人形師と旅のお話

石田空

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人形師と自律稼働人形のお話

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 カラカラと辻馬車が揺れる。
 辻馬車の中は、さまざまな人たちが好き勝手にしゃべっている。

「次の町でやっと休める」
「たしか次の町、温泉街だって? いいね。やっと羽を伸ばせそうだ」
「あと食事がおいしいらしいね」

 行商、吟遊詩人、巡礼中の神官。それらの話を聞きながら、ふた組の女性たちは地図を広げていた。
 ひとりは金髪碧眼のずいぶんと目鼻立ちのはっきりとした女性だった。スラリとした体躯に、腰の剣を差しているところからして剣士らしい。
 一方の少女は、やけに煤けた印象のする少女だった。真っ黒なローブに真っ黒な帽子。髪も煤けた金髪を無理矢理おさげにまとめている。瞳の色まで煤けた苔の色をしているのはどういうことか。
 ふたりは地図を眺めて、次の目的地を確認した。

「次の街はそのまま乗り過ごして、もう少し先に行こうか」
「えー……温泉駄目なの?」
「駄目に決まってんだろ。あんたに温泉は無理」
「えー、そこはアデルが頑張れば」
「やろうと思えばできるけど、魔力をそんな無駄なことに使いたくないの」
「ブレンダちゃんが可愛いの、アデルはそんなに嫌?」
「……たまにあんたを解体してやりたくなるのよね」

 なにやら物騒な会話を繰り広げている中、馬車が急に大きく揺れた。
 途端に中に座っていた人々は「わっ」とか「キャッ」とか言う。
 ブレンダと名乗った金髪の女性は、ヒョコッと窓の外を眺めた。

「わぁお、強盗よアデル!」
「辻馬車相手ってぇのはずいぶんとケチ臭いのね」
「どうする? やっちゃう?」
「やらないと、大変なことになるだろうねえ……」

 馬車をちらりと見た。
 乗っているのは明らかに強盗慣れしてない行商や腰を抜かして立てなくなってしまっている吟遊詩人。神官だけは勇ましくしているものの、得物は教本だけでは頼りない。
 アデルは溜息をついた。

「ブレンダ、蹴散らしてちょうだい」
「はあい。殺して大丈夫?」
「もう二度と辻馬車を襲おうなんて思わないくらいに、痛めつけて。そのあと次の町の自警団にでも引き渡すから」
「はあい。すみませーん。ちょっと強盗蹴散らしてきまーす!」

 御者にそう言うと、軽やかにブレンダは飛び出して剣を引き抜いた。
 彼女がたったひとりで出てきたのを、無理矢理馬車を止めた強盗たちは舌なめずりして眺めていた。

「なんだ、女じゃねえか」
「たったひとりでなにができるってんだ?」
「んー、できることって私はそこまで多くないけど。あなたたちを倒すくらいのことならできるわ!」

 そう言ってブレンダは剣を引き抜くと躍りかかった。
 それをアデルは頬杖をついて眺めていた。
 震えている行商は怖々とアデルに尋ねた。

「あ、あの……連れの女の子がひとりで戦ってるけど……いいのかい? 加勢しなくって」
「まあ、あれはそこそこ強いからいいんじゃない? あたしが出て行ったほうが被害が大きいし、あたしも魔力は温存しておきたいから」
「つ、冷たくないかい?」
「別に」

 吟遊詩人は手持ちのハープをかき鳴らしている。どうも鼓舞の歌らしく、それをブレンダに歌って応援しているらしかった。
 一方、先程からずっと教本を持っている神官だけは、ブレンダに対して違和感を覚えていた。

「……せめて神のご加護がありますようにと、彼女に祝福を授けようとしているのですが……彼女、ちっとも祝福を授けることができないんですが……彼女、本当に人間ですか?」
「ああ、さすが巡礼者。さすがにそれには気付くのね」

 アデルはニヤリと笑う。

「あれ、あたしがそこそこ頑張って組み立てた自律式人形だから。あたしの魔力を吸って自分で考えて自分で戦うんだから、そこそこ強いわよ」

 そのひと言で、行商も吟遊詩人も、先程からずっと怖がって座席で震えている御者も、唖然とブレンダに視線を集中させた。
 彼女の高く結ったポニーテールが、強盗をひとり倒すごとにプルンと揺れる。その動きは流麗だし、目を見張るが……どう見てもあれだけ派手に動いても、彼女は呼吸ひとつ荒れていない。

「あなたは人形師だったのですか?」
「あら、見てわからなかった?」
「……あいにく魔女と人形師はほとんど見た目だけだとわかりませんから」
「それもそうね」

 そう言ってアデルは笑った。

****

 強盗全員を縛り上げ、ブレンダはやっと剣を鞘に収めた。

「ふう! 終わり!」
「お疲れお疲れ。予定変更。次の町で降りて、こいつら自警団に引き渡してくるから」
「やたー、温泉!」
「馬鹿たれ、あんたに温泉なんて入らせられるか! 錆びるでしょうが!」
「私、ほとんど木製なのに?」
「あんたの歯車錆びたら駄目でしょうが! 勘弁してちょうだいよ」

 アデルとブレンダがぐだぐだしゃべっている中、「助けてくれてありがとう……」と御者が声をかけてきた。

「お礼と言ってはなんだけど、次の町に入って自警団に引き渡しが済んだら、うちのかみさんがやってる宿屋の紹介状をあげよう」
「あら、ありがとう……でもどうせ自警団からこいつらの報奨金もらうから、そこまでしなくってもいいのよ?」

 アデルが目をパチパチとさせると、御者は「いやいや」と首を振った。

「人形師なんて久々に見たからね。人形師に人形のコンビなんてのも本当に久々だよ。いいもの見られたから、これはこちらのお礼さ」
「そう? ありがとう、ならお言葉に甘えさせてもらうわ」

 そう言いながら、アデルは会釈をした。隣でブレンダが「温泉♪ 温泉♪」と言い続けているのを「だから入らせられるか!?」とベチコンとしばきながら。
 それらを眺めつつ、行商は困った声を上げる。

「ところで……自分も人形師なんて初めて見たけど……人形師と魔女ってどう違うんだい?」
「どう言えばいいかしらね……元々、人形師は魔女の職業のひとつなのよ」
「魔女の職業? 魔女以外は人形師にはなれないのかい?」
「それも難しい質問ねえ……大昔、魔女はちょっと迫害されてたの。それこそ、一部の職業に就かない魔女は石を投げても黙認されるレベルで迫害を受けていたわ。ちなみに人形師は、数少なく魔女が名乗って迫害されなかった職業の内のひとつね。あとは魔法医や宮廷魔道士くらいのものかしら」
「どれもこれも今でのなるのは難しい職業だけれど……でも人形師は最近あまり見なくなったけど」
「まあ、人形師が一時的に増えていたのは、成金が増えてたのが原因だったからねえ」

 人形師は自律稼働人形を依頼を受けてつくる者たちのことだが、わざわざ自律稼働人形を欲しがる人間はそこまでいない。
 一時的にその手の職業が増えたのは、一部の大きな街に成金が増えたからだ。成金というものは見栄を大事にし、その見栄のひとつとして、見栄えのいい人形を執事やメイドとして仕事をさせるというものだった。
 もっとも、そんな彼らも商売が失敗すれば没落するし、商売が成功したら人間の執事やメイドを雇うのだから、そういついつまでも人気な職ではなかったのだが。
 それに吟遊詩人は「へえ」と間延びした声を上げる。

「だとしたら、どうして人形をパートナーにして旅を?」
「まあ、今ちょっと集めているものがあって、人間がパートナーだとなかなか扱いが難しいから、ならあたしがちょちょいとつくってしまおうと思ったのがはじまり」
「集める……遺跡のものとか?」
「んー、そうね」

 アデルがちらりと窓を見た。
 だんだん町が近付いてきているのが見て取れる。

「禁術……かな」

 その言葉に、周りが「ヒュン」と息を呑んだ。
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