金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第三章

第二十六話 リタが来た!〜ピコーンピコーン。警戒警報鳴ります。〜ウサ耳ルゼルは可愛いばっかり。

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 世の中が春めいてきた頃、クイン侯爵家の使用人たちがいつもよりせわしなく働き回っていた。
 今日はリディラのお友達令嬢方が遊びに来るのだ。
 「リディラお嬢様が自らお願いしたお茶会だから絶対ミスはしないわよ」
 「リディラお嬢様のハイセンスさが伝わるお茶会にするわよ」
 日頃リディラにアクセサリーなど小物のアレンジのヒントをもらい、同じ物でも他の人とちょっと差のつくアクセサリーにしている。それがよその使用人友達に羨ましがられ、ささやかな喜びになっている。日頃の感謝を働きで返す。そんな意気込みで使用人通路はいつになく活気に満ちていた。自然使用人たちの歌う声も大きくなる。うるさいどころか良い雰囲気だ。クイン侯爵家の使用人たちは毎日歌っているので歌唱レベル上がりまくりなのだった。
 お茶会はクイン侯爵夫人が使うメインサロンではなく、そこより小ぶりの部屋でする。シャロンは自分のメインサロンを使って良いと言ったのだが、リディラが小ぶりなその部屋を指定したのだ。
 リディラは策士だ。リディラが指定するからには深い意味がある。シャロンは使用人たちにリディラの要望はすべて通すよう言いつけるだけにした。
 
 「アネーレ、きょう、おともだちくるですか?」
 「アネー」
 ルゼルとアロンが小ぶりな部屋でセッティング指導をしているリディラに聞いた。小ぶりな部屋は子どもたちの遊び部屋と同じ階にあるのでルゼルたちは使用人たちの歌につられて遊び部屋から出てきたのだ。なんの遊びをしていたのか、ルゼルはウサギの耳付き帽子をかぶり、アロンは海土産のカニのクッションを抱きかかえている。可愛い。可愛いが大爆発だ。一緒に弟たちと遊びたいのを我慢して、
 「ルゼル、アロンちゃん、ちょっとそこに立って」
 と言ってリディラは自分の子ども用カメラで写真を一枚撮った。今はこれで我慢だ。何しろ今日のお茶会はこの弟たちの未来のための大事なお茶会なのだから。
 色々な機会にユリアン、リゼル、リディラは将来リオンとルゼルの心からの友達になってもらえそうな子を探していた。
 三人は王妃主催のお茶会でマグヌスの周辺で展開されるを見て以来、幼児にして人の裏表を知ってしまったのだ。特に裏表のある令嬢は怖かった。可愛い無垢な弟たちがお茶会デビューした時に少しでも裏表なく過ごせる仲間を作っておいてやりたい。そんな気持ちでリオンたちの友達候補を探しているのだ。
 今日はそんな中、リサーチしてきた令嬢方に声をかけた。リオンやルゼルと気のあいそうな弟や従兄弟のいる令嬢たちだ。こっそりアロンと同い年の弟がいる令嬢も呼んだ。ネットワークは広い方がいい。
 「今日はね、アネーレのお友達だけど皆さんルゼルやアロンちゃんと同い年の男の子が家族にいる方々なの。ルゼルたちのお友達になるかもしれない方のお姉様方よ」
 「ルゼルのおともだち!」
 ルゼルの顔がぱあっと明るくなった。ルゼルが私呼びを忘れた。それくらい期待している。
 「ルゼル、おともだちできたらリオンにもおしえてあげるの」
 「アロ、アロ」
 アロンがルゼルの袖を引く。
 「うん。アロンにもおしえてあげましゅよ」
 ウサギ耳のルゼルがお兄さんぶってカニを抱えるアロンをなでる。
 可愛い。パシャパシャ。リディラの指が素早く動いた。

 お茶会には10人近い令嬢を招待した。家柄は公爵家から男爵家まで様々だ。リディラ的には公爵家の令嬢はルゼルたちと年齢が違う男兄弟だったので眼中になかったが、地位的な問題で呼ばざるを得なかった。何しろ向こうはお茶会の趣旨を知らない。
 「皆様今日はようこそお越しくださいました。短い時間ですがどうぞお楽しみくださいね」
 リディラが短い挨拶をしてお茶会スタートだ。
 部屋の中には、リディラの指示で大小様々な絵画が飾られていた。小物も地方の民芸品から贅を凝らした宝飾のついたものまで様々に、しかしバランス良く部屋に馴染むように置かせた。
 食器は誰もが知る有名メーカーの有名なスタンダード柄だが、色は定番ではなく、特注の色のものにした。まずは食器から話題になるので誰もがわかるものにしたのだ。色はリディラの趣味だ。
 「私、このティーカップ大好きなの。この持ち手がしっくりくるところとか、お花のデザインも好きなのよ。でもこの色は初めて見たわ」
 まず公爵令嬢のマーリンが言った。マーリンは王妃主催のお茶会に出席するメンバーだが、マーリンのホーリィ公爵家はマーリンの祖母が王妃として輿入れしている。祖母王妃の息子の一人、現国王の弟が後継のいなかったホーリィ公爵家に養子として入った。つまりマーリンはマグヌスの従姉妹だ。王太子妃候補としてはまだ血が濃いという理由で候補から外されている。本人もそれを知っているので王妃主催のお茶会ではのんびり過ごしている令嬢だ。
 このティーカップの定番はピンクの花柄だ。だが、リディラは花を翡翠で注文したのだ。
 「この色は私の趣味なのです。紅茶の茶色にはなんと言っても翡翠ですわ。茶には翡翠なのです」
 リディラの力説に令嬢方はキョトンだが、マーリンは笑って言った。
 「もしかして、弟様の?」
 マーリンは良くわかっている。
 その後しばらくどこの茶器が新しいとか、その茶器に合うティースプーンがあるだのという令嬢特有の話で会話が弾み、部屋の中を自由に動き始めるようになるとリディラの目が素早く動き始めた。
 絵画は評価の高い作品は小さいもので集めさせた。大きい作品ばかりに目を向けて小さい作品には興味を示さない令嬢はなんとなく裏表がありそうな気がする。小物も同じだ。作品としての評価はなくても民芸品などはそれなりの味があるし、手のかけかたも違う。そういうところに目がいく令嬢の弟たちならルゼルたちの特異な視点を理解してくれそうな気がするのだ。
 リディラがにこやかに歓談しつつリサーチをしていると、人がはけた一瞬にマーリンが来てささやいた。
 「どのような方をお探しなの?」
 マーリンのオレンジの瞳が興味深げに笑っている。流石公爵令嬢。只者ではなさそうだ。

 一方、ルゼルとアロンは…。
 お友達のお姉様になる人がいるかもしれないと思うといてもたってもいられず、令嬢方が来た時に玄関ホールの陰に隠れてどんな方々が来るのかと興味津々で観察していた。
 「みんな、きれいきれいなドレスね」
 「あい」
 「おひめしゃまみたい」
 招待された令嬢は天下のクイン侯爵家に行くということでいつも以上のお洒落をしてきていたのだ。
 ルゼルたちが令嬢をうっとり眺めていると、一人見知った令嬢をみつけた。
 「はわわっ!」
 「るぅるぅっ⁉︎」
 ただならぬ兄の驚きにアロンもビックリだ。
 「…リタしゃまがいる。リタしゃまはこわいこわいのお姉しゃまでしゅ」
 「こあいこあい?」
 アロンの眉間にシワが寄る。
 「そうでしゅ。おこったりわらたりして、こわいんでしゅ」
 「おこる…わらう…」
 アロンにはよくわからないが、怒るのが怖いのはわかる。だから怖い。
 「アネーレもアデルみたいにワーワーっていわれちゃうかもしれないでしゅ」
 リディラがリタに怒鳴られたらどうしよう。ブランコやすべり台で怒っていた子みたいにリタがリディラを押したり叩いたりしたらどうしよう。
 今日は頼りになるリゼルはまだ学園だ。ヤンは強いけど貴族令嬢をやっつけることはできないと言っていた(新年会の後、確認した)。自分がやるしかない。リディラをリタから救わなければ。
 「アロン、アネーレをたすけにいくの。しましゅよ」
 「あい!」
 玄関ホールでその様子を見ていた使用人たちから報告を受けたシャロンは笑って「ルゼルとアロンが怪我しないようなら見守りだけでいいわ。リディラのお茶会は多分大丈夫よ」と言った。とりあえず二人が何に変装したかは教えてねとも言った。
 

 
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