5 / 10
9月29日
しおりを挟む
今日はファンレターが届きました。
小説家にはファンレターが届くというのは、てっきり都市伝説だと思っていたので驚きました。
「わあ……でも、誰?」
私の元に届けられたのは便箋だけで、便箋の一部には修正液がかけられていますし、封筒が書かれてないので、いったいどこの誰から届いたのかすらわかりません。
「ごめんね、編集部の方針で個人情報を作家に渡してはいけないことになっているんだ」
「でも、不思議……本当にファンっているんですね」
「そりゃいるよ。本当だったら君に君のファンサイトを閲覧させてあげたいけれど……今の君にネットを見せるのはなかなか厳しいだろうからさ」
「そうなんですか……」
思えば不思議です。私はいつの間にやらこの部屋で小説を書き、小説や本をたくさん読んでその感想を書き、それを校正して出版するというローテーションが完成してしまい、外に対する憧れというものがとんとなくなってしまったのです。
だから外に本当にファンがいたという事実が信じられず、私はドキドキしながらファンレターを読みました。
【波風ことは様
初めまして、先生の本をずっと読んでいた読者です。
久々の波風節がたまらなくて思わず筆を執ってしまいました。
これからも執筆活動頑張ってください。
あとこちら□□□□……】
「修正液がたくさん塗ってあるけど……」
「ごめん、作家にはトラブル防止ということで、読者の住所や名前を教えてはいけないって決まりがあるんだ」
だから封筒も隠されていたのでしょう。
私はふと手紙を撫でていて、気付きました。後ろの部分がボコボコしています。私は咲人さんに尋ねました。
「鉛筆ってもらえませんか?」
「……鉛筆ですか?」
「はい。今日は日記に絵を描きたいんですけれど……やっぱりこれも出版するんでしたら、絵を描いては駄目でしょうか?」
「いえ、わかりました。持ってきましょう」
咲人さんから鉛筆をもらい、彼が午後から出版社に出かけていくのを見送ってから、便箋に鉛筆を塗りたくりはじめました。塗りたくり、それを日記の白紙部分に便箋を載せ、上から思いっきり擦り付けると、ちょうど鉛筆で塗った部分が判子のように日記の白紙部分に映り込みました。
【https://○○.○○……
こちら、波風ことは先生のことについて語り合っているサイトです。
もしよろしかったら、こちらでいろいろお話できないでしょうか?
本当に久々なため、先生のいろんな話をお聞きしたいです。】
その内容を読み、私は口元に手を当てました。
咲人さんが言っていることの意味はなんとなくはわかります。ネットを禁止するということで、作家を守るというのは、そこまで珍しいことではないらしいです。世の中にはSNSのアカウントを持つことを禁じられている作家もいるくらいですから。
だから、私がファンサイトを見て回るのを嫌がった咲人さんの考えもわからなくもなかったのですが、私は今、無性に読者が欲しかったのです。
私はどうして記憶喪失になったんでしょうか。私はどうしてここでひとりで小説を書いているのでしょうか。咲人さんは私をこの部屋にひとりで置いているのには、本当に理由がないのでしょうか。疑問が全く尽きないのですが、咲人さんはなにも教えてくれません。
私は日記を破いて、写し取ったアドレスを隠しておくことにしました。
どうやってこのアドレスを閲覧しよう。私はネット環境がないため、読むことができませんが、そこに今の袋小路の突破口があるような気がしたのです。
小説家にはファンレターが届くというのは、てっきり都市伝説だと思っていたので驚きました。
「わあ……でも、誰?」
私の元に届けられたのは便箋だけで、便箋の一部には修正液がかけられていますし、封筒が書かれてないので、いったいどこの誰から届いたのかすらわかりません。
「ごめんね、編集部の方針で個人情報を作家に渡してはいけないことになっているんだ」
「でも、不思議……本当にファンっているんですね」
「そりゃいるよ。本当だったら君に君のファンサイトを閲覧させてあげたいけれど……今の君にネットを見せるのはなかなか厳しいだろうからさ」
「そうなんですか……」
思えば不思議です。私はいつの間にやらこの部屋で小説を書き、小説や本をたくさん読んでその感想を書き、それを校正して出版するというローテーションが完成してしまい、外に対する憧れというものがとんとなくなってしまったのです。
だから外に本当にファンがいたという事実が信じられず、私はドキドキしながらファンレターを読みました。
【波風ことは様
初めまして、先生の本をずっと読んでいた読者です。
久々の波風節がたまらなくて思わず筆を執ってしまいました。
これからも執筆活動頑張ってください。
あとこちら□□□□……】
「修正液がたくさん塗ってあるけど……」
「ごめん、作家にはトラブル防止ということで、読者の住所や名前を教えてはいけないって決まりがあるんだ」
だから封筒も隠されていたのでしょう。
私はふと手紙を撫でていて、気付きました。後ろの部分がボコボコしています。私は咲人さんに尋ねました。
「鉛筆ってもらえませんか?」
「……鉛筆ですか?」
「はい。今日は日記に絵を描きたいんですけれど……やっぱりこれも出版するんでしたら、絵を描いては駄目でしょうか?」
「いえ、わかりました。持ってきましょう」
咲人さんから鉛筆をもらい、彼が午後から出版社に出かけていくのを見送ってから、便箋に鉛筆を塗りたくりはじめました。塗りたくり、それを日記の白紙部分に便箋を載せ、上から思いっきり擦り付けると、ちょうど鉛筆で塗った部分が判子のように日記の白紙部分に映り込みました。
【https://○○.○○……
こちら、波風ことは先生のことについて語り合っているサイトです。
もしよろしかったら、こちらでいろいろお話できないでしょうか?
本当に久々なため、先生のいろんな話をお聞きしたいです。】
その内容を読み、私は口元に手を当てました。
咲人さんが言っていることの意味はなんとなくはわかります。ネットを禁止するということで、作家を守るというのは、そこまで珍しいことではないらしいです。世の中にはSNSのアカウントを持つことを禁じられている作家もいるくらいですから。
だから、私がファンサイトを見て回るのを嫌がった咲人さんの考えもわからなくもなかったのですが、私は今、無性に読者が欲しかったのです。
私はどうして記憶喪失になったんでしょうか。私はどうしてここでひとりで小説を書いているのでしょうか。咲人さんは私をこの部屋にひとりで置いているのには、本当に理由がないのでしょうか。疑問が全く尽きないのですが、咲人さんはなにも教えてくれません。
私は日記を破いて、写し取ったアドレスを隠しておくことにしました。
どうやってこのアドレスを閲覧しよう。私はネット環境がないため、読むことができませんが、そこに今の袋小路の突破口があるような気がしたのです。
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる