冒険者になることも受け入れました。ですが、政治の道具として利用されるのは、父親として見過ごせません」
父自身も言っているが、明らかに不敬罪で処罰されてもおかしくない発言だ。だが、アルトゥールは罰することはしないだろう。
不謹慎かもしれないが、自分の身が危うくなる発言をしてくれた父の気持ちが、俺は素直に嬉しかった。
「政治の道具ではないと言い切れないけれども、何でも命令してブリッツェン君を自由に操ろうとも思っていないよ。あくまで、彼の力を借りたい、と言うのが僕の考えだ」
「では、ドラゴンを討伐させるのは、命令ではないのでしょうか?」
「なかなか手厳しいね」
処罰も厭《いと》わない、そんな決死の覚悟をしているかのような父の言葉。それを苦笑いで躱《かわ》すアルトゥールだが、瞳の奥は真剣な輝きを放っている。
「僕は、お願いとしてブリッツェン君に伝えたつもりなんだけどな」
「公爵からのお願いは、それ即ち命令《・・》かと存じます」
俺が思ってても言えないことを、父はハッキリと口にしてくれた。
「う~ん、僕は命令のつもりは無いんだけれど、そう思われてしまうのか。悲しいなぁ」
「では、公爵の仰るとおり、命令でないのであれば、ドラゴンの討伐などという危険な任務は行なわなくとも良い、ということでしょうか?」
「あくまでお願いだからね、無理強いはできないよ。でもね、『命懸けで必ず倒せ』とは言わないけれど、挑戦はして欲しいと思っている。と言うのも、ここ数年、宮中で不穏な動きがあってね、僕としては好まないのだけれども、王弟としてある程度の戦力を持っていないと拙いんだ。それが、ドラゴンを倒す程の力であれば、かなりの抑止力になると思う」
今まで敢えて言わなかったのか、それともタイミングを見計らっていたのか不明だが、俺も聞いたことのないアルトゥールの思いを聞かされた。
自分は王弟であり宮内伯であり公爵でもあるので、それなりの権力は持っている。だからこそ、敢えて武力を持たないようにしていた。だがそれがいけなかったのか、諸侯が徐々に戦力を集め始めた。自分が侮られているのだろう。
ならば、自分も戦力を持つ必要がある。誰にも負けない屈強な兵団を。
しかし、あまりに多くの兵を集めると、今度は王位の簒奪《さんだつ》を目論んでいる、などと謂れのない憶測が飛び交ってしまうだろう。
そんな時に、魔法使いという存在が手の届く場所に現れた。
いつもなら、ここで不敵な笑みを浮かべそうなアルトゥールだが、今日は何時になく真剣な顔で、その表情を崩さない。
そしてここで、アルトゥールから重大な暴露話をされた。
なんと、俺が”黒瞳黒髪”であることからの推測で、”ブリッツェン・ツー・メルケルは魔法使いある”と確信していたのが、俺の自白で確信が確定に変わったのだと。
なんでも、”黒瞳黒髪”の英雄伝説があり、それは単に御伽噺なだけではなく、実際の歴史にあった話なのだと言う。
そこから”黒瞳黒髪”が忌み子だったり、魔法使いは”劣った者”などの情報が広まり、今日まで残っている。
だが、半ば御伽噺のような伝説なので、何処まで真実味があるかわからないし、俺の力量がどれ程なのか未知でもあった。それでも、俺に賭けるのが一番良い、そう判断したようだ。
少し話が逸れるが、ドラゴンを倒すのは難しい。
それは、ドラゴンそのものの力量も然ることながら、伏魔殿の奥地に生息していることが理由である。
というのも、ドラゴンが生息するほどの伏魔殿は広大であり、ボスに辿り着くまでに多くの魔物と戦闘しなければならないわけで、必ずしも万全の状態でドラゴンと対峙できるとは限らないからだ。
もしかしたら、ドラゴンを仕留めるだけであれば、多くの兵であたれば簡単なのかもしれない。だが、その兵をドラゴンの前まで万全の状態で辿り着かせられないのだから、ドラゴンを倒すのが難しいと言われているのも仕方ないだろう。
他にも理由があるのだが、今回は割愛する。
それを踏まえると、ドラゴンを倒せる個の力を有することは、屈強な兵団を有しているのと同じくらいの意味を持つ。だが、その個がドラゴンを倒せても、それが多くの兵士からなる軍隊と同じかと言うと、それはまた違う。
シュタルクシルト王国では、個がドラゴンを仕留めるのは御伽噺の中だけであり、現実には軍隊の力が勝っていると思われている。
だからといって、個の力は侮ってよい存在ではない。
それらのことから、俺がドラゴンを倒せる力があると知らしめることは、抑止力足り得る。とアルトゥールは言う。
それこそ、個の力でドラゴンを倒せるなどと思っていない者達に、”魔法”で倒したと伝える必要はない。単に、力があることだけを誇示できれば良いのだ、不要な情報の開示などもっての外だ。
そしてもう一つ。俺が領地を持つことについてだ。
これは、アルトゥールとしては既定路線だったのだと言う。
本来は王都の北の伏魔殿、そこのドラゴンを倒して平定し、その地で俺を領主にさせるつもりだったようだ。
――それは俺も可能性として考えていたし、現実的な話であった。ただ、恒久的でないとは思っていたが。
しかし、俺は辺境の地でドラゴンを倒し、伏魔殿を平定してしまった。
そのことで、アルトゥールとしては予定が変わってしまったが、状況は何気に悪くなかったらしい。
なぜなら王都の北の地は、王都に近いので領兵団をすぐに王都へ向かわせられる利点はあるが、王都に近いがために、これもまた王位簒奪を疑われる。
だがブリッツフォルテであれば、王都への派兵は大変であるが、辺境地であるため、アルトゥールが王位簒奪のための準備とは思われにくい。――実際にはそんな気はないが、そう思われないことも重要だ。
実際、万が一王都で争いが起こった場合、ブリッツフォルテからの派兵は大変だろう。それでも、転移陣があるので一騎当千の俺が素早く動ける。――まだ転移陣の実験はしていないが……。
アルトゥールとしては、それで十分なのだとか。
――俺は自分が一騎当千と言われる程の力を持っていないのを自覚しているので、過大評価されていることに眉をひそめたくなったが、話の腰を折るわけにもいかず、必死に平静を装った。
それはそうと、現状、俺がアルトゥールの子飼いの冒険者であることは知れ渡っている。だが、俺の噂は大概が実際より小さく伝わっている。――噂話とは誇張されがちだが、意図的にエルフィを持ち上げるなどの細工をしていたことが、想定していた事態とは違っても活かされていた――
ブリッツェンという”小者”がドラゴンを倒して叙爵する。しかも辺境地でだ。そいつが多少の軍を持ったところで脅威にはならない。それでも王弟の子飼いにドラゴンスレイヤーがいることは事実だ。王弟を軽く見るのは危険だろう。
アルトゥールはそう思わせられれば良い、と考えている。
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「私のような田舎者に、公爵のお考えや中央の政治事情はわかりかねます」
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「ですが、ブリッツェンは既にドラゴンを倒して伏魔殿の平定を成しております。これ以上、ドラゴンの討伐を行なう必要はないのでは?」
父さんは根っからの軍人だからな、俺の扱いがかなり政治的なんだけど、そこまで理解が及んでないんだろう。だから、何となく分かるドラゴンと対峙する危険性について危惧して、こうしてアルトゥール様に突っ込んでいるんだろうけど……。
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