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合同演習での再会
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いったいどういうことなんだろう。私の知っている『禁断のロザリオ』のシナリオ展開から大分外れてしまっている。
好感度高めるイベントのはずの、リズの誘拐事件がことごとく起こっていないんだ。おかしいな、この世界でも真祖は希少価値高いはずだから、女の真祖がいたら誘拐して自分の家の吸血鬼の血をちょっとは濃くしようとするはずなのに。
それでもどうにか好感度アップアップするべく、周りにひいこら言いまくったおかげで、順調に逆ハーレム状態は築きつつある。
問題は、私がいつ吸血鬼の真祖です。吸血鬼の穏健派は人間を餌だなんて思ってないので殺さないでください。それをいつ伝えるかのタイミングを、私は測りかねていた。
そんな中、唐突に「エクソシストの合同演習に向かうことになったんだ」とカミルが教えてくれた。
たしかそのイベント、本部が襲撃されたせいで中止になったはずだったのに。どういうこと? 私がポカンとしているのに、カミルは「ああ、そっかリズは知らなかったか」と説明してくれた。
「エクソシストがグール討伐がきちんとできるか、各地の支部と競い合うんだよ」
「……この間、本部が襲撃されていたはずなのに、そんな悠長なことをしていて大丈夫なの?」
「それなんだが……不思議なことに、グール討伐の令は今も出ているのに、吸血鬼の事件がこのところかなり抑えられているんだ」
「ええ……?」
どうも本来起こるはずだったリズの誘拐事件が起こってない理由も、それが原因らしい。
それっていいことなのかな、どうなんだろう。
私が判断に困っていると、カミルは「だから」と言う。
「俺がそこで活躍するところを見て欲しいんだ。怖いことはなにもないから」
「カミル……うん。わかった。私も応援するね。でもどこでするの?」
「ああ、言ってなかったな。ベルガー領の敷地を借りて行うんだ」
「え……!」
「リズ?」
「なんでもない。知らない土地だったから」
あ、あれ……? そこってたしか、マリオンの住んでる土地だよね。そこで合同演習ってことは……。
マリオンの姿が見られる? ちゃんと生きているところが?
どうしよう。グレて悪いことしてたら、ちゃんと止められるかな。一応攻略対象は全員私が攻略したから、マリオンを殺すことはしないとは思うけど、他のエクソシストはどう出るか私も知らない。
でも……会えるとなったら、なんだか嬉しくって涙がポロポロと出てきた。それにカミルが心配してこちらの顔を見てくる。
「リズ? まさか記憶の片鱗が……?」
「……どうしてだろう。涙が止まらないの」
「……もしかすると、君の家族がそこにいるのかもしれないね。もし演習の暇を見つけたら、一緒に探しに行こうか」
「うん。ありがとう」
元気だといいな。無事だといいな。マリオン。
****
俺は緊張の面持ちで、ミヒャエラに選んでもらった服を着ていた。
さすがに女装でリズに会うのも気恥ずかしくて、普段強硬派を襲撃に行くときの乗馬服に杖を携えていた。
「ご主人様ぁ、緊張し過ぎですよぉ。領主代行として、演習の様子の視察に来たって名目ですのに、これじゃあお見合いの席じゃないですかあ」
ミヒャエラは呆れた顔で言うので「うるさいなあ……」とぼやく。
「妹が元気でやっているかどうか、心配だろ。ちゃんとご飯食べてるのかとか、人間にいじめられてないかとか、変な男に引っかかってないかとか……そりゃもう、いろいろ」
「そんな状態で、妹様が既に彼氏おられたらどうするんですかぁ……」
「そのときは泣きながら赤飯炊いて、男の顔面に叩き付けてから祝うわっ」
「せきは? よくわかんないですけど、お祝いする気はあるんですねえ」
「それは当たり前だろ」
俺も受動喫煙レベルの知識しかないんだから、リズの相手が誰なのかとか、本気で知らないんだよ。そもそもうちの妹のプレイしてたのを後ろから見てたんだから、顔面偏差値が高いことは知っていても、それぞれの攻略対象がどんな性格かとか、妹がそもそも誰狙いでやっていたのかとかすら知らないんだからな。
エクソシストの面々が、馬車に乗って次から次へと演習地にやってきているのが見えた。
「そういや、俺もエクソシストがどういう戦い方するのか知らないけど、俺たちと変わらないのか?」
この世界観はまだ銃が普及されてないっぽいし、剣とかなのかな。でもこの世界観にも魔法が存在するっぽいから、魔法で吸血鬼が弱体化するとかだったら困るなあと思っていたら、ミヒャエラが「そうですねえ」と教えてくれる。
「あちらは聖歌を使ってグールを祓うんですよ。あれは吸血鬼が聞くとちょっとしんどくはなりますが、消滅ほどの強い威力がありません。既に死んでいるグールには一発アウトなんですが」
「聖歌ねえ……」
なるほど、この世界における白魔法みたいなもんなんだろう。それにさえ気をつけていれば、演習見学も大丈夫だろう。
そう思って見守っていたら、こちらにやたら顔面偏差値の高い集団がやってきたので、思わず背筋を伸ばす。
この世界観が乙女ゲームなせいか、どこもかしこも顔面偏差値が比較的高いんだけれど、それでも力の入れようが馬鹿にならないほどに整っているし、なんと言っても見覚えがある。
「あらまあ……ずいぶんと顔のいい人たちですねえ」
「あれ、ミヒャエラにもそういう感性があったのか」
「ですけど女装羞恥萌えには至らないので残念ですよねえ……がたいに合わない服を着せるタイプの羞恥プレイはありますけれど、あちらはわたしの趣味ではないんで」
「やめよう? 俺以外に迷惑かけるのは本当にやめよう?」
「あ、ひとりものすっごく着せたい子がいますねえ。羞恥に頬を染めてドレスとか着てくれないでしょうかねえ」
「やめよう?? 他人様にお前の趣味を押しつけるのはほんっとうにやめよう???? あ」
そこですれ違った集団からは、男しかいない面子からするとは思えないほどの、いい匂いがした。
ひとりはキリリと顔を引き締めた金髪碧眼という、いかにも騎士然とした青年だった。こちらを見た途端に、少しキリリとした目を丸く見開いた。
「これは……あなたがこの領地の?」
声をかけられ、俺は慌てて凝視していた目をうろうろとさまよわせてから、杖を持って小さく礼をする。
「お初にお目にかけます。主人に代わりましてこの土地を治めておりますベルガーと申します」
「それは……失礼しました。自分たちの知り合いに奥方がよく似てらっしゃいましたので」
そう慌てて騎士然とした青年が頭を下げていたら、他にいた連中も次々に頷く。
「うん。背丈も変わらないし、驚いた。リズそっくりだよね」
どう見てもミヒャエラ好みの少年が、同意する。銀髪の長い髪を緩く結んだ少年は、俺とあまり身長が変わらない上に、他のエクソシストよりもあからさまに肩幅がない。ミヒャエラがときめいた顔をするのに「やめなさい」と俺が言うと、俺はとぼけきった顔で「リズ?」と尋ねる。
すると少年の肩を抱いて、褐色赤毛の青年が、金色の瞳を瞬かせながら「うちで預かってんだよ」と答えた。
「あなたみたいな愛らしい子をね」
「それはまた……」
おう、リズよ。お兄ちゃんはできればそこの騎士様みたいな人が相手にふさわしいと思います。その軽薄な兄ちゃんがお前の相手だったら、お兄ちゃんは泣きます。
俺が言葉を濁している中、「えっと……」とこちらに声をかけてきた子に、俺の心臓がギュワンと変な音を立てた。
銀色の髪がつやつやと光り、肩までのボブカット。蒼い瞳を瞬かせた彼女が着ているのは、教会で働いていると言えば納得するような飾り気のないワンピースだけれど、それが清楚さを醸し出していて、贔屓目で見ずともよく似合う。いや、贔屓しまくろう。
うちの妹可愛ええやろ。むっちゃ可愛ええやろ。乙女ゲームは男ばっかりスチルに出るけどなあ、それでもうちの妹可愛ええやろ。
まさかこんな形で合うとは思わんかったけどな、なあリズ……!!
俺は完全に言葉を失っている中、ミヒャエラは「あらあら、まあまあ」と言いながら、俺とリズを見比べた。
「奥様とそっくりなお嬢さんですねえ」
ミヒャエラもまた、とぼけきって対応してくれたのだった。
好感度高めるイベントのはずの、リズの誘拐事件がことごとく起こっていないんだ。おかしいな、この世界でも真祖は希少価値高いはずだから、女の真祖がいたら誘拐して自分の家の吸血鬼の血をちょっとは濃くしようとするはずなのに。
それでもどうにか好感度アップアップするべく、周りにひいこら言いまくったおかげで、順調に逆ハーレム状態は築きつつある。
問題は、私がいつ吸血鬼の真祖です。吸血鬼の穏健派は人間を餌だなんて思ってないので殺さないでください。それをいつ伝えるかのタイミングを、私は測りかねていた。
そんな中、唐突に「エクソシストの合同演習に向かうことになったんだ」とカミルが教えてくれた。
たしかそのイベント、本部が襲撃されたせいで中止になったはずだったのに。どういうこと? 私がポカンとしているのに、カミルは「ああ、そっかリズは知らなかったか」と説明してくれた。
「エクソシストがグール討伐がきちんとできるか、各地の支部と競い合うんだよ」
「……この間、本部が襲撃されていたはずなのに、そんな悠長なことをしていて大丈夫なの?」
「それなんだが……不思議なことに、グール討伐の令は今も出ているのに、吸血鬼の事件がこのところかなり抑えられているんだ」
「ええ……?」
どうも本来起こるはずだったリズの誘拐事件が起こってない理由も、それが原因らしい。
それっていいことなのかな、どうなんだろう。
私が判断に困っていると、カミルは「だから」と言う。
「俺がそこで活躍するところを見て欲しいんだ。怖いことはなにもないから」
「カミル……うん。わかった。私も応援するね。でもどこでするの?」
「ああ、言ってなかったな。ベルガー領の敷地を借りて行うんだ」
「え……!」
「リズ?」
「なんでもない。知らない土地だったから」
あ、あれ……? そこってたしか、マリオンの住んでる土地だよね。そこで合同演習ってことは……。
マリオンの姿が見られる? ちゃんと生きているところが?
どうしよう。グレて悪いことしてたら、ちゃんと止められるかな。一応攻略対象は全員私が攻略したから、マリオンを殺すことはしないとは思うけど、他のエクソシストはどう出るか私も知らない。
でも……会えるとなったら、なんだか嬉しくって涙がポロポロと出てきた。それにカミルが心配してこちらの顔を見てくる。
「リズ? まさか記憶の片鱗が……?」
「……どうしてだろう。涙が止まらないの」
「……もしかすると、君の家族がそこにいるのかもしれないね。もし演習の暇を見つけたら、一緒に探しに行こうか」
「うん。ありがとう」
元気だといいな。無事だといいな。マリオン。
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俺は緊張の面持ちで、ミヒャエラに選んでもらった服を着ていた。
さすがに女装でリズに会うのも気恥ずかしくて、普段強硬派を襲撃に行くときの乗馬服に杖を携えていた。
「ご主人様ぁ、緊張し過ぎですよぉ。領主代行として、演習の様子の視察に来たって名目ですのに、これじゃあお見合いの席じゃないですかあ」
ミヒャエラは呆れた顔で言うので「うるさいなあ……」とぼやく。
「妹が元気でやっているかどうか、心配だろ。ちゃんとご飯食べてるのかとか、人間にいじめられてないかとか、変な男に引っかかってないかとか……そりゃもう、いろいろ」
「そんな状態で、妹様が既に彼氏おられたらどうするんですかぁ……」
「そのときは泣きながら赤飯炊いて、男の顔面に叩き付けてから祝うわっ」
「せきは? よくわかんないですけど、お祝いする気はあるんですねえ」
「それは当たり前だろ」
俺も受動喫煙レベルの知識しかないんだから、リズの相手が誰なのかとか、本気で知らないんだよ。そもそもうちの妹のプレイしてたのを後ろから見てたんだから、顔面偏差値が高いことは知っていても、それぞれの攻略対象がどんな性格かとか、妹がそもそも誰狙いでやっていたのかとかすら知らないんだからな。
エクソシストの面々が、馬車に乗って次から次へと演習地にやってきているのが見えた。
「そういや、俺もエクソシストがどういう戦い方するのか知らないけど、俺たちと変わらないのか?」
この世界観はまだ銃が普及されてないっぽいし、剣とかなのかな。でもこの世界観にも魔法が存在するっぽいから、魔法で吸血鬼が弱体化するとかだったら困るなあと思っていたら、ミヒャエラが「そうですねえ」と教えてくれる。
「あちらは聖歌を使ってグールを祓うんですよ。あれは吸血鬼が聞くとちょっとしんどくはなりますが、消滅ほどの強い威力がありません。既に死んでいるグールには一発アウトなんですが」
「聖歌ねえ……」
なるほど、この世界における白魔法みたいなもんなんだろう。それにさえ気をつけていれば、演習見学も大丈夫だろう。
そう思って見守っていたら、こちらにやたら顔面偏差値の高い集団がやってきたので、思わず背筋を伸ばす。
この世界観が乙女ゲームなせいか、どこもかしこも顔面偏差値が比較的高いんだけれど、それでも力の入れようが馬鹿にならないほどに整っているし、なんと言っても見覚えがある。
「あらまあ……ずいぶんと顔のいい人たちですねえ」
「あれ、ミヒャエラにもそういう感性があったのか」
「ですけど女装羞恥萌えには至らないので残念ですよねえ……がたいに合わない服を着せるタイプの羞恥プレイはありますけれど、あちらはわたしの趣味ではないんで」
「やめよう? 俺以外に迷惑かけるのは本当にやめよう?」
「あ、ひとりものすっごく着せたい子がいますねえ。羞恥に頬を染めてドレスとか着てくれないでしょうかねえ」
「やめよう?? 他人様にお前の趣味を押しつけるのはほんっとうにやめよう???? あ」
そこですれ違った集団からは、男しかいない面子からするとは思えないほどの、いい匂いがした。
ひとりはキリリと顔を引き締めた金髪碧眼という、いかにも騎士然とした青年だった。こちらを見た途端に、少しキリリとした目を丸く見開いた。
「これは……あなたがこの領地の?」
声をかけられ、俺は慌てて凝視していた目をうろうろとさまよわせてから、杖を持って小さく礼をする。
「お初にお目にかけます。主人に代わりましてこの土地を治めておりますベルガーと申します」
「それは……失礼しました。自分たちの知り合いに奥方がよく似てらっしゃいましたので」
そう慌てて騎士然とした青年が頭を下げていたら、他にいた連中も次々に頷く。
「うん。背丈も変わらないし、驚いた。リズそっくりだよね」
どう見てもミヒャエラ好みの少年が、同意する。銀髪の長い髪を緩く結んだ少年は、俺とあまり身長が変わらない上に、他のエクソシストよりもあからさまに肩幅がない。ミヒャエラがときめいた顔をするのに「やめなさい」と俺が言うと、俺はとぼけきった顔で「リズ?」と尋ねる。
すると少年の肩を抱いて、褐色赤毛の青年が、金色の瞳を瞬かせながら「うちで預かってんだよ」と答えた。
「あなたみたいな愛らしい子をね」
「それはまた……」
おう、リズよ。お兄ちゃんはできればそこの騎士様みたいな人が相手にふさわしいと思います。その軽薄な兄ちゃんがお前の相手だったら、お兄ちゃんは泣きます。
俺が言葉を濁している中、「えっと……」とこちらに声をかけてきた子に、俺の心臓がギュワンと変な音を立てた。
銀色の髪がつやつやと光り、肩までのボブカット。蒼い瞳を瞬かせた彼女が着ているのは、教会で働いていると言えば納得するような飾り気のないワンピースだけれど、それが清楚さを醸し出していて、贔屓目で見ずともよく似合う。いや、贔屓しまくろう。
うちの妹可愛ええやろ。むっちゃ可愛ええやろ。乙女ゲームは男ばっかりスチルに出るけどなあ、それでもうちの妹可愛ええやろ。
まさかこんな形で合うとは思わんかったけどな、なあリズ……!!
俺は完全に言葉を失っている中、ミヒャエラは「あらあら、まあまあ」と言いながら、俺とリズを見比べた。
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