モウモク

イレイザー

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第2話

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   鳥の鳴き声、朝から吠える近所の犬、そして部屋に響き渡るアラームの音。全てが重なり合う様子はまるで小さな楽団だ。僕はアラームを止める。部屋は静まり返る。その静けさに思わず眠気が襲ってきたので、思い切り布団を剥ぐ。空中に舞う埃は新しい何かを僕に予感させた。
   朝が、来た。冬の肌に突き刺す様なあの寒さは和らいだとはいえど、朝はまだ冷える。
   「栄二ー!早く起きなさい!ご飯冷めるよ!」
   一階から母の声が響く。
   「はーい。(面倒だな)」
   仕方なく思い瞼を持ち上げ、気怠げにドアを開ける。
   温かい朝ご飯を胃に収め、制服に身を包む。
   高校に入って今年で二年目。来年から始まる受験を想像して面倒くさいと思いながらいつもの通学路を一人で歩く。朝のこの時間帯は友達と楽しそうに話しながら登校する同じ学校の生徒や忙しそうに早歩きをしている会社人しかいない。
   いつもの光景のはずなのに、僕の少し前の所からみんな怪訝な顔をして真ん中の方を避けるように歩いている。近づいて見ると、そこには二匹の猫が、横たわっていた。状況は少し違かったがそれはまさに、僕が見た夢そのものだった。
   僕の近くに夢で見た霧は居るはずもなかった。
   「ねえねえ、昨日の番組見たー?」
   「ヤベー課題やってねー。」
   朝のホームルーム前の教室は騒がしい。
   「おーい栄二!おはよう!」
   「ああ、おはよう大地。(今日も元気だな)」
   彼は倉野大地。小学校からの付き合いで僕とは違って明るく、元気で活発な人間だ。
   「おい、何かお前いつにも増して暗くないか?暗すぎて、あれだ、てっきりお前が闇に堕ちるのかと思ったぜ。」
   「(いくらなんでも言いすぎだ。)いや、実はな登校中に猫が死んでいたんだ。」
   「そうだったのか・・・」
   彼は落ち込んでいたような表情をしたのと、朝のチャイムが鳴ったのはほぼ同時だった。
   「やべっ、じゃあまた後でな。」
   彼はそそくさと自分の席に戻る。今この場に生まれた重い空気はいつのまにか、どこかに消えて行ってしまった。
   午前の授業と昼ご飯を消化した僕たち学生はどこか気怠げな午後の授業を過ごしていた。
   真面目にノートを取る者もいれば窓の景色を死んだような目で見ているものもいる。教師に隠れてスマートフォンを触っている奴は一体何をしに学校に来ているんだろうか。
   ちなみに僕はこの時間帯の授業は大体寝ている。誰でも満腹になったら、寝てしまうと僕は思う。大地にはよく、
   「お前って授業中いつも寝てるよな。」
   と言われている。失敬な。
   今の授業は世界史、ひたすらに板書する先生だから、今も眠気が僕に襲ってきている。まあ、僕は争うのが好きではない平和主義だから眠気とは戦わずに深くて暗い、意識と無意識の狭間に堕ちていく。
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