どうも、どうあがいても死ぬ兄です

石田空

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お兄ちゃんは認めません

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 俺はテンパッた。とにかくテンパッた。
 リズだ。妹だ。会えなかった子だ。
 俺の中の死んだマリオンがなにかしら言いたげなのが頭に浮かんだ。わかるよ、お前リズのためにずっと頑張ってたんだもんな。だから旦那ぶっ殺してでも、リズの元に行かせたくなかったんだもんな。そりゃ俺だって、訳のわからんストーカーが妹狙ってたら、司法が動いてくれないんだったらその選択肢取ってたもんなあ。わかるよ。ものすごくよくわかる。
 俺が硬直しているのを見かねて、「ご主人様ご主人様」とミヒャエラは囁いた。

「よろしいんですか? リズ様おられるんだから、なにかおっしゃったほうがよろしくないですか? ほら。合同演習でエクソシストではない彼女に見学中ならと、お茶に誘うとか」
「そ、そういうもんなのか? なんか俺は、全然なにを言ったらいいか」
「もーう、普段は余計なことペラッペラしゃべる癖に、肝心な時だけシャイボーイですかぁ」

 誰がシャイボーイじゃ、チョイスする言葉をいちいち面白くするんじゃない。
 普段だったらそうポンポンと言い返せる言葉が、喉をつっかえて出てこない。なんだこのテンパッた生き物。これじゃ、エクソシストたちにも、リズ本人にも不審がられて……。
 そう思っていたものの。リズは目をパチリとさせて口を開いた。

「こちらの奥様ですか? 初めまして。リズです」

 そういえば、乙女ゲームはプレイヤーキャラには声が付かないんだっけか。俺にはどこかで聞いたことある有名声優の癖のない声に聞こえた。

「ええ、初めまして。エクソシストの皆さんの中に、このような可憐なお嬢さんがおられるとは思ってもいませんでしたわ」

 なんとか俺はそう切り返すと、リズはおかしそうに笑った。

「私、皆に混ぜてもらっているだけで、エクソシストではないんですよ。お手伝いと言いますが、炊事担当と言いますか。エクソシストの皆さんに拾ってもらったんで、そこでお手伝いをさせてもらっているんです」
「まあ……そうなんですね。ご苦労されていますね?」
「いいえ。皆親切ですから」

 そう言ってにこにこと笑っている。
 よかった……俺はそれに内心胸を撫で下ろす。どうもエクソシストの連中……この場合は攻略対象と言えばいいのか……には、吸血鬼だということがばれずにここまで来られたらしい。だとしたら、ちゃんとご飯を食べてちゃんと生活できているらしい。
 それならお兄ちゃんは安心だ。そう思っていたら、先程から気になる騎士然とした男性が「申し訳ございません、奥方」と声をかけてきた。

「どうかなさいましたか?」
「今から演習がありますが、その間だけでも彼女を置いておいてくださらないでしょうか? 二刻ほどで終わるのですが、彼女にまさか剣や魔法の飛び交う中に置いておく訳に参りませんから」

 ミヒャエラが指摘したことを先に行ってきた騎士然とした男性に、俺は一瞬顔が赤くなる。ミヒャエラはニヤニヤとしてこちらを見ている。先を越されたとか言うな言うな言うなぁぁぁぁ!
 俺があたふたしていると、リズが「えっ」と言う。

「私は邪魔にならないようにしようとは思っていたけれど……でもそれでカミルはいいの?」
「危なくない場所から応援してくれないか? 今日はあくまで演習であって、命をかけるものではないのだからね」

 ふたりの間の空気が甘ったるい。
 そうか……リズが選んだのはこの人か。うん。お兄ちゃんもこの人ならまだ安心です。俺はうんうんとひとり納得していたら、リズがいきなり肩を抱かれた。

「まあ、頑張ってくるから。応援しててくれよ?」
「もう、レオンったらこんなところで止めてよ。でもわかった。応援してあげる」

 ん……?
 俺は一瞬嫌な予感が頭を掠めた。
 たしか前世で妹が言っていたようなことがある。

「乙女ゲームって、ギャルゲーと違って逆ハーレムエンドって存在しないんだよね」
「そうなの? まあギャルゲーでも少ないけど」
「うん。主人公が尻軽ビッチに見えるの、乙女ゲームの会社はとにかく気にするから。まあたまに全員同時攻略しないと死体が転がる系ゲームはあるけど、あれは乙女ゲームの中でも異色だから」
「ふうん……てっきり逆ハー趣向とかあるのかとばかり」
「そりゃあまりに攻略対象が性格に難ありだったら、乙女ゲームのヒロインが全員調教して手元に置いておいたほうがまだ被害が少ないって場合とか、ゲームの攻略条件が全員同時攻略って場合とかだったらともかく、普通はその場にいる人全員から好意を向けられたら普通に怖くない? 現実でも同じクラスの男子全員から矢印を向けられたら、逃げ場がなくって怖いし、お兄ちゃんだって職場の人全員から矢印を向けられて気まずい思いしたら嫌でしょ」
「たしかに」
「だから逆ハー狙いって、よっぽどのことがない限りはしないんだよ」

 ……まさか、な。
 俺はそう思ってダラダラと背中から冷や汗を流していたら、隣にいたミヒャエラが狙っていた少年までナチュラルにリズの手を取ってくる。

「頑張るね」
「ええ、頑張ってね。ルーカス」

 ピキン。
 まさかまさかと思っていたけれど、目の前のリズ。
 逆ハーレム形成してないか?
 まあひとりだけだったら、お兄ちゃんも泣きながら赤飯炊いて……たとえいけ好かない奴であったとしても、リズが幸せなら相手にパイ投げしてから赤飯炊いて祝うつもりはあった。この世界に赤飯が炊けるかどうかはこの際置いておいて、気分的な問題で。
 でも、でもでもでも。
 お兄ちゃん、逆ハーレムはあんまりよろしくないと思うんです。だって、うちの妹を狙うケダモノがそう何人もいたら、とてもじゃないけれどそんな場所に妹を置いておきたくない。

「……ハ……ハ……」
「あのう?」
「ご主人様、ご主人様。なあんかまろび出かかっていますよう、落ち着いてくださーい」

 リズは心配そうにこちらの顔を覗き込む中、ミヒャエラは至って冷静だ。
 俺はプルプルと震えながら、思わず叫んでいた。

「ハレンチなのはいけないことだと思います! と、とにかくリズさんは預かりますわねっ!」
「わっ!!」
「はい?」

 エクソシストと言う名のケダモノたちを置いて、俺は怒り心頭で、リズの腕を取ってのしのしとその場を退散した。
 ミヒャエラは俺の言動に呆れた顔をしてから、エクソシストたちに会釈をした。

「なにやら奥方も誤解なさったようで。演習の見学楽しみにしてますねぇ」

 そう言い残して、俺のほうへと寄っていった。

****

「あっ、あのう! 腕! 痛い痛い、あのう!」

 どうしてこうなったんだろう。
 私が皆としゃべっていたら、だんだんだんだんマリオンの機嫌が下降していったんだ。
 でも驚いたなあ。ゲーム内だったら、マリオンは性別が判明するまではゴシックドレスオンリーだったのに、まさか乗馬服で登場するとは思ってもいなかった。
 私が知らない内に、ゲームの内容がもろもろ変わっているのかな。
 とにかく。マリオンはおつきのメイドさん……この人も私知らないけど、設定的に存在してたのかな。でもそうだよね、女装ずっと続けてしばらく正体ばれないんだから、合わせてくれる人がいなかったらそもそもそんなことできないよね……と一緒に私を連れ去ってしまった。
 痛い痛い。腕がミシミシ言うくらいに捕まれている。

「先程の方々が、あなたの保護を?」

 マリオンの声はひどく冷えている。
 怖い……怖い。なんか無茶苦茶人を殺しそうな声をしている。
 やだよ、折角頑張って全員落としたのに、誰か殺してマリオンがエクソシストから討伐令下るのは! そもそもここにいるのは私たち以外全員エクソシストなんだから、逃げ場なんてゼロじゃない!

「は、はい! 皆、いい人たちです!」
「どの人が」
「はい?」
「どの人があなたの本命なの?」
「……はいぃ~?」

 マリオン、そんな下世話なこと聞くタイプだったかな。たしかに出番が少な過ぎたし、助かるルートもゼロだったから、私の記憶だけのマリオンが正しい訳じゃないんだけど。
 マリオンが震えながら聞く。

「いい? あなたはひとりなの。いくらあなたが愛らしいからって、自分を安売りしては駄目よ? 男なんて放っておいたら皆ケダモノなんだから、誰に対しても親切なのは駄目。男は優しくされたら皆すぐに自分に気があるって勘違いする悲しい生き物なんだからね」
「あ、あの?」
「世の中ハーレム展開もてはやされているけれど、それって全員を平等に愛せる人じゃなかったらできないことだから。素人が手を出しては駄目な展開だから」
「だから、あの?」

 なんだ。この人。
 まさか。と思う。
 私だって転生して、前世の記憶があるんだから、他に転生者がいたっておかしくはない。
 そもそも今まで、起こるはずだった事件が起こってないんだから、もっと早くに転生者の介入のことに気付くべきだったんだ。

「お兄ちゃんは、そういうの全然よくないと思いますから!」
「……もしかしなくっても、お兄ちゃん?」
「へっ?」
「だって、そこまで過保護であれこれ言って、マリオンのこともリズのことも心配するような人、他に知らないし」

 マリオンが今まで見たことないような顔をして、固まってしまった。
 あちゃー。本当に。
 本当に頑張ってよかったぁ……もうちょっとでマリオンだけでなく、お兄ちゃんまでエクソシストたちに殺されるところだったんだから。
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