魔法の廃れた魔術の世界 ~魔法使いの俺は無事に生きられるのだろうか?~

雨露霜雪

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第六章 領主準備編

第十九話 シュバルツドラゴン

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 仲間たちを信じて進軍することにしたわけだが、大きな魔力が動きを見せることはなかった。

「戦うにしても退くにしても、先ずは相手を見極めてからだと言うのに、相手が全く動きを見せない所為で姿を確認できないな」
「もしかして、大っきい魔鉱石?」
「それはないなエドワルダ。今回は生命反応もあるから、魔鉱石ではないはずだ」

 大きな魔力を持つ存在がいるのは判明していても、その姿が見えない。この事実は、なかなかに精神を削いでくる。

「まぁ、ここまで来て引き返す選択肢はないわけだから、もう少し進んでみよう」
「その前に食事にしよーよー」
「あぁ~、そろそろそんな時間か?」
「わたくしのお腹もそう伝えてきていますわ」

 呑気なジェニーの言葉に、正確な腹時計を持つエルフィが、今更ながら取り繕った言葉で便乗してきた。

「腹が減っては戦はできぬからの」
「見えてはいないですが、気配はそれなりに近くにあるんですよ。大丈夫ですかね?」
「神経を擦り減らし、空腹で身体も動かぬ、なんてことになる方が厄介だと思わんか?」
「そうですけど……」

 未だに師匠の本心が掴みきれない。用心深いようでもあり、お気楽な部分も持ち合わせている。状況により臨機応変に使い分けているのかもしれないが、その使い分けのタイミングというか、判断の基準をどうしているのかがわからないのだ。
 ただ言えることは、その判断はほぼ間違いがない、ということだ。

 それから、見張りを交代で行いながら食事を済ませる。
 それこそ俺の懸念などなんのそので、ただただ平和な時間を過ごしたのだ。

 しかし、束の間の平穏が潰え、風雲急を告げる事態となった。

「――動いた!」

 今の今まで一切の動きを見せなかった巨大な魔力が、何の予兆も見せずに動き出したのである。

「しかも速いですわ」
「これは地を進む速度ではないの」
「ドラゴンか?」

 ディアナ、師匠、モルトケの三人も即座に気付き、一瞬にして気持ちを切り替えた。

「目標をドラゴンと暫定! こちらに向かってきている以上、逃走は困難! 先ずは身を守りつつ相手が何者であるか特定する!」

 俺は思いつく限りの言葉を手短に叫ぶ。それに対し、皆も取り決めどおりの行動をした。

「じゃあ、モルトケとロルフは護衛を。ディアナとフロリアンは羽を潰す。師匠とジェニーは機会を伺って土属性の攻撃から拘束。姉ちゃんは連携の繋ぎ役として機敏に動いて。――取り敢えず、対ドラゴン用の布陣で行こう」

 俺の探索魔法が、迫り来る獲物がドラゴンだと示さない。一度認識した相手であれば、気配を察知した際に何者であるかわかるはずなのにも拘らずだ。
 とはいえ、グリューンドラゴンを知っていてもロートドラゴンには反応しなかったことから、種別の違うドラゴンが別の魔物扱いであることは認識している。
 そして今回、空からやってくる魔物ということで、暫定的にドラゴンであるとしたが、魔力量からしてグリューンドラゴンやロートドラゴンを上回っているので、より上位のドラゴンだと思う。

「属性ドラゴン以上の力を持っておるようじゃが、この地の魔素を全て吸収した程の魔力は持っておらんじゃろう。であれば、儂らにも勝ち目はあるじゃろうが、いきなり襲いかかって良い相手ではないぞ」
「いくらなんでも、いきなり襲いかかったりはしませんよ。――では、師匠たちは……あの辺りに待機していてください」

 緊張を解きほぐすための軽口を叩く師匠に、俺も軽く応えて指示を出す。
 俺達から見て左前方にちょっとした広場が見えたので、師匠たちはそこに待機してもらう。
 木々に囲まれたこの場所は一見安全にも思えるが、炎でも吐かれようものなら辺り一面が火の海となり、逃げることも儘ならなくなる。
 相手がどんな技を使うかわからないのだから、柔軟な対応ができるように心掛けておくのは当然だ。

「では、俺は先に動いていち早く情報収集をしてくるよ。行けるようであれば攻撃に打って出るから、その時は上手く合わせて」
「任せなさい」

 こんな状況でも、余裕に満ちた表情で妖艶さを醸し出すディアナが頼もしい返事をしつつ、大きくて柔らかそうな胸の果実を叩き、その実がブルンブルン揺れていたのだが、今回は残念ながら揺れが収まるまで見守る余裕はなかった。

 そんな遣り取りをして移動を開始すると、莫大な魔力に見合った巨大な身体を持つ魔物を視界に捕らえた。
 全身が闇に包まれたかのように真っ黒なそれは、やはりドラゴンであった。

「真っ黒いドラゴン……か。色で属性がわからないってことは、やっぱり属性ドラゴンより上位の存在ってことだろうな」

 俺達が既に倒したグリューンドラゴンは緑色で風属性、ロートドラゴンは赤色で炎属性、身体の色で得意属性を判別することができた。
 まだ見ぬブラオンドラゴンは茶色で土属性、ブラウドラゴンは青色で水属性なはずである。

「ん、真っ黒? 真っ黒……闇……漆黒……、シュバルツドラゴンか?!」

 アルトゥールから聞いていた御伽噺の悪役。それは全てを闇に染め上げたような漆黒の体躯を持つドラゴン。
 炎・土・風・水の四大属性全てを操る厄災。それがシュバルツドラゴンだ。

「四つの属性を操るってことは、どの属性にも耐性があるっとことだろ? そうなると、属性毎の相性とか関係なく、デカい魔力をぶち当てるしか無いのか? いや、あのドラゴンの魔力を上回るのは無理だ……」

 記憶の片隅から呼び起こされたシュバルツドラゴンの情報は多くはなかったが、それでも俺の気を削ぐのには十分であった。

 退くか? でも、向こうから仕掛けてきたんだ、逃してもらえるとは思えないし。やっぱり、あのときに山を降りるべきだった……。

「……って、今更グチグチ考えても仕方ない。あんなのを引き連れて戻るなんてできないんだ、やるしかないだろっ!」

 萎える気持ちに活を入れた俺は、師匠たちとは反対となるドラゴンが向かってきている右前方へ走り出した。そして、ドラゴンの注意を惹き付けるべく、魔力を昂ぶらせたのだ。

 やるとなったら、少しでも有利に戦いを進めたいからな。今頃は皆もアレがドラゴンだと気付いてるだろう。であれば、属性どうこうは抜きにして、対ドラゴン用の戦い方をするのみ。

 実は、風属性の竜種であるグリューンドラゴンとの戦いを経験し、その後に炎属性のロートドラゴンと戦ったことで気付いた事実がある。それは、属性に関係なく”ドラゴンは一番大きな魔力に反応を示す”ということだ。
 それに気付いたのはロートドラゴン戦の一人脳内反省会をしていたときであったため、現状では推測の域を出ていない。だが、その推測は間違っていなかったようだ。

 ドラゴンは俺の魔力に気付いたのだろう、僅かに航路とズレた俺の方へと軌道を修正したのだ。だからといって、喜んで良い場面ではない。 
 現状は推測が当たっていたことで、作戦の幅が広がっただけにすぎないのだから。

 ドラゴンが俺に気を取られていることにディアナ達が気付いてくれるまで、暫くは俺が一人でどうにかするしかないよな。なかなか厳しいけど、倒すのではなく逃げ続けるだけならなんとかなる……と思う。
 ただ、魔力消費が大きいからな、なるべく早く気付いてもらいたいね。

 高魔力を発してドラゴンの意識を俺に向けさせるとなると、必然的に魔力消費が大きくなる。だからといって、魔力をケチってしまってはディアナ達が魔法を発動する際、ドラゴンに悟られてしまう。それでは意味がない。
 俺が自らに科した役目は、ドラゴンの注意を引き付けることだ。そのために、終始仲間の誰よりも大きな魔力を出し続ける必要があるのだ。

 そんなことを考えながら暫く動いていると、俺の放出魔法ではダメージをあまり与えられないような距離にも拘わらず、ドラゴンが口を大きく開いた。

 この距離でブレスを撃つのか!?

 ロートドラゴンやグリューンドラゴンと対峙した際は、こんな遠距離から攻撃をされなかった。それゆえ、ドラゴンの攻撃射程はもっと短いものだと思っていたのだが、予想を遥かに上回る距離で、シュヴァルツドラゴンは攻撃の準備に入っている。

 ドラゴンのブレスは約十秒間。その十秒間は絶え間なく吐き続けるが、連射はできない。ここで撃たせてしまえば、次のブレスまでの間に迎撃態勢が整えられる。ならば、俺がそれを凌げばいいだけだ!

 流石にこれだけ彼我の距離があれば、俺にブレスが到達するまでに時間がかかる。直撃することはないと読んだ俺は、魔道具袋もどきからミスリルの槍を取り出し、自身の動きを速める準備をした。
 すると――

 ギョワァアアアアアアァァァァァ

 大きく開かれたドラゴンの口から、視覚に飛び込んでくるものはなかったが、大気を揺るがさんばかりの恐ろしい咆哮が発せられたのだ。

「――っ!」

 刹那、俺の身体は硬直してしまった。
 拙い、と頭で理解できていても、身体がいうことを聞いてくれない。その間にも、ドラゴンがぐんぐん迫ってくる。

 何で動かない!? ビビってるのか? このままじゃ注意を引き付けるどころか、無駄に殺《や》られるだけだ。頼む、動いてくれ!

 意識はしっかりしているが、それでも動かない身体。気持ちと身体が噛み合わない現状により、焦燥感に苛まれる。

 ――ドンッ

 唐突に、背中を蹴られたような衝撃を感じた。

「いてっ! 何だ?」

 不意の衝撃で動くようになった首を後方に巡らすと、そこには思いもよらない人物の姿があった。
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