金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第三章

第二十七話 アネーレを守ります。〜弟ではありません。ウサギでしゅ。

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 「よし、できました」
 「あいっ」
 ルゼルとアロンは、アネーレを守るため変装して突撃だ。狙うはお茶会をしている部屋の続き部屋、令嬢たちの侍女らが控えている部屋だ。まだまだ幼児年齢の令嬢たちなので外出は侍女や使用人同行だ。
 遊び部屋で変装を終えたルゼルたちは控えの間の扉の前まで行くとコンコンコンとノックをした。
 「にまよいました。しつれいしましゅ」
 ルゼルはそう言って扉を開けた。
 子どもの声と同時に扉が開いたので控えていた侍女たちは一斉にそちらを見た。そして息を飲んだ。これが噂のクイン侯爵家の次男。写真で見るよりずっと美しくふんわりしている。
 「こんにちは。ウサギでしゅ。にまよいました。こちらはでしゅ。いきたいはここかもしれないので、きました」ぺこり。
 「あい」ぺこり。
 ルゼルはウサギ耳付き帽子をかぶってモコモコの白い上着を着ている。ウサギのつもりらしい。アロンはリディラの誕生会で演じた時の星を帽子に貼り、やはり星を背中にくくりつけている。もちろん今日は兄たちがいないので着せたりくくりつけたのはそれぞれの従者だ。
 ヤンとアロンの従者リムは室内の令嬢方に申し訳ないという顔で頭を下げて挨拶をした。侍女たちはまだルゼルに気を取られていて気づかなかったが…。
 侍女たちの視線をよそにルゼルはアロンと手を繋ぎながらテッテッと部屋に入って行きながら、
 「ウサギはをつれていくのに、まいごになりました。はこっちかもしれないのでしゅ。かくにんにきました」
 と設定を説明しながらお茶会に続く部屋の扉に向かって行った。
 侍女たちには何でそうなっているのかわからなかったが、二人が可愛いので黙って見ていた。
 ルゼルとアロンは扉に耳を当て、向こう側の音を聴こうとしている。それをヤンは
 「ウサギ様、お行儀が悪いですよ」
 と言うが、ルゼルは
 「…ウサギだから、はわからないの」
 と答えた。侍女たちはその言い訳の可愛らしさに思わず顔がほころぶ。

 向こうの部屋は静かだった。リタの怒る声も聴こえない。まだアネーレは無事のようだ。ルゼルは安心した。このままここで待機しよう。リタの怒る声がしたら飛び出すのだ。いや待て、既にリタが天下を治めて誰も何も言えなくなっているのでは?
 「うう…」
 ルゼルは悩んだ。そして決めた。
 「、このではないでした。あっちのかもしれません。いきましょう」
 「あい」
 ルゼルはアロンと手を繋いで小走りで廊下に向かう扉に行った。そこまで来るとくるりと向きを変えて「ありがとござましゅ。しつれいしました」と頭を下げて出て行った。アロンもぺこりだ。
 扉が閉まると同時に
 「なんて愛らしいの」
 「見入ってしまいましたね」
 とその後の侍女たちの話はルゼルとアロンで持ちきりとなった。

 アロンをつれたルゼルはそのまま隣のお茶会の部屋の扉をコンコンコンとノックした。
 「こんにちはウサギでしゅ。にまよいました」

 その頃、リディラはマーリンに「どのような方をお探しなの」と聞かれ、なんと答えたものか考えていた。マーリンは今まであまり話したことはなかったが、上品だし、話の切り出し方も上手だったし、人を見る目もありそうだ。
 そんなことを考えていると、ノックとともにルゼルとアロンが現れた。
 「あら、可愛らしいウサギさんだこと」
 やはり真っ先に声を出したのはマーリンだった。マーリンは新年会で写真ではないルゼルを見ていたので免疫があった。とはいえ、新年会に出席していた令嬢の何人かは今日もルゼルの美幼児ぶりにしばし我を忘れた。初めてルゼルを見る令嬢は時間が止まったように固まっている。
 ウサギのルゼルは素早く室内を見回した。
 アネーレはきれいなお姉様とお話ししている。無事だ。良かった。まだ制圧されていない。リタは…あっ、扉のすぐ近くにいた。思ったよりずっと近い。怖い!

 その時、ルゼルの姿に見惚れていた令嬢が手にしていたガラスの小物入れを落としてしまった。
 ガシャン
 「きゃぁ」
 反射的にルゼルが「だいじょふですか?」と言いながら走って行った。ルゼルが走ったので慌てて後を追ったアロンがパタと転んでしまった。
 「あっ、アロ…!」
 アロンは驚いて涙目だ。しかもルゼルが走り出したせいで、今はルゼルよりリタの方がアロンに近い。アロンが泣いたらリタに怒られてしまう。怖い。でもアロンを助けなければ!それから令嬢のお姉様はお怪我してないか確認しなければ。まずは、アロンを助ける!
 瞬時の判断でルゼルはアロンに向かって走っていた。リタは怖い。だからこそアロンを助けなければ。それなのにリタの方が早くアロンの所に行ってしまった。アロンが危ない。
 しかしルゼルの心配とは反対に、リタはアロンを立たせると優しい声で言った。
 「お星様、大丈夫?涙いっぱいだけど、どこか痛いの?」
 え?リタ?
 「…リタしゃま?」ルゼルがびっくりの顔でつぶやいた。
 「あっ、ルゼル様。えっと、リタ・ラインです」
 ルゼルに会うのは二度目だが全く目が慣れない。ルゼルが眩しく見える。
 「あ、ルゼルじゃないでしゅ。にまよったウサギでしゅ」
 「あ、えっと…はい。ウサギ様ですね?」
 リタはなんだかわからないけれど話を合わせた。
 「えとえと、ウサギのをだいじょぶってしてくれて、ありがとござましゅ」
 リタの前でドキドキするけれど、弟が世話になったので怖いのを我慢してお礼を言ったルゼルだった。怖いけどやっぱり気になる。だから、聞いてしまう。
 「あのあの、、ころんだのおこらないですか?」
 「?怒りませんよ。小さい子…えっと、お星様が転んで泣きそうになったら、どこか痛かったのかなって心配になるだけです」
 「おとこのこなのにーって、おこらない?」
 興味が勝ちすぎてかなり大胆に聞いてしまうルゼルだ。それを聞いたリタは少し心当たりがあり、顔がちょっとだけ赤くなった。
 「あ、あれは…ええと…。私が男の子らしくないと怒るのは従兄弟のアデルにだけです」
 「どうしてですか?」
 「アデルには強くなってほしいからです。アデルは気持ちが優しすぎて傷つきやすいのですわ。アデルには泣かないで笑ってほしいのです」
 笑ってほしいのに怒って泣かせるの?どういうことだろう。考えが深まりそうな時、アロンが「るぅるぅ」と涙声でルゼルにしがみついてきた。同時にガラスを処理するためや自分の令嬢が怪我をしたのではないかと心配した侍女たちが次々と続き扉から入ってきた。だからルゼルの思考は中断してしまった。
 とりあえず、リタは思っていたような怖い人ではないのかもしれない。だけど、笑ってほしくて怒るなんて、意味がわからなくてやっぱり怖い。だけどアデルはあんなに泣かなくて良いんだということだけは理解できた。
 
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