金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第四章

第三十三話 ルゼルの乱、再び〜一番は沢山あるを知る〜

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 参観最終日。今日はリオンとルゼルとアロンはシャロンに連れられて参加だ。
 この日は一年生は楽器演奏の発表があった。去年の一年生が歌を披露したのと同じだ。
 初日に楽器の授業があったのでその復習としての発表だ。
 それぞれが得意な楽器で演奏する。楽器が苦手だったり練習の機会がない生徒たちは数人で集まり、練習場所や楽器を提供しあったり、一曲を分担したり、案を出し合って発表に臨んだ。
 リディラはピアノを、ララはフルートを、それぞれ貴族らしい教科書通りの奏で方をした。
 初日、色々あって授業を欠席していたビクトリアはオリジナルの一本弦の見知らぬ楽器を弾いた。発表前の説明でビクトリアはこの楽器はオリジナルの楽器であること、しかも自作の楽器だと説明した。
 少し前なら「楽器も買えないの」と意地悪を言う者がいたような場面だが、孤児院への理解が深まりつつあるクラスでは「孤児院の子は楽器まで作ってしまうのか!」と感嘆する者の方が多くなっていた。しかもビクトリアは「練習時間がなかったので、前に自分で作った曲を弾きます」と言い、孤児院でよく歌っていた自作の曲を弾いた。
 弦は一本なのに、ビクトリアの指の動きで多岐にわたる音が出る不思議な楽器に、聴いたことのないメロディ。何もかもが新鮮で美しかった。
 キエルもライラも穏やかに見守っている、これはキエルたちが孤児院にビクトリアに会いに行ったときにビクトリアが歌っていた曲だ。何か神聖な場面のように思えるビクトリアの演奏だったが、キエルたちには正に特別な一曲だ。
 色々あったが、ビクトリアを娘に迎えて本当に良かったと、この時二人は思っていた。

 授業が終わり、次は二年生の授業を見ようと移動する中、リオンとルゼルは楽器発表の感想を述べあっていた。二人とも音楽の楽しさや美しさに感銘を受けたようだった。
 「特にビクトリア様の不思議な楽器!」
 リオンがピョンと跳ねるように言うと、ルゼルとアロンが相槌を打つ。
 「あの不思議な楽器と音楽はすてきすてきでした」
 「うん。アロ、好き。もっかい聴きたい」
 「じゃあじゃあ、ルゥルゥが歌ってあげます」
 そう言うとルゼルが「らららー」とビクトリアの曲を口ずさみ始めた。どうやら一度で覚えてしまったらしい。凄いことだが、アロンの
 「わぁー、ルゥルゥ、じょずじょずー」
 と言って拍手をする愛らしさにその凄さが薄まる。
 ここで、一度シャロンがアロンをトイレに連れて行くことになった。こういう時、従者がいないと困る者が多いが、シャロンは母親らしい世話ができるということで張り切っていた。
 「二人ともすぐ先がリゼルたちのクラスだから先に行っていてね」
 「はい」
 「はい」
 二人は良いお返事をして少し先のリゼルたちのクラスに向かった。
 歩きながらの話題はもちろん先程の楽器発表だ。リオンが
 「音って、見えないけどさっきの楽器の音はどれも綺麗な音だったね。去年の兄上たちのお歌も綺麗だったよね」
 「うん。楽器もお歌も見えないけど綺麗。見えるもので一番綺麗なのはリオンのお目目よね」
 そうルゼルが言うと、リオンが足を止めて「え?」と真顔になった。
 「ルゼ、間違えてるよ。見えるもので一番綺麗はルゼのお目目よ」
 「え?」
 今度はルゼルが足を止めて真顔になる番だ。
 「私のお目目、違うよ。一番綺麗はリオンのお目目よ」
 「ええ?違うよ。ルゼ間違え。一番はルゼのお目目」
 「違う。一番はリオンのお目目!」
 「ルゼのお目目!」
 だんだんと熱が入る二人に、なんだなんだと少しずつギャラリーができる。
 「一番綺麗はリオンのお目目!」
 「違う!一番綺麗はルゼのお目目!」
 何やら言い合っているようだが、これは?口論?にしては話題が相手を好きすぎて可愛らしい。止めるべき?でも微笑ましくて眺めていたい…。
 その時、廊下の騒めきに気づいたリゼルがユリアンに声をかけた。
 「あの声…ルゼルとリオンだ」
 「…本当だ。え?ケンカ?」
 マグヌスも瞬時に反応した。すぐさま廊下に向かわなければ!
 3人はすぐさま廊下に行った。やはりリオンとルゼルだった。しかもルゼルの目がすでに赤い。いつかのあのケンカのように…
 「ウサギ卿事件、ルゼルの乱だな…」
 マグヌスがポツリとつぶやいた。
 それに気づいたギャラリー。マグヌスの言った意味はわからないが、二人を止めるべきか否かを迷っていた悩みは解消された。マグヌスがどうにかしてくれるはずだと…。
 「一番綺麗はリオンのお目目よ!」
 「違うの!一番はルゼのお目目なの!」
 そのやりとりを見たマグヌスはだいたいの流れは察したが、ユリアンが補足説明をした。
 「おそらく二人が二人とも一番綺麗なものはお互いの目だと言って譲らないのでしょう。
 実は先日家でリオンが世界で一番綺麗なのはルゼルの目だと話していたのです」
 それを聞いたリゼルが小声で言った。
 「なにそれ、リオン可愛いな。私と気が合いそう」
 「この兄バカが」
 マグヌスがそう言って二人の方へ歩み寄った。もうルゼルは今にも泣きそうだ。そしてついにあの言葉を言いかけた。
 「違うの!一番綺麗はリオンのお目目なのよ!もうもう、リオンなんてキ…」
 そこまで言うと、ルゼルはハッとした。前にもこんなことがあった。あの時、自分は思ってもいない言葉で「リオンなんて嫌い」と言ってリオンを泣かせて悲しませたのだった。
 あの日のことはあれから時々思い出しては毎回後悔して泣いてしまっている。何故好きなのに嫌いと言ってしまったのか。好きな人を悲しませることがあんなに苦しいとは。経済グルグルの仕組みを知った時より辛い思い出だ。だから今回はグッと堪えた。わからずやのリオンだが、リオンは大好きだ。
 一方リオンもルゼルが「キ」と言った瞬間にあの日のことを思い出していた。好きな相手に嫌いと言われるとどれだけ辛いかを知った日だ。あの日のことは今でも人生で一番ショックな日だ。幼稚園で奇襲をかけられた日よりずっとずっと辛い日だ。
 一瞬で二人は動きが止まり、静かになった。その理由を察したのはマグヌスたち3人だけだ。急に静かになった二人をギャラリーが訝しんだのはほんの一瞬。すぐにルゼルが言った。
 「もうもう、リオンなんてキ………す…好きよぅ。リオン大好きぃ」
 そう言ってルゼルが急に泣き出した。すぐに察したリオンも
 「わ、私だってルゼが好きぃ…うぐっ」
 そう言って泣くのをグッと堪えていた。
 何が起きたのかわからないギャラリーをよそにマグヌスがユリアンとリゼルに言う。
 「本当に可愛いな…お前たちの弟は」
 「はい、そうなんです」
 余裕ある返事をしたのはユリアン。リゼルはソワソワしている。そんなリゼルを見てマグヌスは「まかせろ」と言ってリオンたちの元に歩いて行った。
 それにしても泣き顔も可愛い。そういえばユリアンが前に「泣かせたくはないが、ルゼルの泣き顔は本当に可愛いんです」と言っていたなと思い出しながら二人に声をかけた。
 「リオン、ルゼル、どうした?」
 「マ、マグヌス殿下ぁ」
 そう言ったのはリオン。ルゼルには返事をする余裕がなかった。
 「マ、マグヌス殿下ぁ。わ、私は世界で一番綺麗はルゼの、ルゼの…うぐっ…ルゼのお目目思います。でもでも、ルゼは違う言うの…」
 「ルゼルはリオンの目が一番て?」
 「はい…うぐっ」
 ルゼルはポロポロと目から涙がこぼれて何も言えなくなっていた。そんな二人の頭に手を置きながらマグヌスは言った。
 「一番て言えるものがあるのは良いことだな。ところで私が一番綺麗と思っているものは何か知ってるか?」
 「えとえと、ルゼのお目目ですか?」
 と、リオン。
 「確かにルゼルの目は綺麗だな。だけどリオンの目も綺麗だ。そして私が見えるもので一番綺麗だと思っているのは、鹿の森の池の水だ」
 鹿の森というのは王宮裏にある森で、その奥深い場所に透明度の高い池がある。どんな季節でも水温が一定でほんのり青く光って見えるような不思議な池だ。マグヌスはその池が一番綺麗だと言った。さらに
 「目で言うならヴァジュラの黒い色が一番綺麗だと思っている」
 「え?」
 「え?」
 リオンでもルゼルでもなくヴァジュラの瞳?しかも一番は池の色?
 これはどういうことだろう。いつの間にかルゼルも泣き止んでいる。
 「それってそれって、マグヌス殿下の一番綺麗はお目目じゃないいうことですか?」
 「そうだ」
 「それでそれで、お目目ならヴァジュラ殿下が一番?」
 「そうだ」
 「それって!一番は沢山あるいうことですか?」
 「それって!誰かの一番は誰だけの一番いうことですか?」
 「そうだ」
 「はぁ!」
 「はわわわ!」
 二人は唐突に悟った。自分が一番と思っていても他の人の一番ではないかもしれないこと。しかも、池の一番とか瞳の一番とか、色だけでも何かの一番は沢山あること。しかも人の数だけ一番があるかもしれないこと。
 「それって、私がまだ知らないこれから先に一番になるものがあるかもいうことですよね?それが私の一番になったときにルゼの一番になるかもしれないいうことですよね?私の一番とルゼの一番違ってもソンチュー?サンチョー?」
 「尊重」
 立て続けに言うリオンにユリアンが言う。
 「それです。ソンチョーすれば良いいうことですよね?」
 「まぁ、そういうことだな」
 「だって!ルゼ!だから私の一番綺麗はルゼのお目目!」
 「じゃあじゃあ私の一番綺麗はリオンのお目目で良いいうことだよね?」
 「うん!」
 「きゃー」
 「きゃー」
 二人は手を取り合ってピョンと跳ねた。
 「殿下、ありがとうございます。なんだか解決しましたね」
 二人を見ていたギャラリーは安堵し、同時に何かが癒された。
 ちょうどアロンたちも戻り、授業が始まる時間になった。


 この可愛いケンカは、のちに「お目目綺麗紛争、マグヌス殿下の平和解決」と呼ばれることになった。
 
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