63 / 113
第三章
閑話 いかつい私は騎士団長。〜でも国王の方がいかついと思っている。
しおりを挟む
私はいかつい。パッと見もじっくり見も、どの角度から見てもいかつい。いかつさでは国王と張り合えるほどいかつい。
だから、私は幼児に必ず泣かれる。目が合わなくても近くにいるだけで泣かれる。目が合おうものなら号泣か無音になるかの二択だ。国王と並んでいたらトラウマレベルだ。自覚ある。実際、大戦争後の凱旋時に国王と馬を並べて闊歩した時は国民の声援とキエルに向けての黄色い声と幼児の泣き声が等分で聴こえた。
そのようなわけで、リオン殿とルゼル殿が騎士団練習場見学をされた際の案内役には副団長のキエルを指名した。
当日は遠目にお二人を眺めていた。確かに護衛をつけるべき稀有な美しさだった。現に幾度か攫われかけたことがあるという。いずれもクイン侯爵家の使用人が阻止したと聞いた。…クイン侯爵家…いや、今は考えるのをやめよう。
自分がお二人の前に姿を現すきっかけとなったのは、海のお土産と言って騎士から渡された絵だ。最初は子どもの描いたものだとわからなかった。機密文書だと思った。浮力を応用したら鉄を飛ばせるとか、水力を風力に置き換えたら陸で何ができるとか、栄養を変えることで食材となる生物や植物の品種改良ができるとか…。お絵描きレベルで国家予算を動かせる発案をしている。本当に3歳児の発想かどうかを確かめるために副団長と共に面談をすることになった。名目はお土産のお礼だ。
泣かれるのを覚悟で行った。私で泣いた後、副団長のキエルを見て泣き止んでくれたら良いと願っていた。
ところが。
泣かない!泣かなかったのだ。それどころか怖がりもしなかった。
遠征後に帰宅すると、しばらく会わなかった我が子にも泣かれる私が初対面の幼児に泣かれなかった。しかも二人ともだ。
これには感動と驚きで我ながら絶句した。キエルは笑っていたが、私はどんな顔をしていたのか…。
とにかくそれだけでもお二人が只者ではないと感じた。少し話すと可愛らしい見た目からは想像できないほどの大きな人物像が垣間見えた。
機密文書の海の絵は自分たちの発想だと楽しげに語っていた。
「だんちょさま、かいはね、たべるものちがうと、色がとくゆうになるの。だから、たべものや、おみずのえいようかえたら、色やあじやえいようもかわるたべものができるとおもったの」
「ねー」
「ねー」
「あ、それってさ、じめんのえいようかえたら、くさがげんきにならないところでも、くさがげんきになるってことだよね」
「あ、そだね。ひとちゅひとちゅじゃなくて、じめんぜんぶえいようにしたら、ぜんぶげんきになるね」
「かいの色はそこの海のおみずがちがうだったもんね。じめん、ちがうにしたら、いいんだね」
それは、今まさに現在進行形で取り組んでいる痩せた土地に野菜を育てるプロジェクトだった。
「でもでも、どしたらじめん、ちがうになる?」
「んとんと、海のかいはぷらんくとんで色ちがうになったから…あ、あれだ!」
「あ!そかそか。びせいぶつね」
「うん!」
お二人は図鑑が大好きだとは聞いていたが、レベルが想像と違いすぎた。
あの時、目の前でお二人は微生物をどうしたらその土地に適応させて量産できるかとか話し出していたが、キエルと二人、しばし思考が白くなったな。機密文書は間違いなく幼児が描いたと納得した。同時にえらい逸材を見つけてしまった。しかも二人。
その後、国王に報告すると、どうやらリオン殿は伝説の存在らしいこと、ルゼル殿もそれに近い存在だろうという話を聞かされた。そしてコーク宰相と話し合いとなった…。
今、その事実を知る者は国王とコーク宰相とクイン侯爵、私にキエルの五人だ。
コーク宰相とクイン侯爵はお二人に自分たちが伝説の存在と知られずに育って欲しいと願われていた。百歩譲っても天才扱いで留めて欲しい。できれば秀才扱い程度にして欲しいと。…「秀才扱い程度」って、流石秀才一族コーク公爵家だと思った瞬間だ。
だがどうだろう。世の中が気づいてしまうのは時間の問題ではないか?まず見た目で人々に知られる存在になるだろう。幼稚園の主旨がなんであれ、抜きん出た存在になることは目に見えている。少し過ごすとわかってしまいそうだ。
今目の前でお二人が無邪気に怪我が治ったばかりの騎士を言い当てた。右手を痛めた騎士を見抜いた。
どちらも並大抵の観察眼ではわからないはずだ。騎士たちには、不調を見抜かれることは命取りになるから悟らせるなと言って育ててきた。実際左右の手の色が違うと指摘したが、パッと見では左右差の見分けはつかない。
このお二人には何が見えているのだろう。物の見え方が違うとしか思えない。何しろ私を見て泣かなかったのだから!
騎士たちの間で二天使は見る薬と言われ「二天使聖女説」とふざけて良く話されているが、あながち間違いでもないのかもしれない。指圧練習をする姿を見ているだけで疲れが取れているのを感じる。ルカたちの指圧を見ても疲れが取れたことなど皆無だ。
「だんちょ様、だんちょ様」
騎士たちの練習が再開され、我々はまた見学席に戻るとリオン殿が声をかけてきた。
「だんちょ様、おてて、みせてください」
手のひらを開いてこちらに向けている。紫の瞳が真っ直ぐ私を見ている。
不思議だ。目が合うだけで子ども相手に自分が一人の人間として認められたような気になる。…可愛らしい。癒される…。私が口に出したら捕まりそうだな。
そっと手を広げて出すと、その手を重ねてきた。…幼児に触れたのいつ以来か?手のひらの小さな部分がほんのり温かくなる。小さな手だ。
「みてみてルゼ!おててのおおきさ、こんなにちがう」
「うんうん。だからしあつ、ぜんぜんちがうになったのね」
どうして自分たちの指圧は騎士の指圧と違うのか研究中らしい。ここで「面白かったね」で終わらないところが賢いな。どうしたら手が大きくなるか思案中だ。手袋を使ってみることにしたらしい。
手袋をしたところでまだまだ小さな手だろうが、その手のひらには世界が乗っているような気がする。
本当にこのお二人には世界がどのように見えているのだろうか。いつか、じっくり話を聞いてみたい。
だから、私は幼児に必ず泣かれる。目が合わなくても近くにいるだけで泣かれる。目が合おうものなら号泣か無音になるかの二択だ。国王と並んでいたらトラウマレベルだ。自覚ある。実際、大戦争後の凱旋時に国王と馬を並べて闊歩した時は国民の声援とキエルに向けての黄色い声と幼児の泣き声が等分で聴こえた。
そのようなわけで、リオン殿とルゼル殿が騎士団練習場見学をされた際の案内役には副団長のキエルを指名した。
当日は遠目にお二人を眺めていた。確かに護衛をつけるべき稀有な美しさだった。現に幾度か攫われかけたことがあるという。いずれもクイン侯爵家の使用人が阻止したと聞いた。…クイン侯爵家…いや、今は考えるのをやめよう。
自分がお二人の前に姿を現すきっかけとなったのは、海のお土産と言って騎士から渡された絵だ。最初は子どもの描いたものだとわからなかった。機密文書だと思った。浮力を応用したら鉄を飛ばせるとか、水力を風力に置き換えたら陸で何ができるとか、栄養を変えることで食材となる生物や植物の品種改良ができるとか…。お絵描きレベルで国家予算を動かせる発案をしている。本当に3歳児の発想かどうかを確かめるために副団長と共に面談をすることになった。名目はお土産のお礼だ。
泣かれるのを覚悟で行った。私で泣いた後、副団長のキエルを見て泣き止んでくれたら良いと願っていた。
ところが。
泣かない!泣かなかったのだ。それどころか怖がりもしなかった。
遠征後に帰宅すると、しばらく会わなかった我が子にも泣かれる私が初対面の幼児に泣かれなかった。しかも二人ともだ。
これには感動と驚きで我ながら絶句した。キエルは笑っていたが、私はどんな顔をしていたのか…。
とにかくそれだけでもお二人が只者ではないと感じた。少し話すと可愛らしい見た目からは想像できないほどの大きな人物像が垣間見えた。
機密文書の海の絵は自分たちの発想だと楽しげに語っていた。
「だんちょさま、かいはね、たべるものちがうと、色がとくゆうになるの。だから、たべものや、おみずのえいようかえたら、色やあじやえいようもかわるたべものができるとおもったの」
「ねー」
「ねー」
「あ、それってさ、じめんのえいようかえたら、くさがげんきにならないところでも、くさがげんきになるってことだよね」
「あ、そだね。ひとちゅひとちゅじゃなくて、じめんぜんぶえいようにしたら、ぜんぶげんきになるね」
「かいの色はそこの海のおみずがちがうだったもんね。じめん、ちがうにしたら、いいんだね」
それは、今まさに現在進行形で取り組んでいる痩せた土地に野菜を育てるプロジェクトだった。
「でもでも、どしたらじめん、ちがうになる?」
「んとんと、海のかいはぷらんくとんで色ちがうになったから…あ、あれだ!」
「あ!そかそか。びせいぶつね」
「うん!」
お二人は図鑑が大好きだとは聞いていたが、レベルが想像と違いすぎた。
あの時、目の前でお二人は微生物をどうしたらその土地に適応させて量産できるかとか話し出していたが、キエルと二人、しばし思考が白くなったな。機密文書は間違いなく幼児が描いたと納得した。同時にえらい逸材を見つけてしまった。しかも二人。
その後、国王に報告すると、どうやらリオン殿は伝説の存在らしいこと、ルゼル殿もそれに近い存在だろうという話を聞かされた。そしてコーク宰相と話し合いとなった…。
今、その事実を知る者は国王とコーク宰相とクイン侯爵、私にキエルの五人だ。
コーク宰相とクイン侯爵はお二人に自分たちが伝説の存在と知られずに育って欲しいと願われていた。百歩譲っても天才扱いで留めて欲しい。できれば秀才扱い程度にして欲しいと。…「秀才扱い程度」って、流石秀才一族コーク公爵家だと思った瞬間だ。
だがどうだろう。世の中が気づいてしまうのは時間の問題ではないか?まず見た目で人々に知られる存在になるだろう。幼稚園の主旨がなんであれ、抜きん出た存在になることは目に見えている。少し過ごすとわかってしまいそうだ。
今目の前でお二人が無邪気に怪我が治ったばかりの騎士を言い当てた。右手を痛めた騎士を見抜いた。
どちらも並大抵の観察眼ではわからないはずだ。騎士たちには、不調を見抜かれることは命取りになるから悟らせるなと言って育ててきた。実際左右の手の色が違うと指摘したが、パッと見では左右差の見分けはつかない。
このお二人には何が見えているのだろう。物の見え方が違うとしか思えない。何しろ私を見て泣かなかったのだから!
騎士たちの間で二天使は見る薬と言われ「二天使聖女説」とふざけて良く話されているが、あながち間違いでもないのかもしれない。指圧練習をする姿を見ているだけで疲れが取れているのを感じる。ルカたちの指圧を見ても疲れが取れたことなど皆無だ。
「だんちょ様、だんちょ様」
騎士たちの練習が再開され、我々はまた見学席に戻るとリオン殿が声をかけてきた。
「だんちょ様、おてて、みせてください」
手のひらを開いてこちらに向けている。紫の瞳が真っ直ぐ私を見ている。
不思議だ。目が合うだけで子ども相手に自分が一人の人間として認められたような気になる。…可愛らしい。癒される…。私が口に出したら捕まりそうだな。
そっと手を広げて出すと、その手を重ねてきた。…幼児に触れたのいつ以来か?手のひらの小さな部分がほんのり温かくなる。小さな手だ。
「みてみてルゼ!おててのおおきさ、こんなにちがう」
「うんうん。だからしあつ、ぜんぜんちがうになったのね」
どうして自分たちの指圧は騎士の指圧と違うのか研究中らしい。ここで「面白かったね」で終わらないところが賢いな。どうしたら手が大きくなるか思案中だ。手袋を使ってみることにしたらしい。
手袋をしたところでまだまだ小さな手だろうが、その手のひらには世界が乗っているような気がする。
本当にこのお二人には世界がどのように見えているのだろうか。いつか、じっくり話を聞いてみたい。
19
あなたにおすすめの小説
過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件
やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。
発端は彼女の父親が行方不明となり、叔父である父の弟が公爵邸に乗り込んで来たこと。
何故か叔父一家が公爵家の資産に手を付け散財するが、祖父に相談してもコロネに任せると言って、手を貸してくれないのだ。
そもそも父の行方不明の原因は、出奔中の母を探す為だった。その母には出奔の理由があって…………。
残された次期後継者のコロネは、借金返済の為に事業を始めるのだ。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる