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3.風のささやき
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一面の麦畑、そこを吹き抜ける風は、頬に心地よい涼しさを与えてくれる。ハルトは、草取りの手を休め、あたりを見渡してみる。近くでは父や母、兄や姉そして妹が一心に草取りの作業にいそしんでいる。遠くでは、丘の向こうに、みなみの山と呼ばれる山々、そしてそこから延びた嶺線の裾の森が見える。空には丸、三角時には獣の形のような雲が流れていく。時折空を飛ぶ鳥の声も聞こえてくる。ハルトは4歳。季節は夏、今日もコー村は平和である。
そんな時、「なぜか違う。」そう思ってしまった。なぜと言われても、何となく、そう何となくである。しいて言うならば、「風の香り」とでも言おうか、そんな感じである。
しばらく、ぼうと突っ立って居たら、「こら仕事しろ。」と父の声が飛んできた。あわててハルトはまた草取りの作業を再開するのであった。
一日が終わり、夜、布団に入ってから、昼間覚えた違和感を思い出してみた。湿ったギラギラした風でない涼風、そして辺りの景色も、田んぼでない麦畑、舗装されたアスファルトではなく踏み固められただけの土の道、コンクリートでない藁と木の家、そんな言葉が自然と出てきた。ギラギラした風、田んぼ、アスファルト、コンクリート、なんだ、それ、そう思ったとき、何となくではあるが、それらの言葉の意味が分かったような気がした。遠い夏の日に重い鞄を肩から下げて、地下鉄の駅から出てきた自分が思い出されてきた。見上げれば首が痛くなるような高いビルに囲まれたコンクリートジャングルの中で、憂鬱な気分を抱えながら額の汗をぬぐう。この書類、説明に詰まったら、「また来ます。」って言いたくないよな、ああ早く夕方にならないかな、そんな自分がいた。東京出張、それはとてつもなく暗い言葉であった。前日までは資料作りの残業、当日は朝暗いうちから家を出て、家に帰るのは日付が変わってから、そして次の日はいつも通りの通常勤務。思い出すと涙がにじんできた。
にじんだ涙をぬぐって、体を起こして、隣を見ると、暗い中、うっすらと両親と兄と姉そして妹のシルエットが見え、かすかな寝息が聞こえてきた。「ああよかった。」そう思ったとき、「なんでこんな記憶があるのかな。」そう思った。そして、「俺、生まれ変わったのか。」そんな言葉が出てきた。そしてそれが一番しっくりいくような気がした。そんなことをしばらく考えていたが、昼間の農作業の疲れもあってまた、すぐに寝入ってしまった。
それからしばらくして、教会で勉強を教わる日となった。小さな村ではあるが、村には小さい教会があり、年老いた神父さんと若いシスターがいた。そして、わずかなお金で週に1度、村の子供たちに勉強を教えていた。
内容は文字の読み書きと計算そして、教会の教えであった。それ以上のことは村の人間にはあまり必要でないので、というか神父さんもシスターもあまりわかっていないので、教えられないというのが実情であった。強いていえば文字の読み書きもこの村ではあまり必要ではないが、これができないと、時折訪れる商人に騙されたりする恐れがあるのと、村では耕せる農地が限られているため、これ以上の人口を養えないため、村を出ていく若者たちが町へ行ったときに、仕事に就けるようにするためである。
ハルトは兄、姉、そして妹と一緒に教会に行った。村のみんなも来ていた。しばらくすると、神父さんとシスターが来て勉強が始まった。兄と姉のような8歳から6歳くらいの子は、文字の読み書きに加えて計算、ハルトのような6歳から4歳くらいの子は文字や数字の読み書きであった。妹はまだ小さいので無理であったが、兄弟姉妹で1人だけ家に置いておくと、ぐずるので一緒に連れてきてハルトの隣で座っているのである。ちなみに兄8歳、姉6歳、ハルト4歳、妹2歳である。
窓の外を見ると、教会の敷地にある大きな木からは絶えず蝉の声が聞こえており、近くの家の間からは、一面の麦畑が見える。そして、そこを吹き渡る風が時折窓から流れてきて、心地よい涼しさを醸し出していた。そんな風の匂いにまどろんでいた時に、ふいに違和感を覚えた。それまでは難しくてわからないと思っていた文字や数字が手に取るようにわかるのである。それどころか、少し離れたところにいる年上の組の勉強の内容までわかるのである。
「あれ」、「あれ」、「あれ」。「おれ、どうしたんだ。」そう思った。以前、風の香りを感じた時「俺、生まれ変わったのか。」と思ったが、今回は、「これって前世の記憶。」そう思った。「前世の記憶なら少なくとも、東京出張をしていたのだから、大人になっていると考えると、文字の読み書きや計算ができても当たり前である。」そんなことを考えていたら、シスターから、「ハルト君、どうかしたのですか。」と言われたので、そのことはまた夜に考えることにした。
そんな時、「なぜか違う。」そう思ってしまった。なぜと言われても、何となく、そう何となくである。しいて言うならば、「風の香り」とでも言おうか、そんな感じである。
しばらく、ぼうと突っ立って居たら、「こら仕事しろ。」と父の声が飛んできた。あわててハルトはまた草取りの作業を再開するのであった。
一日が終わり、夜、布団に入ってから、昼間覚えた違和感を思い出してみた。湿ったギラギラした風でない涼風、そして辺りの景色も、田んぼでない麦畑、舗装されたアスファルトではなく踏み固められただけの土の道、コンクリートでない藁と木の家、そんな言葉が自然と出てきた。ギラギラした風、田んぼ、アスファルト、コンクリート、なんだ、それ、そう思ったとき、何となくではあるが、それらの言葉の意味が分かったような気がした。遠い夏の日に重い鞄を肩から下げて、地下鉄の駅から出てきた自分が思い出されてきた。見上げれば首が痛くなるような高いビルに囲まれたコンクリートジャングルの中で、憂鬱な気分を抱えながら額の汗をぬぐう。この書類、説明に詰まったら、「また来ます。」って言いたくないよな、ああ早く夕方にならないかな、そんな自分がいた。東京出張、それはとてつもなく暗い言葉であった。前日までは資料作りの残業、当日は朝暗いうちから家を出て、家に帰るのは日付が変わってから、そして次の日はいつも通りの通常勤務。思い出すと涙がにじんできた。
にじんだ涙をぬぐって、体を起こして、隣を見ると、暗い中、うっすらと両親と兄と姉そして妹のシルエットが見え、かすかな寝息が聞こえてきた。「ああよかった。」そう思ったとき、「なんでこんな記憶があるのかな。」そう思った。そして、「俺、生まれ変わったのか。」そんな言葉が出てきた。そしてそれが一番しっくりいくような気がした。そんなことをしばらく考えていたが、昼間の農作業の疲れもあってまた、すぐに寝入ってしまった。
それからしばらくして、教会で勉強を教わる日となった。小さな村ではあるが、村には小さい教会があり、年老いた神父さんと若いシスターがいた。そして、わずかなお金で週に1度、村の子供たちに勉強を教えていた。
内容は文字の読み書きと計算そして、教会の教えであった。それ以上のことは村の人間にはあまり必要でないので、というか神父さんもシスターもあまりわかっていないので、教えられないというのが実情であった。強いていえば文字の読み書きもこの村ではあまり必要ではないが、これができないと、時折訪れる商人に騙されたりする恐れがあるのと、村では耕せる農地が限られているため、これ以上の人口を養えないため、村を出ていく若者たちが町へ行ったときに、仕事に就けるようにするためである。
ハルトは兄、姉、そして妹と一緒に教会に行った。村のみんなも来ていた。しばらくすると、神父さんとシスターが来て勉強が始まった。兄と姉のような8歳から6歳くらいの子は、文字の読み書きに加えて計算、ハルトのような6歳から4歳くらいの子は文字や数字の読み書きであった。妹はまだ小さいので無理であったが、兄弟姉妹で1人だけ家に置いておくと、ぐずるので一緒に連れてきてハルトの隣で座っているのである。ちなみに兄8歳、姉6歳、ハルト4歳、妹2歳である。
窓の外を見ると、教会の敷地にある大きな木からは絶えず蝉の声が聞こえており、近くの家の間からは、一面の麦畑が見える。そして、そこを吹き渡る風が時折窓から流れてきて、心地よい涼しさを醸し出していた。そんな風の匂いにまどろんでいた時に、ふいに違和感を覚えた。それまでは難しくてわからないと思っていた文字や数字が手に取るようにわかるのである。それどころか、少し離れたところにいる年上の組の勉強の内容までわかるのである。
「あれ」、「あれ」、「あれ」。「おれ、どうしたんだ。」そう思った。以前、風の香りを感じた時「俺、生まれ変わったのか。」と思ったが、今回は、「これって前世の記憶。」そう思った。「前世の記憶なら少なくとも、東京出張をしていたのだから、大人になっていると考えると、文字の読み書きや計算ができても当たり前である。」そんなことを考えていたら、シスターから、「ハルト君、どうかしたのですか。」と言われたので、そのことはまた夜に考えることにした。
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