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第三章
第二十八話 ウサギはお耳が良いだけではありません。〜お姉様方守りましゅ。
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ガラス小物が割れたことで、リディラのお茶会は急展開の暗い雰囲気になっていた。
小物を割ってしまった子爵令嬢のタミラは申し訳なさに真っ青だし、その侍女も真っ青だし、そのタミラと話をしていた令嬢方とその侍女たちも真っ青だ。
ガラスの破片を片付ける使用人たちは無言だが動きが素早く、その場の緊張感をなんとなく煽っているし、こういう時真っ先に声をあげるマーリンはリディラに気を遣っているのか無言だし、ルゼルがなぜ入ってきたのかわからないし、なんでウサギを名乗るのかわからないし、人間離れしたその美しさは全然わけわからないし、アロンが星なのもわからない。ほとんどの令嬢方の心は「誰かー!」と叫んでいた。
沈黙を破ったのはエリィ・バークレイ伯爵令嬢だ。
「あ、あの、リディラ様、タミラ様はわざと割ってしまったわけではないのです…その…あの…」
エリィの声でリディラはハッと我にかえった。正直リディラは小物が割れたことに気づいていなかった。あまりにも、あまりにも、あまりにも可愛い弟達の登場に気を取られ「写真機!画家様!ああ、駆け寄ってなでたい!」と思っていたからだ。リディラは正気を取り戻し素早く状況を察知した。そしてタミラに向かって歩いた。
使用人たちはリディラを見て「もう破片はありません。大丈夫です」のうなずきをしてこれまた静かに素早く去って行った。
「タミラ様、お怪我はない?」
リディラがタミラの侍女を見ると侍女はうなずいた。怪我はないようだ。
「お怪我がないようで良かったわ」
「あ、…でも、リディラ様…ごめんなさいっ、私、私…」
タミラは頭を深々と下げてリディラに謝罪した。しかしリディラは笑って頭を上げるように言った。
「良いのよ。ガラスは壊れる物だから、壊れた時は『今日まで楽しませてくれてありがとう』と思うものだとお母様から教わったわ。それに、私は私の選んだ物を手に取るくらいの気持ちになって下さったタミラ様が嬉しいわ。選んだ甲斐があったわ。ねぇ、ルル」
リディラは近くにいたリディラの侍女に同意を求めた。ルルは頭を下げたまま。
「はい。皆様のお目に止まるかどうか、思案されたことが報われて良うございました」
「ふふ。そういうことよ。むしろ、割れる危険を考えなかった私の落ち度だから気になさらないでね」
タミラはリディラの優しさに涙がこぼれた。
その時、ノックと共に扉が開き、クイン侯爵家の救護班が入ってきた。
「遅くなりました。お怪我をされた方はいらっしゃいますか?」
タミラやその周辺の令嬢方は一斉に首を振る。どうやら怪我をした令嬢はいないようだとリディラが安心し、救護班も引き上げる姿勢を見せた時にルゼルが言った。
「そちらのお姉しゃまがおけがしていましゅ」
ウサギルゼルが指差しではなく、手のひらを上に向け、男爵令嬢ララに向けた。
「やだ、ルゼル、紳士…。じゃなくて…」リディラの呟きは侍女ルルにだけしか聞こえなかった。
「ララ様、お怪我されたの?」
リディラが聞く。ララと呼ばれた男爵令嬢は両手を振って「いえ、この通り怪我はありません」と言った。その侍女もウンウンとうなずく。確かに見える場所に怪我はしていないようだ。
「ルゼ…ウサギ様?」
リディラが訝しんでルゼルを見た。
「あんよ、けがしてましゅ」
ルゼルが断言した。
「い、いいえ、私は…」ララが慌てる。ルゼルが続ける。
「あのお姉しゃま、がらすがわれてすぐ、わったお姉しゃまにかけよりました。でもとちゅうでとまって、それからぜんぜんうごきません」
ルゼルが語り始めた。皆黙って聞いている。皆黙ってウサギルゼルを見ている。
「アネーレのがらすのこものいれは、ふたにがらすのかざりが13こちゅいてましゅ。がらすかたちゅけたとき、がらすのかざり12こでした」
え?見えた?そこから?と令嬢方。
やだ、自分はウサギだって言ってるのにアネーレとか言って、ルゼルだとバレバレじゃない。可愛いわルゼル。とリディラ。
「13こめで、あのお姉しゃま、あんよけがしたでしゅ。ルーハンせんせい、みてください」
ルゼルは救護班のルーハン医師に指示した。ルーハンは失礼しますと言ってララの所に椅子を持っていき座らせてドレスの裾から覗く靴を見た。
「あっ」
ルーハンは小声で言ったが、全員にその声は聞こえた。怪我があったことを意味していると全員察した。
ララは踵に怪我をしていた。ララの立っていた場所からガラスの破片も見つかった。
どうやらララが歩いていた時に破片が靴に入り込み、踵を傷付けてから出てきたらしい。時々靴に入る小石がそのようになるが、それがガラスの破片で起きたようだ。
ララは恐縮していた。
「嘘をついてすみませんでした。ガラスが割れただけでもタミラ様が悲しみましたのに、私まで怪我したと知られたら余計悲しまれるかと…リディラ様もお気を悪くされるかと思って…ごめんなさい」
「お怪我をされたことは残念でしたけど、ララ様がお友達思いだとわかって嬉しいわ。それにウサギ様の目の良いこともわかったし…」
と、リディラが場を和まそうとルゼルに話題を向けた。ルゼルはリディラに褒められて大満足だ。
「はい。ウサギはおみみがいいだけではないでしゅ。このウサギはおめめもいいでしゅ」
得意気に言うルゼルの愛らしさにリディラの思惑通り場がふんわりと和んだ。
「ウサギ様のおかげでお友達のお怪我に気づけたわ。ありがとうございます。そんなに良いお耳とお目々があるのに、道には迷ってしまうのね」
リディラがいたずらな気持ちで返すと、ルゼルが慌てた。
「あっ、あっ、えとえと、おほししゃまとこのおうちにくるのはじめてでした。だからでしゅ」
それにしてはリディラの小物の蓋の飾りの数を良く知っているわねと全員思ったが全員それは心の中だけで突っ込んで笑って楽しんだ。
ララの手当ても終わり、場の雰囲気も和やかに戻った。リディラがそろそろ場所を変える頃合いだと思ってルゼルに声をかけた。慌てているルゼルを救済だ。
「ウサギ様。おうちの中は詳しくないようですけど、お外にはどこか良い場所がありますか?」
ルゼルはホッとした顔で答えた。
「はい。えとえと、おにわのおいけはすてきでしゅ。きらきらきんぎょがいましゅ。あとあと、アネーレのアトリエもおひさまがぴかぴかであかるいでしゅ」
「あら、素敵ね。皆様、ウサギ様のおすすめのお庭に行きません?」
ララには踵のないサンダルタイプの靴を貸して「無理ないようにね」と言って庭に出ることになった。皆、美しく可愛いウサギと星に挨拶をして外に向かった。ララは特に感謝の言葉を告げた。
「ウサギ様、本当にありがとうございました」
「はい。おけが、ちゃんといたいいたいじゃなくなってよかったでしゅ」
ララは笑いながら
「ええ、本当に。ウサギ様のお目々に助けられました」
と言った。なんだか人助けができた実感で当初のアネーレを守るという意図が叶えられたようでルゼルは嬉しかった。
「はい。ウサギはお姉しゃま、みんなみんなまもりましゅ!」
可愛いウサギの騎士に沢山のずっきゅーんが聞こえた。
ルゼルはアロンと手を繋ぎ、令嬢方を庭に見送りながら考えた。
怖いと思ったリタは、優しい気持ちがあったから怖くなっていた。
嘘はいけないと思っていたけど、ララはリディラやタミラを思って嘘をついていた。
ルゼルは今まで「怖い」はただ怖いだけの意味だったし、「嘘」は悪いことの意味しか持っていなかったが、どちらも違う見方があったと知った。
そんなルゼルを見て、従者のヤンとリムは「ルゼル様、人生の奥深さを実感されているようだけれど、ウサギなんだよなぁ」と微笑んでいた。
小物を割ってしまった子爵令嬢のタミラは申し訳なさに真っ青だし、その侍女も真っ青だし、そのタミラと話をしていた令嬢方とその侍女たちも真っ青だ。
ガラスの破片を片付ける使用人たちは無言だが動きが素早く、その場の緊張感をなんとなく煽っているし、こういう時真っ先に声をあげるマーリンはリディラに気を遣っているのか無言だし、ルゼルがなぜ入ってきたのかわからないし、なんでウサギを名乗るのかわからないし、人間離れしたその美しさは全然わけわからないし、アロンが星なのもわからない。ほとんどの令嬢方の心は「誰かー!」と叫んでいた。
沈黙を破ったのはエリィ・バークレイ伯爵令嬢だ。
「あ、あの、リディラ様、タミラ様はわざと割ってしまったわけではないのです…その…あの…」
エリィの声でリディラはハッと我にかえった。正直リディラは小物が割れたことに気づいていなかった。あまりにも、あまりにも、あまりにも可愛い弟達の登場に気を取られ「写真機!画家様!ああ、駆け寄ってなでたい!」と思っていたからだ。リディラは正気を取り戻し素早く状況を察知した。そしてタミラに向かって歩いた。
使用人たちはリディラを見て「もう破片はありません。大丈夫です」のうなずきをしてこれまた静かに素早く去って行った。
「タミラ様、お怪我はない?」
リディラがタミラの侍女を見ると侍女はうなずいた。怪我はないようだ。
「お怪我がないようで良かったわ」
「あ、…でも、リディラ様…ごめんなさいっ、私、私…」
タミラは頭を深々と下げてリディラに謝罪した。しかしリディラは笑って頭を上げるように言った。
「良いのよ。ガラスは壊れる物だから、壊れた時は『今日まで楽しませてくれてありがとう』と思うものだとお母様から教わったわ。それに、私は私の選んだ物を手に取るくらいの気持ちになって下さったタミラ様が嬉しいわ。選んだ甲斐があったわ。ねぇ、ルル」
リディラは近くにいたリディラの侍女に同意を求めた。ルルは頭を下げたまま。
「はい。皆様のお目に止まるかどうか、思案されたことが報われて良うございました」
「ふふ。そういうことよ。むしろ、割れる危険を考えなかった私の落ち度だから気になさらないでね」
タミラはリディラの優しさに涙がこぼれた。
その時、ノックと共に扉が開き、クイン侯爵家の救護班が入ってきた。
「遅くなりました。お怪我をされた方はいらっしゃいますか?」
タミラやその周辺の令嬢方は一斉に首を振る。どうやら怪我をした令嬢はいないようだとリディラが安心し、救護班も引き上げる姿勢を見せた時にルゼルが言った。
「そちらのお姉しゃまがおけがしていましゅ」
ウサギルゼルが指差しではなく、手のひらを上に向け、男爵令嬢ララに向けた。
「やだ、ルゼル、紳士…。じゃなくて…」リディラの呟きは侍女ルルにだけしか聞こえなかった。
「ララ様、お怪我されたの?」
リディラが聞く。ララと呼ばれた男爵令嬢は両手を振って「いえ、この通り怪我はありません」と言った。その侍女もウンウンとうなずく。確かに見える場所に怪我はしていないようだ。
「ルゼ…ウサギ様?」
リディラが訝しんでルゼルを見た。
「あんよ、けがしてましゅ」
ルゼルが断言した。
「い、いいえ、私は…」ララが慌てる。ルゼルが続ける。
「あのお姉しゃま、がらすがわれてすぐ、わったお姉しゃまにかけよりました。でもとちゅうでとまって、それからぜんぜんうごきません」
ルゼルが語り始めた。皆黙って聞いている。皆黙ってウサギルゼルを見ている。
「アネーレのがらすのこものいれは、ふたにがらすのかざりが13こちゅいてましゅ。がらすかたちゅけたとき、がらすのかざり12こでした」
え?見えた?そこから?と令嬢方。
やだ、自分はウサギだって言ってるのにアネーレとか言って、ルゼルだとバレバレじゃない。可愛いわルゼル。とリディラ。
「13こめで、あのお姉しゃま、あんよけがしたでしゅ。ルーハンせんせい、みてください」
ルゼルは救護班のルーハン医師に指示した。ルーハンは失礼しますと言ってララの所に椅子を持っていき座らせてドレスの裾から覗く靴を見た。
「あっ」
ルーハンは小声で言ったが、全員にその声は聞こえた。怪我があったことを意味していると全員察した。
ララは踵に怪我をしていた。ララの立っていた場所からガラスの破片も見つかった。
どうやらララが歩いていた時に破片が靴に入り込み、踵を傷付けてから出てきたらしい。時々靴に入る小石がそのようになるが、それがガラスの破片で起きたようだ。
ララは恐縮していた。
「嘘をついてすみませんでした。ガラスが割れただけでもタミラ様が悲しみましたのに、私まで怪我したと知られたら余計悲しまれるかと…リディラ様もお気を悪くされるかと思って…ごめんなさい」
「お怪我をされたことは残念でしたけど、ララ様がお友達思いだとわかって嬉しいわ。それにウサギ様の目の良いこともわかったし…」
と、リディラが場を和まそうとルゼルに話題を向けた。ルゼルはリディラに褒められて大満足だ。
「はい。ウサギはおみみがいいだけではないでしゅ。このウサギはおめめもいいでしゅ」
得意気に言うルゼルの愛らしさにリディラの思惑通り場がふんわりと和んだ。
「ウサギ様のおかげでお友達のお怪我に気づけたわ。ありがとうございます。そんなに良いお耳とお目々があるのに、道には迷ってしまうのね」
リディラがいたずらな気持ちで返すと、ルゼルが慌てた。
「あっ、あっ、えとえと、おほししゃまとこのおうちにくるのはじめてでした。だからでしゅ」
それにしてはリディラの小物の蓋の飾りの数を良く知っているわねと全員思ったが全員それは心の中だけで突っ込んで笑って楽しんだ。
ララの手当ても終わり、場の雰囲気も和やかに戻った。リディラがそろそろ場所を変える頃合いだと思ってルゼルに声をかけた。慌てているルゼルを救済だ。
「ウサギ様。おうちの中は詳しくないようですけど、お外にはどこか良い場所がありますか?」
ルゼルはホッとした顔で答えた。
「はい。えとえと、おにわのおいけはすてきでしゅ。きらきらきんぎょがいましゅ。あとあと、アネーレのアトリエもおひさまがぴかぴかであかるいでしゅ」
「あら、素敵ね。皆様、ウサギ様のおすすめのお庭に行きません?」
ララには踵のないサンダルタイプの靴を貸して「無理ないようにね」と言って庭に出ることになった。皆、美しく可愛いウサギと星に挨拶をして外に向かった。ララは特に感謝の言葉を告げた。
「ウサギ様、本当にありがとうございました」
「はい。おけが、ちゃんといたいいたいじゃなくなってよかったでしゅ」
ララは笑いながら
「ええ、本当に。ウサギ様のお目々に助けられました」
と言った。なんだか人助けができた実感で当初のアネーレを守るという意図が叶えられたようでルゼルは嬉しかった。
「はい。ウサギはお姉しゃま、みんなみんなまもりましゅ!」
可愛いウサギの騎士に沢山のずっきゅーんが聞こえた。
ルゼルはアロンと手を繋ぎ、令嬢方を庭に見送りながら考えた。
怖いと思ったリタは、優しい気持ちがあったから怖くなっていた。
嘘はいけないと思っていたけど、ララはリディラやタミラを思って嘘をついていた。
ルゼルは今まで「怖い」はただ怖いだけの意味だったし、「嘘」は悪いことの意味しか持っていなかったが、どちらも違う見方があったと知った。
そんなルゼルを見て、従者のヤンとリムは「ルゼル様、人生の奥深さを実感されているようだけれど、ウサギなんだよなぁ」と微笑んでいた。
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