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さらば、東京

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止まっていた白のメルセデス・ベンツに千鶴と麻琴は乗り込んだ。

「お帰りなさいませ、麻琴様。今回は大変な想いをされましたね。お悔やみ申し上げます。お嬢様。旦那様と奥様が沖縄でお待ちかねでございます。午後の航空機をいくつか抑えております。羽田までお送りいたします。」

彼女は麻琴を横目に初老の運転手を指した。

飛鳥あすかって言うの。本名よ。クスリで逮捕された芸能人みたいでしょう?」

「いや、それを言うなら、奈良地方にある古墳でしょ?」

二人は互いの指を絡み合わせ笑い合った。

「このジジィを弄らないで下され。これでも千鶴様のオムツを代えた経験もございます。私はお嬢様を娘のように慕っております。それより千鶴様。お御髪が乱れておりますぞ。男性の前ではしたない。」

「はっ!」

彼女は焦ったように思わず頭に両手を持って行き、髪を整えようとした。

「嘘でございます。冗談でございます。先程、お嬢様は麻琴様の手解きでレディになられたのですね。長い道程でございましたね。」

飛鳥は白く蓄えた髭を触るのを止めてニヤニヤすると白いメルセデス・ベンツを発進させた。

「飛鳥・・・飛鳥の考えているような事はなかったわ。ね、麻琴。」

麻琴も大きく頷いた。再び二人は指を絡ませていた。

「信じますとも、この飛鳥、口だけは非常に堅いと言われております。お嬢様に何があったとしても旦那様には何も申し上げません。東京に出てきたのも大学の下見と参考書選びとしっかり申し上げて置きました。」

麻琴と千鶴は眼を合わせて大声で笑った。

「それが、見え透いた嘘なのよ。飛鳥。大学の下見と参考書選びに二週間もかかると思う?お父様は全部、お見通しよ。オトコよオトコ。薄々気付いているはずよ。お父様もお母様も。仕方ないな。ホントの事を言うわ。飛鳥。私、麻琴と最後まで、シなかったのよ。」

「笑っちまう。する、あと一息の所で、夜勤の看護師と日勤の看護師が交代で挨拶に来るんだもんな。」

「あたしたち、全裸っぽかったもんね。すごく、恥ずかしかった。看護師二人ドン引きしてて怒ってたし。」

「当たり前だ!病室をホテル代わりに使おうとしたんだからな。」

「でも、あの時、私達、どうすればよかったのっ!どっちもガマンできなかったでしょっ?特に麻琴が!」

「なんだよ。自分だって下からダラダラだったぜ。」

「もう、恥ずかしいから言わないで。心は決まってたんだから。」

「お嬢様は身体は差し上げなくとも、精神こころは全て骨抜きにされたようですな。ワッハハハハハハハ。麻琴様は幸せなお方だ。この飛鳥、二人のお気持ちしかと確かめましたよ。」

「もちろんよ。ね、麻琴。」

「な、ちづ。」

麻琴は去り行く東京の景色を眺めていた。二週間。梨沙を忘れるには充分な時間だった。身体の痛みが梨沙への嫌悪と怒りを思い出させる。もう、梨沙とは会うこともない。終わったんだ。これからは、千鶴と過ごして行く。彼女の無償の愛にこちらも絶対に答えなければならないと彼は心に誓った。

さらば、東京・・・

『そして、麻琴様は真栄城家の血脈ブラッドに翻弄されることになる・・・か?』

カッカッカッカッカッカッ!飛鳥は前を向いて運転しながら高笑いを始めた。

「何よ!ジジィ!気持ち悪いなぁ~」

後部座席から千鶴が飛鳥の頭を思い切り叩いた。

「あうっ!ありがたき幸せ!」

「何よ!ドM!急ぎなさい!私達、後ろでキスしたいから。ね?麻琴?」

「え?そうなの?ガッつくなぁ・・・」

「ダメなの?連れないなぁ・・・絶対、離さない。絶対よ。」

再び、さらば、東京・・・

麻琴は今日の東京にサヨナラのキスをした。







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