1 / 119
1.プロローグ1
しおりを挟む
王国歴321年6月2日、ここは、アムスム王国と、ベー王国の国境付近、アー川と支流のノー川の合流付近、辺りは一面の湿地帯である。しかし、アー川の河岸付近にはアーの丘と呼ばれる少し小高い丘陵が広がっている。その丘陵の上にアムスム王国テー公爵家とその寄子の貴族家の領軍1万が布陣している。
テー公爵家当主のジグムントがベー王国に不穏な動きがあるという知らせを受けたのは1か月前、それから準備を進め、国王にも援軍要請を出し、領都を出たのは1週間前、ベー王国軍のアー川渡河を許してしまうとテー公爵領に甚大な被害が出る。そのため、アムスム王国軍の援軍を待たずに、戦略上の要地である、アーの丘を急きょ確保したのである。
その夜、軍議が開かれた。参加したのは、テー公爵家当主のジグムント様、騎士団長のオトー様、副騎士団長のギジル様、それに、寄子の貴族家の当主様方、それに俺、ハルトである。
俺のような若輩者がこのような軍議に本来は参加することはないのだが、これは俺が数字に強く状況整理がうまいということで、ジグムント様の強い要請の結果である。
「皆の者、よく集まってくれた、まずもって礼を言う」
ジグムント様の開会の挨拶が始まる。
「もったいないことです。我らが集まるのは当然のこと」
一同から返答がある。これに対してジグムント様が
「それではハルト、状況の説明と、今後の方針を伝えてくれ」
この言葉を聞いて俺は説明を始める。
「それでは状況の説明をさせてもらいます。本来なら私のような若輩者が皆様の前に出るのもおかしいのですが、有事ということでジグムント様から急遽、仮の作戦参謀という職を預かっております。
それではさっそく説明に入らせてもらいます」
「現在テー公爵家とその寄子の貴族の軍約1万は、このアーの丘に陣を敷いています。そして、問題のベー王国軍は、昨日入った情報によると約3万とのことです。そしてアー川の対岸に到着するのは、約1週間後の6月9日頃と予想されます。
これに対して、援軍のアムスム王国軍は5月25日に王都を出たとの情報が入っております。それから、ここアーの丘まで順調にいったとして約3週間かかります。そうすると、援軍が到着するのは早くて6月15日頃と予想されます。
しかし、ベー王国軍約3万という情報が入れば、途中の貴族に増援を要請すると予想されます。そうすると援軍の到着はさらに遅れるかと思われます。私としては援軍の到着は6月20日頃と予想しております。
ご承知のように、ここアーの丘を抜かれるとテー公爵領に甚大な被害が出ます。また途中、軍を立て直すのも難しく、むしろ援軍に合流して体制を立て直す方がよくなります。
そのため、是非ともこのアーの丘で敵軍を食い止める必要があります。少なくとも10日間はこの丘で耐える必要があります。
『通常城攻めの場合、攻める方は守る方の3倍の兵力を必要とする。』と言われております。現在わが軍は約1万、敵は約3万ということで、いかに強固な陣地を築くかが今回の戦の勝敗を決すると考えています。
現在、丘の一番高いところに陣地を構築し、その下の平原と交わる付近に堀を掘っております。また陣地との間には木柵を立てて、塹壕を掘っている状況です。これはあと5日後の6月7日には完成すると考えています。
しかし、これだけでは敵軍を食い止めるのは無理と考え、アー川の支流のノー川上流に川を一部せき止めて水を蓄えております。
敵軍がアー川を渡る状況で堰を切れば濁流がアー川にあふれ、敵軍に被害を与えると考えております。しかし、これは1回限りの戦法です。
水が引いた後、再度攻められると、この陣地で耐える必要があります。そのため、川を渡ったあたりにも柵を設置するとともに、丘陵の柵も2重にしようと考えております。
ただ、この作業がどこまでできるかは、敵軍の到着によるといえます。敵軍の到着が当初の6月9日の場合はほとんど間に合わないというのが実情です」
俺の説明は続く。ただ、これを聞いた諸将の顔は暗く沈んだ。
しばらくして、ジグムント様が
「とにかくやれるだけ、やってみようと思うので、皆も私に命を預ける形で協力してもらいたい。頼む」
とおっしゃられると、
「わかりました。」
と諸将の声がする。
「それでは続けてくれ」
ジグムント様の声が続く。
「それでは、続けさせてもらいます。6月9日に敵軍が対岸に到着後、こちらから魔法士による遠距離攻撃を行います。
通常ですと、この距離では魔法は対岸まで届きませんが、風魔法による支援魔法を行えば、距離が伸びると考えております。また、状況によりますが、火矢も風魔法による支援を行えば、対岸まで届くかもしれません。
ただ、敵軍が川の半ばくらいまで来たら、貴重な魔法士を失うわけにいきませんので、魔法士は後方に下がらせます。
その後敵軍が川のこちら側に来た時点で上流の堰を切ります。濁流がこの付近に来るのは堰を切ってから30分から1時間後なので、その間敵軍をなるべく河川敷の低地に足止めするように諸将の方々は奮戦をお願いします。ただ、
濁流に呑まれるといけないので、引き際を間違えないようにお願います。
これで敵軍にどれくらいの被害を与えられるかによって今後の戦い方が変わってきますので、今後の戦い方はその状況を見て考えたいと思います。私からの説明は以上です」
そのいくつかの質疑の後、ジグムント様が現地の配置の説明をされた。中央は騎士団長のオトー様、右翼は副騎士団長のギジル様、左翼は、寄子の伯爵家の当主様、そして、全体の指揮をジグムント様がとり、さらに遊撃隊として、俺は500人の兵を任された。これは意外であった。
諸将が引き揚げた後、ジグムント様が俺の耳元でささやいた。
「堰は1回だけか」
これに対して「3」と答えた。
また「柵はどうか」と聞かれたので、
「水が引くまでには、間に合わせます」と答えた。
テー公爵家当主のジグムントがベー王国に不穏な動きがあるという知らせを受けたのは1か月前、それから準備を進め、国王にも援軍要請を出し、領都を出たのは1週間前、ベー王国軍のアー川渡河を許してしまうとテー公爵領に甚大な被害が出る。そのため、アムスム王国軍の援軍を待たずに、戦略上の要地である、アーの丘を急きょ確保したのである。
その夜、軍議が開かれた。参加したのは、テー公爵家当主のジグムント様、騎士団長のオトー様、副騎士団長のギジル様、それに、寄子の貴族家の当主様方、それに俺、ハルトである。
俺のような若輩者がこのような軍議に本来は参加することはないのだが、これは俺が数字に強く状況整理がうまいということで、ジグムント様の強い要請の結果である。
「皆の者、よく集まってくれた、まずもって礼を言う」
ジグムント様の開会の挨拶が始まる。
「もったいないことです。我らが集まるのは当然のこと」
一同から返答がある。これに対してジグムント様が
「それではハルト、状況の説明と、今後の方針を伝えてくれ」
この言葉を聞いて俺は説明を始める。
「それでは状況の説明をさせてもらいます。本来なら私のような若輩者が皆様の前に出るのもおかしいのですが、有事ということでジグムント様から急遽、仮の作戦参謀という職を預かっております。
それではさっそく説明に入らせてもらいます」
「現在テー公爵家とその寄子の貴族の軍約1万は、このアーの丘に陣を敷いています。そして、問題のベー王国軍は、昨日入った情報によると約3万とのことです。そしてアー川の対岸に到着するのは、約1週間後の6月9日頃と予想されます。
これに対して、援軍のアムスム王国軍は5月25日に王都を出たとの情報が入っております。それから、ここアーの丘まで順調にいったとして約3週間かかります。そうすると、援軍が到着するのは早くて6月15日頃と予想されます。
しかし、ベー王国軍約3万という情報が入れば、途中の貴族に増援を要請すると予想されます。そうすると援軍の到着はさらに遅れるかと思われます。私としては援軍の到着は6月20日頃と予想しております。
ご承知のように、ここアーの丘を抜かれるとテー公爵領に甚大な被害が出ます。また途中、軍を立て直すのも難しく、むしろ援軍に合流して体制を立て直す方がよくなります。
そのため、是非ともこのアーの丘で敵軍を食い止める必要があります。少なくとも10日間はこの丘で耐える必要があります。
『通常城攻めの場合、攻める方は守る方の3倍の兵力を必要とする。』と言われております。現在わが軍は約1万、敵は約3万ということで、いかに強固な陣地を築くかが今回の戦の勝敗を決すると考えています。
現在、丘の一番高いところに陣地を構築し、その下の平原と交わる付近に堀を掘っております。また陣地との間には木柵を立てて、塹壕を掘っている状況です。これはあと5日後の6月7日には完成すると考えています。
しかし、これだけでは敵軍を食い止めるのは無理と考え、アー川の支流のノー川上流に川を一部せき止めて水を蓄えております。
敵軍がアー川を渡る状況で堰を切れば濁流がアー川にあふれ、敵軍に被害を与えると考えております。しかし、これは1回限りの戦法です。
水が引いた後、再度攻められると、この陣地で耐える必要があります。そのため、川を渡ったあたりにも柵を設置するとともに、丘陵の柵も2重にしようと考えております。
ただ、この作業がどこまでできるかは、敵軍の到着によるといえます。敵軍の到着が当初の6月9日の場合はほとんど間に合わないというのが実情です」
俺の説明は続く。ただ、これを聞いた諸将の顔は暗く沈んだ。
しばらくして、ジグムント様が
「とにかくやれるだけ、やってみようと思うので、皆も私に命を預ける形で協力してもらいたい。頼む」
とおっしゃられると、
「わかりました。」
と諸将の声がする。
「それでは続けてくれ」
ジグムント様の声が続く。
「それでは、続けさせてもらいます。6月9日に敵軍が対岸に到着後、こちらから魔法士による遠距離攻撃を行います。
通常ですと、この距離では魔法は対岸まで届きませんが、風魔法による支援魔法を行えば、距離が伸びると考えております。また、状況によりますが、火矢も風魔法による支援を行えば、対岸まで届くかもしれません。
ただ、敵軍が川の半ばくらいまで来たら、貴重な魔法士を失うわけにいきませんので、魔法士は後方に下がらせます。
その後敵軍が川のこちら側に来た時点で上流の堰を切ります。濁流がこの付近に来るのは堰を切ってから30分から1時間後なので、その間敵軍をなるべく河川敷の低地に足止めするように諸将の方々は奮戦をお願いします。ただ、
濁流に呑まれるといけないので、引き際を間違えないようにお願います。
これで敵軍にどれくらいの被害を与えられるかによって今後の戦い方が変わってきますので、今後の戦い方はその状況を見て考えたいと思います。私からの説明は以上です」
そのいくつかの質疑の後、ジグムント様が現地の配置の説明をされた。中央は騎士団長のオトー様、右翼は副騎士団長のギジル様、左翼は、寄子の伯爵家の当主様、そして、全体の指揮をジグムント様がとり、さらに遊撃隊として、俺は500人の兵を任された。これは意外であった。
諸将が引き揚げた後、ジグムント様が俺の耳元でささやいた。
「堰は1回だけか」
これに対して「3」と答えた。
また「柵はどうか」と聞かれたので、
「水が引くまでには、間に合わせます」と答えた。
8
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
召喚獣スライムに転生したが、美少女召喚士が自分のすごさにまったく気づかない
椎名 富比路
ファンタジー
美少女召喚士リップルに召喚される形で、スライムの【ロピ】ちゃんとして転生したヒロミ。
リップルは誰しも認める天才美少女召喚士で、召喚獣からも慕われている。
なのに、本人はまったく無自覚で、自分の力より召喚獣のほうが優秀だと思っている。
だが、ロピちゃん本人も、自分が最強だと気がついていなかったのである……。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
{完結保証}規格外の最強皇子、自由に生きて無双する〜どこへ行っても、後世まで語られる偉業を残していく、常識外れの皇子〜
Saioonji
ファンタジー
母に殴られ、命を奪われた――そのはずだった。
だが目を覚ました先は、白く豪奢な王城の一室。
赤子の身体、仕えるメイド、そして“皇子”という立場。
前世では愛されず、名前すら価値を持たなかった少年が、
今度は世界の中心に生まれ落ちてしまった。
記憶を失ったふりをしながら、
静かに、冷静に、この世界を観察する皇子。
しかし彼の中には、すでに常識外れの思考と力が芽生えていた。
――これは復讐でも、救済でもない。
自由を求めただけの少年が、
やがて国を、歴史を、価値観そのものを揺るがしていく物語。
最強であることすら、彼にとってはただの前提条件だった。
重複投稿作品です
小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
貞操逆転世界の「内助の功」~掃除と料理を極めた俺が、脳筋幼馴染を女王にするまで~
ありゃくね
ファンタジー
前世の記憶が目覚めたそこは、男女の貞操が逆転した異世界だった。
彼が繰り出すのは、現代知識を活かした「お掃除アイテム」、そして胃袋を掴む「絶品手料理」。 ただ快適に暮らしたいだけのマシロの行動は、男に飢えた女騎士たちを狂わせ、国の常識さえも変える一大革命へと繋がっていく。
ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした
渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞!
2024/02/21(水)1巻発売!
2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!)
2024/12/16(月)3巻発売!
2025/04/14(月)4巻発売!
2025/09/12(金)5巻発売!同日コミカライズ開始!
2026/03/16(月)コミカライズ1巻発売!
応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!!
刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました!
旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』
=====
車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。
そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。
女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。
それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。
※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる