金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第四章

第三話 モデルになります!〜父上は母上の釣り書きをスルーしていた

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 王宮でのイベントからしばらく経った。
 ゴム製の馬はリオンやルゼルだけでなく、ヴァジュラやアロンにもたいへん気に入られた。
 なによりヴァジュラの激しい遊び方にも破損しない耐久性があった。
 「思わぬ最強のモニターがいた…」ジゼルは今後も玩具の開発には耐久性や意外な使い方のデータとしてヴァジュラの破壊力を参考にしたいと思ったが、流石に王族に対する不敬行為になる。残念。と、思っていたところ、ゴム製馬で遊ぶヴァジュラを見ていた国王が「ジゼル…今後、新しい玩具の耐久性を調べる際にはヴァジュラを使ってやってくれないか。あれに耐える玩具なら国民に安心して普及させられるし、ヴァジュラの遊びの閾値も測れる…それがわかれば護衛たちの苦労も減るだろうから」と言ってジゼルを見た。
 ヴァジュラは一国の王子なのだが…?とジゼルが王妃マディに目をやるとマディも深く頷いていた。ヴァジュラにモニターさせるためのモニターが必要なのでは?いや、あの国王の血が流れているからどれほど頑丈かは旧友のジゼルは百も承知なのだが…だめだめ、やはり王子にいきなりモニターはさせられない。だが、かなりの逸材…。
 

 ジゼルが悶々としている中、ゴム製の馬は子どもの新たな玩具として『ポムポムホース』という名前で一般世間に販売された。
 だが、売れ行きがあまり良くない。
 まず見た目のずんぐりむっくりさが大人受けしないようだ。スリムな木馬で遊んだ富裕層やそれに憧れていた大人たちからはポムポムホースはカッコ良さがないように思われたのだ。
 次に価格だ。木馬の方が安い。
 リディラからの啓示にも似た挑戦を受けてから、ゴム製の馬開発にはクイン家の化学班一同が数々の研究と実験を重ねていた。
 大人しか使えない重さのボールをいかに軽くするか。まずはそこからだった。軽い中身を探すのに時間がかかった。研究員たちが行き詰まった時に誰かが言った「何も思いつかない。私の頭の中は空気より軽いのか…」という呟きが打開になった。「そうだ!空気だよ空気!中は空気にしよう!」
 次は空気の周りにどうやってゴムを巻くかということで、円形のゴムの袋を開発した。その次はその中に入れる空気量とゴムの厚さとその維持の方法だ。薄いと割れ、硬いと子どもの体重では操作しにくい。
 これの打開策はルゼルの言葉だった。
 「人体さまのご本でわかりました。すーはーってすると、おむねがうごくの。心臓かと思ったら肺でした」
 それを聞いたジゼルはまずは安定の親バカ発動。胸が動くのが不思議だったとは、流石我が息子ルゼル。目の付け所が違う。しかしルゼルの人体熱は一向に冷めないな。人体様…我が家にも数体買おうかな。本より立体的に肺がわかって楽しむだろう…肺か…肺も空気を入れ込んでるんだよな…。…。…!これでは⁉︎。
 かくして、胴体ゴムの袋に小さな開閉式の穴を開けた。空気を入れた胴体に遊びを持たせたのだ。弾む毎に少し空気が抜けるようにすることでゴムの破裂をふさぎ、空気が減ったらまた入れるという方法で空気量の安定と厚さ問題を解決に導いた。
 様々な問題を化学班と開発班が根気よく解決していった。そんな力作だ。質も用途も玩具としての自信がある。
 ポムポムホースの楽しさと安全性を知ってもらえたら間違いなく受け入れられるはずだが、どうしたものかとジゼルは悩んでいた。

 家族揃っての食事の時だった。「父上、いたいのあるのですか?」とルゼルが聞いてきた。
 「いや、そういうわけではないんだ…が…」
 最近、ルゼルの観察眼は全く侮れないものとなっていた。特に家族の微細なことにとても鋭い。だから仕事の話など子どもにすべきではないとわかっているのだが、ルゼルには下手な嘘はつきたくなかった。
 「うーん。ポムポムホースの良さを知ってもらいたいのだが、どうしたら知ってもらえるのかなと考えていたのだよ」
 ジゼルは仕事で派生するお金の問題より、純粋にポムポムホースの良さを知らしめたいと思っていた。(お金ならあるから)
 「ぽむぽむ、あろん、すき」
 まずアロンがにこにこして言った。
 「私も好き。だーい好きです」
 これはルゼル。そしてルゼルとアロンが「ねー」と顔を見合わせて頷き合う。ほわっとした空気が漂う。
 うちの子たち、可愛い。可愛い。可愛いっ。この気持ちを世の親たちにも味合わせたい。
 ジゼルはポムポムホース販売は使命とさえ思い始めた。
 リディラがルゼルとアロンに聞く。
 「ポムポムお馬さんのどこが好きなの?」
 同時にチラッと侍女のルルを見た。ルルは黙って頷く。
 「んとんと、かるくて、私の力でももてるとこ」
 「ぴょんしゅる」
 「自分でぴょんできる。ぴょんしながら前にいくとこー」
 「クルッて」
 「うんうん、クルッて向きをかえられるとこー」
 「わくわくー」
 「うん!たのしーなとこー!」
 「きゃー」
 「きゃー」
 二人がポムポムホースで遊んだことを思い出してキャイキャイし始めたのをにこやかに聞いていたリディラが付け足す。
 「見ていても楽しいですわよね。何より木馬より安全ですわ。お父様はポムポムホースの何を知っていただきたいの?」
 「私か?それはポムポムホースの安全性と、何より子どもたちが楽しめるということだよ」
 「ではそれらを広告に盛り込んでみては?」
 「広告ならもう玩具屋の店頭に貼っているよ」
 「足りませんわ」
 リディラ、バッサリ。
 「それでは玩具を買いに来た人しか見ないじゃないですか。玩具を買いに来ない人ににさせるための広告ですわよ」
 こうなると当主ジゼルとリディラ、二人の会話となる。シャロンたちは『リディラ、ゾーンに入った』と展開をワクワクして見守る態勢になる。
 「例えば?」
 「玩具屋から離れた場所の雑貨屋やパン屋や大衆食堂など、人が生活でよく利用する場所に広告を貼らせていただくのよ」
 「それもやっているんだがなぁ」
 「あとは世の中のお母様方がお話をする場所ですわ。井戸端会議とかいう会議場ですわ。それから子ども向けの本の間に挟ませていただくのと、色鉛筆のような文具の中に入れさせていただくのも必要ですわよね」
 なるほど、確かに良い。
 「井戸端会議場に貼れるかは確認が必要だが、本や文具なら我が家で販売している製品に入れるだけだからできるな。いっそ本には最終ページに広告を印刷してしまうか。挟む手間がなくなるからな」
 「それはダメよお父様。万が一ポムポムホースの販売を中止するとなったらその広告ページが残り続けるのはよろしくないわ。それに『これ欲しい』と本ごと見せるより紙一枚の方が楽だわ」
 なるほど。
 「次にお父様、今の広告はどんな広告なんですの?」
 「ポムポムホースの絵と、安全だということと楽しいということを文字で書いたものだ」
 「足りませんわ」
 バッサリ。
 「何が足りないんだ?」
 「にさせるものが足りません」
 「では何を足す?」
 「お父様。お父様は昔はどなたとも結婚する気がなかったと聴いてますわ」
 「えっ、急になんの話だ?」
 「中等学園入学前にお父様に寄せられた釣り書きの中にお母様のものもあったとか。それでもお断りしたのですってね」
 「そうだが…なんの話?」
 ジゼルはチラリとシャロンを見た。シャロンは少し下を向いて小さく笑っている。あぁ、幾つになっても我妻は愛らしい。釣り書きの絵姿以上だ。とはいえ、シャロンを意識し出してから以前届いていたシャロンの釣り書きを従者に探し出してもらい引き出しにしまったのは子どもたちには内緒だ。
 「ですが、学園でお母様とお会いして今こうして私たちがいるのですわ」
 ここでルゼルが言う。
 「ってなんですか?」
 答えるのはリゼルだ。
 「釣り書きというのはね、この人と結婚しませんかっていう情報が書いてある書類だよ。お父様の頃はお相手のご令嬢の絵姿と簡単な紹介文みたいなことが書いてあったはずだよ」
 「ありがとござます。よくわかりました」
 続けてルゼルが言う。
 「アネー…上の言うとおりだと思います」
 なにが?というのがその場の反応だ。
 「何が?」
 代表してリゼルが聞く。
 「父上はの母上は好き好きにならなかったけど、会ったら好き好きになったってことです。
 ポムポムのお馬さんもでは好き好きにならないから、ほんものかがいいということです」
 リディラが付け足す。
 「お母様とポムポムお馬さんを比べるのは申し訳ないですけど、そういうことなんです。要はとかということが広告にあればいいんですわ。あとは魅力的な決め文句」
 確かに、入学前に初めて見た時のシャロンの釣り書きはあまり印象に残っていなかった。というより釣り書きはどれも同じような事しか書いておらず、絵姿も盛られているのが当たり前でアテにならないと思っていたからだ。だが、学園で出会ったシャロンは絵姿以上の愛らしさだったし(何度でもそう思う)釣り書きに書いていないことの方がシャロンらしさがあり魅力だった。
 「なるほどそういうことか」
 「そうです。そこで、先程アロンたちが言った楽しい点、決め文句、お父様が伝えたいことを簡潔に書いて、ルゼルが言うようにポムポムで遊ぶ子どもの写真を広告に使うのですわ。アロンたちの言ったことはルルが書面にして渡しますわ」
 「しかし子どもの写真というのは、誰に…」
 「…ルゼルたちしかいないでしょう?」
 リディラが早口で笑った。
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