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第六章 領主準備編
第二話 若手
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「今日から伏魔殿の魔物狩りを行なう。北西部はディアナ達、南西部を俺達が回る。ボスの討伐は二週間後を予定しているので、極力撃ち漏らしのないように」
伏魔殿の平定はボスの討伐が大変ではあることは言わずもがなだが、実はその後の魔物の残党狩りも大変だ。
そして今回、平定後は冒険者や騎士団に残党狩りをしてもらう。だが、それらの者達がブリッツフォルテの方に入り込むのは、少々塩梅がよろしくない。
なので、今から”伏魔殿西部――ブリッツフォルテ寄り――の魔物を可能な限り減らす”事前作業を行なうのだ。
今回の伏魔殿平定について、アルトゥールとは前もって通信魔道具で遣り取りをしており、ゆくゆくは俺の領地に駐在する予定の騎士団は、後十日程でアインスドルフに到着する予定だ。
そしてその騎士団は伏魔殿平定後、当面はアインスドルフに駐留する。なぜなら、ブリッツフォルテの存在は現状秘匿されているので、建前上は新領主のヴィンター騎士爵が王国騎士団を迎え入れる、ということにしてあるからだ。
事前作業の魔物狩りは、順調に行なわれていた。
ヨルクはモルトケから魔法剣士としての指導を受けており、盾一辺倒から以前のラウンドシールドと片手剣の戦闘スタイルに戻っている。
そんなヨルクの得意な炎属性だが、森の中で放出してしまうと周囲の火災が気になる。しかし、モルトケに仕込まれた戦闘スタイルは剣に炎を纏わせる戦い方で、不必要に炎を撒き散らす心配がない。
そのため、要らぬ心配をせずに戦えているようだ。
マーヤはアンゲラ同様、弓から放たれた矢を風属性魔法で操作している。
以前試していた炎属性では、やはり矢が燃え尽きてしまうので、アンゲラ方式を採用したようだ。四大属性に適性のあるマーヤらしく、選択肢が多くあるのは強みである。
そんなマーヤは、もとから弓が得意で狙いが正確なうえに連射速度もアンゲラを上回っているので、ゴブリンなどの”あまり強くないが数が多い魔物の数減らし”には相性が良い。
ミリィはなかなか器用で、風属性で移動速度を上げ、炎属性で槍の穂先に炎を纏わせて近接戦を行なっている。まだエルフィの技は会得できていないので、それほど速く動けないが、修業期間の短さを考慮すると大したものだろう。落ち着いたら、エドワルダやルイーザなどと切磋琢磨しあって欲しいものだ。
また、ミリィの視野の広さは健在で、シュヴァーンでの指示はミリィが出している。
魔法を覚える前は、シュヴァーンで唯一身体強化の魔術が使えなかったイルザ。それでも重たいメイスを振り回していたのだが、魔法で自己強化ができるようになった現在、彼女の力強さは更に増している。
それ自体は良いことなのだが、斧に風を纏わせて木を切り倒す作業をしていた所為か、そのままメイン武器がメイスから斧に変わってしまったのだ。
神官服を着た”見た目おっとり少女”が勇ましく斧を振り回す様は、なんだか残念な気持ちにさせられる。
そんなシュヴァーンの四名は、冒険者としての下地があるので、まだ魔法使い歴が浅い割に良く動けていると思う。
同じく冒険者のエドワルダは、今ではエルフィと遜色ない速さで動き、エルフィ以上のパワーで大剣を振るうので、殲滅力はエドワルダの方が上かもしれない。だが、器用さに欠けるので、戦闘力そのものではまだエルフィの方が上だ。
エドワルダもレイピアとはいわないまでも、せめて片手剣くらいにすれば色々とエルフィを上回るだろうが、しっくりくる感覚を重要視しているようで、未だに大剣を持ち続けている。
公爵家組はシェーンハイトを守ることが何よりも優先されるので、積極的に魔物を狩ることはしていない。
消極的な彼女らを”伏魔殿に入れない”という選択肢もあったのだが、俺と別行動をし、その結果シェーンハイトに何かあったら困る、という後ろ向き且つ過保護な考えと、実践の緊張感の中で魔法を使うことを学んで欲しい前向きな考えから、彼女達も連れてきているのだ。
シェーンハイトは皆に防護膜を付与して、自身も自己強化で咄嗟に動けるようにしている。また、他の者が戦闘に夢中で疎かになる周囲の探索も行なっており、時折戦闘範囲外に現れた魔物の存在を皆に伝えていた。
ルイーザとルイーゼは、基本的にシェーンハイトを護衛しているのだが、彼女達にも戦闘経験を積ませたいため、タイミングを見計らっては俺がシェーンハイトを守り、二人も魔物と戦わせている。
ルイーザは風砲移速魔法でまずまずの動きを見せていたが、まだ速度が今ひとつだ。それでも、元から剣の腕が上々な彼女は、剣に炎を纏わせる戦闘スタイルが合っていたようで、少ない交戦ながらも存在感をアピールしている。
持ち前の真面目さで、これからもコツコツ努力を積み重ね、さらなる成長を見せてくれそうだ。
剣の腕ではルイーザに劣るルイーゼは、今では完全に魔法を主体とした戦闘スタイルになっている。それも守備的な感じで。
そして、ムラッ気があるのは相変わらずだが、集中ができているときのルイーゼの魔法行使速度は速く、咄嗟に魔物の退路を塞ぐ土壁を作ったり、落とし穴を出現させたりと、自身で仕留めるには至らないが、状況に即した魔法を使えているのは素晴らしい。
精神面の成長が追いつけば、護衛としてはかなり有能な人材だろう。
そんな皆を見守るのが今回の俺の役目なのだが、状況を見ながらしれっと放出魔法の攻撃を試している。
王都の北にある伏魔殿。そこでドラゴン退治をすることは確定ではないが、俺はやり合うつもりだ。
それを念頭に置き、可能であれば飛行中のドラゴンを魔法で仕留めたい。それが無理でも、ドラゴンを撃ち落として地上戦で優位に立てるくらいドラゴンを弱らせたいのだ。
現状の俺は、魔法陣を使用しなければ放出魔法があまり使えない。いや、魔法陣を使い出す前と比べると、格段に使えるようにはなった。しかし、魔法陣を使用すると児戯に等しいので、あまり使えないという他ない。
そんな魔法陣だが、魔法の威力が向上したり、同時に複数の魔法を放出するなど、デメリットはまったくないどころかメリットだけだ。
敢えてデメリットを探すとすれば、魔法陣を出すことで俺が何かしらの魔法を発動しようとしていることが、相手に悟られてしまうことだろう。とはいえ、対人戦であれば魔術より発動が早く、魔物が相手でも距離をしっかり取っていれば問題ない。
何はともあれ、俺を含めた全員が怪我もなく訓練ができているので、今回の伏魔殿はいつにも増して意義のあるものとなっている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「明日はいよいよボス討伐を行なう。通信魔道具でアインスドルフの冒険者、騎士団の準備も整っているとの連絡を受けている。なので、ボス討伐後の残党狩りのことは気にせず、皆はボスの討伐に全力を出してくれ」
野営地にて魔法使い村のメンバーと合流し、明日はボス討伐を行なうことを改めて
皆に伝えた。
「ボスのトロールについて、もう一度詳しく教えて欲しいっす」
既にボスがトロールであることは判明しているので、トロールがどのような魔物であるかは、俺と行動を共にしていたメンバーに伝えてある。だが、魔法使い村のメンバーのことを気遣って、ヨルクはわざわざ質問をしてきたのだ。
ヨルクもなかなか気が回るようになってきたな、と俺は内心で喜ぶが、それを表情には出さない。
「トロールは毛むくじゃらの巨人で、全身を覆う毛が非常に硬い。しかも、攻撃がその毛を通り抜けて身体に傷を与えても、驚異的な回復力で即座に傷が治ってしまう厄介な魔物だ。そして、かなりの膂力があるので、攻撃の一撃一撃が人間には致命傷になり得るほどだ」
「そんな厄介なのをどーやって倒すのー?」
魔法使い村のジェニーが質問してきた。
彼女らはブリッツフォルテにくるまで、『まだ子どもだから』という理由で、伏魔殿の浅い場所にしか入れてもらえていなかった。なので、今回の魔物狩りがとても楽しかったらしく、やる気に満ち溢れている。
「いくら驚異的な回復力であっても、それには限界があるんだ。その限界がどれくらいかは上手く説明できないけど、倒せなくはないよ」
俺は書物から得た情報でトロールを知っている。だが、情報は書き手の感覚で表現されているので、明確な耐久値や回復速度がわからないのだ。そのため、上手く説明できないのだが、倒すのは不可能ではないと思っているのでそう答えた。
それに対しジェニーは、ワクワクした表情で「そーなんだー」と生返事をしてくる。
ちゃんとわかってるのかな? 確か、ジェニーは理論ではなく感覚で理解する天才肌の子だってディアナが言ってたから、イメージし易そうな言葉で伝えてみるか。
「それと、トロールの動きは遅い。大きな身体でノロマな魔物なんて格好の的だろ? それなら、遠くから高威力の魔法をバンバン撃って当てればいいだけだ。どうにかなりそうだと思わないか?」
ジェニーに説明したつもりだったが、フロリアンとロルフにも伝わったようで、魔法使い村の弟子三人が納得の表情を浮かべていた。
しかし、シュヴァーンの皆の表情が硬い。というのも、彼等はまだ放出魔法があまり使えないからだ。
「ブリッツェン、儂らがおればトロールはなんとでもなる。せっかくじゃ、土魔法でトロールの体勢を崩しながら炎を纏わせた剣で攻撃をするのもよかろう。炎での攻撃では傷の治りが遅くなる。その後に魔法で攻撃、再び近接戦と繰り返せば、全員の良い訓練になるじゃろう」
「成る程、それは良い考えだと思います」
師匠の提案を聞き、シュヴァーンと双子の目が輝き、表情が一気に漲《みなぎ》っていた。
というのも、当初の予定では、シュヴァーンらはまたもや自衛に終止する予定だったのだ。それが師匠の案により、今回は攻撃に参加できる。
何もできなかったグリューンドラゴン戦。自分らの不甲斐なさを抱えた彼等に、その雪辱を果たす機会が訪れたのだから、気合が入るのも当然だろう。
それにしても、重い一撃を喰らう危険のある近接戦闘に臆するのではなく、自分たちが伏魔殿のボスと戦えることを喜ぶとは、何とも頼もしいね。
となると、俺や師匠達でしっかりサポートして、危険を少しでも減らさないとだな。
攻撃に傾倒すると守備が疎かになる。そんなのはよくあることなので、『攻撃一辺倒になるな』と注意するのが正しいのだろう。
だが今回のプラン変更により、とにかく彼等だけでボスを倒してもらい、自信を付けさせたい。そのために、守備は俺や師匠達が面倒を見る。
そして天狗にならないよう、『攻守の両方が必要』だと分からせるのは、また別の機会にすれば良いのだ。
「少し予定も変わったし、もう少し具体的に作戦を考えようか」
俺の言葉に、今回の作戦の主役である若手全員が、やる気に満ち溢れた表情で「はい」と返事をしたのであった。
伏魔殿の平定はボスの討伐が大変ではあることは言わずもがなだが、実はその後の魔物の残党狩りも大変だ。
そして今回、平定後は冒険者や騎士団に残党狩りをしてもらう。だが、それらの者達がブリッツフォルテの方に入り込むのは、少々塩梅がよろしくない。
なので、今から”伏魔殿西部――ブリッツフォルテ寄り――の魔物を可能な限り減らす”事前作業を行なうのだ。
今回の伏魔殿平定について、アルトゥールとは前もって通信魔道具で遣り取りをしており、ゆくゆくは俺の領地に駐在する予定の騎士団は、後十日程でアインスドルフに到着する予定だ。
そしてその騎士団は伏魔殿平定後、当面はアインスドルフに駐留する。なぜなら、ブリッツフォルテの存在は現状秘匿されているので、建前上は新領主のヴィンター騎士爵が王国騎士団を迎え入れる、ということにしてあるからだ。
事前作業の魔物狩りは、順調に行なわれていた。
ヨルクはモルトケから魔法剣士としての指導を受けており、盾一辺倒から以前のラウンドシールドと片手剣の戦闘スタイルに戻っている。
そんなヨルクの得意な炎属性だが、森の中で放出してしまうと周囲の火災が気になる。しかし、モルトケに仕込まれた戦闘スタイルは剣に炎を纏わせる戦い方で、不必要に炎を撒き散らす心配がない。
そのため、要らぬ心配をせずに戦えているようだ。
マーヤはアンゲラ同様、弓から放たれた矢を風属性魔法で操作している。
以前試していた炎属性では、やはり矢が燃え尽きてしまうので、アンゲラ方式を採用したようだ。四大属性に適性のあるマーヤらしく、選択肢が多くあるのは強みである。
そんなマーヤは、もとから弓が得意で狙いが正確なうえに連射速度もアンゲラを上回っているので、ゴブリンなどの”あまり強くないが数が多い魔物の数減らし”には相性が良い。
ミリィはなかなか器用で、風属性で移動速度を上げ、炎属性で槍の穂先に炎を纏わせて近接戦を行なっている。まだエルフィの技は会得できていないので、それほど速く動けないが、修業期間の短さを考慮すると大したものだろう。落ち着いたら、エドワルダやルイーザなどと切磋琢磨しあって欲しいものだ。
また、ミリィの視野の広さは健在で、シュヴァーンでの指示はミリィが出している。
魔法を覚える前は、シュヴァーンで唯一身体強化の魔術が使えなかったイルザ。それでも重たいメイスを振り回していたのだが、魔法で自己強化ができるようになった現在、彼女の力強さは更に増している。
それ自体は良いことなのだが、斧に風を纏わせて木を切り倒す作業をしていた所為か、そのままメイン武器がメイスから斧に変わってしまったのだ。
神官服を着た”見た目おっとり少女”が勇ましく斧を振り回す様は、なんだか残念な気持ちにさせられる。
そんなシュヴァーンの四名は、冒険者としての下地があるので、まだ魔法使い歴が浅い割に良く動けていると思う。
同じく冒険者のエドワルダは、今ではエルフィと遜色ない速さで動き、エルフィ以上のパワーで大剣を振るうので、殲滅力はエドワルダの方が上かもしれない。だが、器用さに欠けるので、戦闘力そのものではまだエルフィの方が上だ。
エドワルダもレイピアとはいわないまでも、せめて片手剣くらいにすれば色々とエルフィを上回るだろうが、しっくりくる感覚を重要視しているようで、未だに大剣を持ち続けている。
公爵家組はシェーンハイトを守ることが何よりも優先されるので、積極的に魔物を狩ることはしていない。
消極的な彼女らを”伏魔殿に入れない”という選択肢もあったのだが、俺と別行動をし、その結果シェーンハイトに何かあったら困る、という後ろ向き且つ過保護な考えと、実践の緊張感の中で魔法を使うことを学んで欲しい前向きな考えから、彼女達も連れてきているのだ。
シェーンハイトは皆に防護膜を付与して、自身も自己強化で咄嗟に動けるようにしている。また、他の者が戦闘に夢中で疎かになる周囲の探索も行なっており、時折戦闘範囲外に現れた魔物の存在を皆に伝えていた。
ルイーザとルイーゼは、基本的にシェーンハイトを護衛しているのだが、彼女達にも戦闘経験を積ませたいため、タイミングを見計らっては俺がシェーンハイトを守り、二人も魔物と戦わせている。
ルイーザは風砲移速魔法でまずまずの動きを見せていたが、まだ速度が今ひとつだ。それでも、元から剣の腕が上々な彼女は、剣に炎を纏わせる戦闘スタイルが合っていたようで、少ない交戦ながらも存在感をアピールしている。
持ち前の真面目さで、これからもコツコツ努力を積み重ね、さらなる成長を見せてくれそうだ。
剣の腕ではルイーザに劣るルイーゼは、今では完全に魔法を主体とした戦闘スタイルになっている。それも守備的な感じで。
そして、ムラッ気があるのは相変わらずだが、集中ができているときのルイーゼの魔法行使速度は速く、咄嗟に魔物の退路を塞ぐ土壁を作ったり、落とし穴を出現させたりと、自身で仕留めるには至らないが、状況に即した魔法を使えているのは素晴らしい。
精神面の成長が追いつけば、護衛としてはかなり有能な人材だろう。
そんな皆を見守るのが今回の俺の役目なのだが、状況を見ながらしれっと放出魔法の攻撃を試している。
王都の北にある伏魔殿。そこでドラゴン退治をすることは確定ではないが、俺はやり合うつもりだ。
それを念頭に置き、可能であれば飛行中のドラゴンを魔法で仕留めたい。それが無理でも、ドラゴンを撃ち落として地上戦で優位に立てるくらいドラゴンを弱らせたいのだ。
現状の俺は、魔法陣を使用しなければ放出魔法があまり使えない。いや、魔法陣を使い出す前と比べると、格段に使えるようにはなった。しかし、魔法陣を使用すると児戯に等しいので、あまり使えないという他ない。
そんな魔法陣だが、魔法の威力が向上したり、同時に複数の魔法を放出するなど、デメリットはまったくないどころかメリットだけだ。
敢えてデメリットを探すとすれば、魔法陣を出すことで俺が何かしらの魔法を発動しようとしていることが、相手に悟られてしまうことだろう。とはいえ、対人戦であれば魔術より発動が早く、魔物が相手でも距離をしっかり取っていれば問題ない。
何はともあれ、俺を含めた全員が怪我もなく訓練ができているので、今回の伏魔殿はいつにも増して意義のあるものとなっている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「明日はいよいよボス討伐を行なう。通信魔道具でアインスドルフの冒険者、騎士団の準備も整っているとの連絡を受けている。なので、ボス討伐後の残党狩りのことは気にせず、皆はボスの討伐に全力を出してくれ」
野営地にて魔法使い村のメンバーと合流し、明日はボス討伐を行なうことを改めて
皆に伝えた。
「ボスのトロールについて、もう一度詳しく教えて欲しいっす」
既にボスがトロールであることは判明しているので、トロールがどのような魔物であるかは、俺と行動を共にしていたメンバーに伝えてある。だが、魔法使い村のメンバーのことを気遣って、ヨルクはわざわざ質問をしてきたのだ。
ヨルクもなかなか気が回るようになってきたな、と俺は内心で喜ぶが、それを表情には出さない。
「トロールは毛むくじゃらの巨人で、全身を覆う毛が非常に硬い。しかも、攻撃がその毛を通り抜けて身体に傷を与えても、驚異的な回復力で即座に傷が治ってしまう厄介な魔物だ。そして、かなりの膂力があるので、攻撃の一撃一撃が人間には致命傷になり得るほどだ」
「そんな厄介なのをどーやって倒すのー?」
魔法使い村のジェニーが質問してきた。
彼女らはブリッツフォルテにくるまで、『まだ子どもだから』という理由で、伏魔殿の浅い場所にしか入れてもらえていなかった。なので、今回の魔物狩りがとても楽しかったらしく、やる気に満ち溢れている。
「いくら驚異的な回復力であっても、それには限界があるんだ。その限界がどれくらいかは上手く説明できないけど、倒せなくはないよ」
俺は書物から得た情報でトロールを知っている。だが、情報は書き手の感覚で表現されているので、明確な耐久値や回復速度がわからないのだ。そのため、上手く説明できないのだが、倒すのは不可能ではないと思っているのでそう答えた。
それに対しジェニーは、ワクワクした表情で「そーなんだー」と生返事をしてくる。
ちゃんとわかってるのかな? 確か、ジェニーは理論ではなく感覚で理解する天才肌の子だってディアナが言ってたから、イメージし易そうな言葉で伝えてみるか。
「それと、トロールの動きは遅い。大きな身体でノロマな魔物なんて格好の的だろ? それなら、遠くから高威力の魔法をバンバン撃って当てればいいだけだ。どうにかなりそうだと思わないか?」
ジェニーに説明したつもりだったが、フロリアンとロルフにも伝わったようで、魔法使い村の弟子三人が納得の表情を浮かべていた。
しかし、シュヴァーンの皆の表情が硬い。というのも、彼等はまだ放出魔法があまり使えないからだ。
「ブリッツェン、儂らがおればトロールはなんとでもなる。せっかくじゃ、土魔法でトロールの体勢を崩しながら炎を纏わせた剣で攻撃をするのもよかろう。炎での攻撃では傷の治りが遅くなる。その後に魔法で攻撃、再び近接戦と繰り返せば、全員の良い訓練になるじゃろう」
「成る程、それは良い考えだと思います」
師匠の提案を聞き、シュヴァーンと双子の目が輝き、表情が一気に漲《みなぎ》っていた。
というのも、当初の予定では、シュヴァーンらはまたもや自衛に終止する予定だったのだ。それが師匠の案により、今回は攻撃に参加できる。
何もできなかったグリューンドラゴン戦。自分らの不甲斐なさを抱えた彼等に、その雪辱を果たす機会が訪れたのだから、気合が入るのも当然だろう。
それにしても、重い一撃を喰らう危険のある近接戦闘に臆するのではなく、自分たちが伏魔殿のボスと戦えることを喜ぶとは、何とも頼もしいね。
となると、俺や師匠達でしっかりサポートして、危険を少しでも減らさないとだな。
攻撃に傾倒すると守備が疎かになる。そんなのはよくあることなので、『攻撃一辺倒になるな』と注意するのが正しいのだろう。
だが今回のプラン変更により、とにかく彼等だけでボスを倒してもらい、自信を付けさせたい。そのために、守備は俺や師匠達が面倒を見る。
そして天狗にならないよう、『攻守の両方が必要』だと分からせるのは、また別の機会にすれば良いのだ。
「少し予定も変わったし、もう少し具体的に作戦を考えようか」
俺の言葉に、今回の作戦の主役である若手全員が、やる気に満ち溢れた表情で「はい」と返事をしたのであった。
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