虚ろの告白

石田空

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9月29日

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今日はファンレターが届きました。
小説家にはファンレターが届くというのは、てっきり都市伝説だと思っていたので驚きました。

「わあ……でも、誰?」

私の元に届けられたのは便箋だけで、便箋の一部には修正液がかけられていますし、封筒が書かれてないので、いったいどこの誰から届いたのかすらわかりません。

「ごめんね、編集部の方針で個人情報を作家に渡してはいけないことになっているんだ」
「でも、不思議……本当にファンっているんですね」
「そりゃいるよ。本当だったら君に君のファンサイトを閲覧させてあげたいけれど……今の君にネットを見せるのはなかなか厳しいだろうからさ」
「そうなんですか……」

思えば不思議です。私はいつの間にやらこの部屋で小説を書き、小説や本をたくさん読んでその感想を書き、それを校正して出版するというローテーションが完成してしまい、外に対する憧れというものがとんとなくなってしまったのです。
だから外に本当にファンがいたという事実が信じられず、私はドキドキしながらファンレターを読みました。

【波風ことは様

 初めまして、先生の本をずっと読んでいた読者です。
 久々の波風節がたまらなくて思わず筆を執ってしまいました。
 これからも執筆活動頑張ってください。
 あとこちら□□□□……】

「修正液がたくさん塗ってあるけど……」
「ごめん、作家にはトラブル防止ということで、読者の住所や名前を教えてはいけないって決まりがあるんだ」

だから封筒も隠されていたのでしょう。
私はふと手紙を撫でていて、気付きました。後ろの部分がボコボコしています。私は咲人さんに尋ねました。

「鉛筆ってもらえませんか?」
「……鉛筆ですか?」
「はい。今日は日記に絵を描きたいんですけれど……やっぱりこれも出版するんでしたら、絵を描いては駄目でしょうか?」
「いえ、わかりました。持ってきましょう」

咲人さんから鉛筆をもらい、彼が午後から出版社に出かけていくのを見送ってから、便箋に鉛筆を塗りたくりはじめました。塗りたくり、それを日記の白紙部分に便箋を載せ、上から思いっきり擦り付けると、ちょうど鉛筆で塗った部分が判子のように日記の白紙部分に映り込みました。

【https://○○.○○……
 こちら、波風ことは先生のことについて語り合っているサイトです。
 もしよろしかったら、こちらでいろいろお話できないでしょうか?
 本当に久々なため、先生のいろんな話をお聞きしたいです。】

その内容を読み、私は口元に手を当てました。
咲人さんが言っていることの意味はなんとなくはわかります。ネットを禁止するということで、作家を守るというのは、そこまで珍しいことではないらしいです。世の中にはSNSのアカウントを持つことを禁じられている作家もいるくらいですから。
だから、私がファンサイトを見て回るのを嫌がった咲人さんの考えもわからなくもなかったのですが、私は今、無性に読者が欲しかったのです。
私はどうして記憶喪失になったんでしょうか。私はどうしてここでひとりで小説を書いているのでしょうか。咲人さんは私をこの部屋にひとりで置いているのには、本当に理由がないのでしょうか。疑問が全く尽きないのですが、咲人さんはなにも教えてくれません。
私は日記を破いて、写し取ったアドレスを隠しておくことにしました。
どうやってこのアドレスを閲覧しよう。私はネット環境がないため、読むことができませんが、そこに今の袋小路の突破口があるような気がしたのです。
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