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52話 アウルコーン学院 3
しおりを挟む「アルゴン国王陛下、レヴィン殿! それからエステル殿も含めて、まことに申し訳ありませんでした!!」
リンバール王国の最高権力者、フレデリク様は応接室で土下座をして謝罪していた。ユルゲン王子殿下やリキッド様もその姿には狼狽えているようだ。
それは、シャラハザード王国側も同じだった。確かに、リキッド様がしでかしたことは、それくらい重大なことなんだけれど……1国の国王陛下が土下座をするなんて、まさに異常事態と言える。
「顔を上げてくれないか? フレデリク国王陛下」
「は、はい……」
アルゴン国王陛下の言葉に、フレデリク国王陛下は素直に従った。そして、顔を上げた瞬間に再び、話し出す。
「リキッドの処罰についてだが、落ち着くまでの間、保留にしてはもらえないだろうか?」
フレデリク国王陛下は一生のお願いだ! とばかりの剣幕で言葉を発していた。
「今から、リンバールへと戻ることになるが、リキッドやリディアが居なければ無事に帰れるかどうかも分からないのだ! 何卒、アルゴン殿!!」
今度は土下座こそしなかったけれど、フレデリク国王陛下は90度に頭を下げて嘆願していた。そんな彼の言葉を、アルゴン国王陛下は無言で聞いている。
「まあ、いいだろう。後に多額の賠償金や、リキッド・スネイルの処罰を行うと言うのであればな」
「おお、感謝する! アルゴン殿!」
「そっちの女……リディアと言ったか? お前も処罰は免れないと知っておくんだな」
「はい、心得ております」
アルゴン陛下の矛先はリディア様にも向いていた。どういうこと……?
「おそらくお前は、エステル・ラシードの結界の弱点を伝えることでリキッドをけしかけ、それと共にエステルにも身を守れる助言をしたのだろう? 真の目的はリキッドの失脚か」
「……そこまで見抜かれていたとは、感服いたします」
「リディア様……」
「ごめんなさい、エステル。私がいざとなれば守る手筈ではあったけれど、結果としてあなたを危険な目に遭わせた事実は変わらないわ」
リディア様もフレデリク国王陛下と一緒に、深々と頭を下げていた。なるほど……だから前日に守護方陣の特性を聞いて、助言をしてくれていたのか。アイン・ロードに襲われた時も真っ先に守ってくれたのにも、これで納得がいった。
「とにかく、あんたらはすぐにでも、祖国に帰るんだな。こうしている間にも、国が滅んでいるかもしれないのだから」
「す、済まない……! この件の後始末に関しては、いずれ必ず……!」
フレデリク国王陛下は早口でそう言うと、すぐに撤収の準備を開始していた。最早、リキッド様に余計なことを言わせない為の方策とも言える。結局その後、リキッド様は一言も反論する余地もなく、皆と共にリンバール王国へと戻ることになった。
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「しかし、よかったのですか? 彼らを一時的にとはいえ、許してしまって……つけ上がらないと良いのですが」
フレデリク国王陛下を初め、リンバール王国の人たちが去った後、レヴィン様がアルゴン国王陛下に言った。
「なんだかんだ言って、俺たちが有利な立場にはなっている。どのみち、リンバールが滅ぶようなことがあっては困るからな」
「確かにそうですが……しかし、エステルに対してここまでのことをされては……」
「お前としては許しがたいか?」
「はい、父上」
レヴィン様はハッキリとした口調で言ってくれた。とても嬉しい言葉だ。
「レヴィン様、ありがとうございます。そのお気持ちだけで、とても嬉しいです」
「ああ、本来なら、リキッド・スネイルはその場で打ち首でも問題ないほどの罪人だ。我が国で保護を約束した聖女に手を掛けようとしたんだからな」
「お気持ちはとても嬉しいです、レヴィン様……ですが」
「お前にしては、随分といきり立ってるな、レヴィン。なんだ? エステルに本気なのか?」
冗談めいた口調でアルゴン陛下は言った。隣に座っているルシエル王妃も笑っている。
「あらあら、とうとうレヴィンにも運命の人が現れたようね。王国を守る聖女と、次期国王候補の恋愛……なかなか、美しいシナリオになりそうですわね」
「ああ、ええと……」
私は顔を真っ赤にして俯いてしまった。レヴィン様とそういう関係になれたら、それは嬉しいけれど、孤児の私でも大丈夫なんだろうか? 確かにシャラハザード王国はその辺りは緩そうではあるけれど。むしろ、守護方陣の使い手と婚約した! っていうインパクトの方がはるかに勝っているとか? なるほど、そう考えるとそこまで不自然ではないのかもしれない。
「父上、母上……エステルが困っています。冗談はそのくらいにしていただけますか?」
「まあいい、このくらいにしておくか。さて、今後の方針だが……やはり、アウルコーン学院の調査は必要になるだろう。リンバール王国でも行うだろうが、それだけでは当てにならんからな」
やっぱりか……まさかここに来て、私の育った施設が矢面に立たされるとは思ってもみなかったけど。
「そうですね、父上。アウルコーン学院か……エステルの言っていた総合順位というのも気になるところだ、あの感情を消す特異な暗殺者で6位……エステル級の守護方陣の使い手で2位という数字も含めてな」
「はい、レヴィン様……」
アウルコーン学院の孤児たちが全員、敵と決まったわけではないけれど……なんだか私は嫌な予感が拭えなかった。
「一度、見学に行った方がいいかもですね」
「そうだな、ルールー。エステル、非常に申し訳ない事だが同行をしてもらえないだろうか? 君が居た方が、自然と様子見に来たという状況を作れると思うからな」
確かに……それは至極当然だった。レヴィン様やルールー達だけで訪れたら、怪しさしかないわけだし。
「わかりました、私も同行いたします」
「ありがとう、エステル」
「いえ、とんでもないことでございます。私もシャラハザード王国の一員ですので」
次の目的地はリンバール王国内にある、アウルコーン学院だ。果たしてそこでは何が待ち受けているのか……私は今から、緊張感が拭えなかった。
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