どうも、どうあがいても死ぬ兄です

石田空

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エクソシストの訪問・2

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「ちょっと待てよ……なんでエクソシストが来るんだよ? 俺たちたしかに強硬派の連中を狩りまくってはいるけれど、人間の迷惑になんかなっては……!」

 ヤバイヤバイヤバイヤバイ。
 これが攻略対象の連中だったらまだなんとかなる芽はあるかもわからんけども、攻略対象じゃない連中が来た場合、どう対処すればいいんじゃ。
 俺があわあわしていると「違いますよぅー」とあっさりとミヒャエラは言う。

「どうにもですね。ベルガー邸付近で、毎年エクソシストが合同演習を行うらしいんですよう。つまりは、ただの毎年恒例行事。そのときに、合同演習行うからと挨拶に来るらしいんですよ」
「な、なあんだ……もしうちでなんやかんやあったなんて知られた日にゃ大変なことに……」
「ですから、ちょーっとだけ困ったなと思ってます」
「なんで?」
「だって向こうはここの旦那を知ってるじゃないですかぁ。病気で臥せってますと言ってお見舞いしたいと言ってきたらちょっと困るなと思ってますよ」
「それまずくない?」
「まずいですねえ」

 既に旦那は土の中だ。本当だったら証拠隠滅も兼ねて燃やしたかったけれど、どうにも『禁断のロザリオ』の世界じゃ火葬は嫌がられる傾向にあるらしい。
 どうしよう。来たとき。でも、各地のエクソシストが現れるとしたら、逆にチャンスかもしれない。
 リズは強硬派吸血鬼が喉から手が出るほど欲しがっている真祖の吸血鬼だ。合同演習だからと攻略対象たちが置いていく通りがないはずだから、多分連れてきているはずだ。だとしたら遠巻きにでも眺められるかもしれないな。
 とりあえずミヒャエラには「絶対に旦那が死んだことは悟らせるな、病気で人避けしているで押し通せ」と言っておくことにした。
 とりあえず領主代行として、合同演習を見学したいと申し出て大丈夫かどうかは、確認しておこう。

****

 その日はシンプルに黒いゴシックドレスを着ていた。
 仕込み剣の入っている日傘がベコベコに壊れたために、今はステッキに剣を仕込んでぶら下げている。
 うちに合同演習の挨拶にやってきたエクソシストを見て、俺はダラダラと冷や汗を流していた。
 吸血鬼が嫌がる雰囲気をなんと言えばいいんだろうか。清浄とか静謐とか、そういうのとは違う。とにかくローズマリーとラベンダーの香油にプラスして、なんとなく裸足で逃げ出したい雰囲気をまとった、しっかりと法服を着込んだ男性がうちまで挨拶に来たのだ。
 俺とミヒャエラが出迎えたことで、向こうはピクンと眉を寄せていた。

「これはこれは……ベルガー殿がこのようなお美しい奥方を迎え入れていたとは驚きました」
「ご機嫌よう。主人と結婚したのはつい最近のことですから、ご存じないのは承知の上でした。申し訳ございませんね、報告せずに」
「いやいや。年に一度しかこちらを訪れませんのに、わざわざ報告は不要です! こんな形になりますが、おめでとうございます!」

 口調は慇懃無礼そのものだった。丁寧だけれど、こちらにずっと探りを入れるように目をギョロギョロとさせてくる。
 ……エクソシストもさすがに馬鹿ではないか。吸血鬼だという証拠を掴んでしまったら最後、ここを落とす許可を取り付け次第攻め滅ぼすだろうが、殺した旦那のほうが上手だったからそんなへまをしなかったんだろう。なら結婚した俺だったらどこかでドジを踏むんじゃないかと思ったんだろうけど。さすがにずっと女装してあちこちに出向いていたら、こちらも腹芸を覚えるもんなあ……。
 俺の腹の中はさておいて、「それでは」と去ろうとする前に「お待ちくださいませ」と止める。

「どうなさいましたか?」
「私、いつも各地で治安維持をなさっているエクソシストの皆さんの合同演習なんて初めてですので。そちらの様子を見学するということはできないでしょうか?」
「こちら、失礼ですが奥方が喜ぶような行事ではございませんよ? なにかと大変になりますし」

 そりゃなあ。向こうからしてみれば、白か黒か勘ぐっている奴に、合同演習なんぞ見せたくないよなあと、理屈はわかる。
 でもなあ……あそこにリズがいるかもしれないんだったら、どうにかして見たい。
 お兄ちゃん、彼氏が誰であっても問題ありません。多分マリオンも似たり寄ったりだろう。ちゃんと健やかに生きてさえくれれば、彼氏がよっぽどの外道畜生でない限り、応援します……乙女ゲームの攻略対象がそんなエロゲーみたいな外道畜生はなかなかいないはずだけれど、うちの妹のやってるゲームでごく稀にヤンデレしかいない乙女ゲームが存在していたから、『禁断のロザリオ』の攻略対象がどんなもんか遠巻きでいいから確認したい。
 俺はどう言ったものかと考えていたら。

「奥様が見学するのは問題あるでしょうか? 先日雨がひどかったので、地盤が緩んでないかの確認も兼ねまして、見学ができればと思うのですけど」

 お茶を用意してくれていたミヒャエラが、カモミールティーを並べながら助け船を出してくれた。ミヒャエラの発言に、エクソシストが顔を曇らせた。

「地盤ですか……たしかに先日の雨はひどいものではありましたが」
「ええ。他の様子は確認取れましたが、演習予定地がまだ終わってない中での申し込みでしたので。それでは駄目でしょうか?」
「……それなら、たしかに領主代行としては当然でしょうな。どうぞ。ただし、あまりいいものは見せられないかとは思いますが」
「こちらも観光ではございませんから。そうでしょう、奥様?」
「え、ええ……どうぞよろしくお願いしますね」
「わかりました」

 そう言って一旦エクソシストにお引き取り願った。
 そのあと、ミヒャエラが怪訝な顔をしてこちらを見た。

「ご主人様珍しいですねえ。エクソシストと関わりたがりませんでしたのに、わざわざ演習に見学に行きたいだなんて」
「……向こうに、リズがいるかもしれないから」
「えっ……! 妹様……ですか?」

 スーパーできるメイドであるミヒャエラも、さすがにリズがエクソシストと行動を共にしているとは想像してなかったみたいだな。
 俺は大きく頷いた。

「リズを置いてきた場所……グールの襲撃があったと聞いていたから……もしグールの襲撃があるんだったら、エクソシストに保護されていてもおかしくないだろ?」
「で、ですけど……妹様が真祖だとばれましたら、エクソシストたちに……」
「さっきの本部の奴はどうだか知らないけど、あいつを保護してくれている奴はもしかしたらいい人なのかもしれないし。ひと目でいいから、リズが元気か見れたらと思うんだ……なあ、駄目か?」

 俺の言葉に、普段だったら面白トークを繰り広げるミヒャエラも、さすがに言葉に詰まったように、金色の瞳を右往左往とさまよわせる。
 やがて、大きく溜息をついた。

「そうですね。さすがにご主人様が女装して家を乗っ取っていることまでは妹様もご存じないでしょうし、領主代行が見学って触れ込みだったら、気付かないかもしれません。私も一緒に行きますから、なるべく目立たぬよう妹様のお姿を確認したら帰りましょうか」
「ミヒャエラ……ありがとう……!!」

 俺がお礼を言うと、ミヒャエラは困ったように笑った。

「仕方ないじゃないですかぁ。たったふたりの兄妹の再会に少しでも貢献したいじゃないですかぁ」

 今はこの面白メイドが身内だったことに、これほど感謝したことはない。
 リズがちゃんと元気でいるかどうか、今度の演習で確認できたらいい。
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