かつて勇者の反逆令嬢

石田空

文字の大きさ
13 / 20
三章 婚約破棄と革命組織

3話

しおりを挟む
「レニー嬢も最初はそうおっしゃるだろうことはわかっておりましたよ! だが、我らが聖女エデルに会ったら最後、その考えも変わるでしょう!」
「その名前は言うな……!」

 途端に、レニーの怒声が響く。
 途端に中庭に用意されたティーセットが割れ、お茶が漏れ、盛られた茶菓子が崩れる。彼女が体中に纏った魔力が暴発したのだ。
 それにハンナは身を竦ませ、ティオボルドが彼女を庇う。
 彼女の魔力の暴発でもなお、ヴェアナーは平然とした様子で、彼女を見下ろしていた。
 今まではどうにか取り繕って、貴族らしい対話を形だけでも保とうとしていたが、すっかりとレニーの取り繕った皮は剥がれてしまっていた。
 ヴェアナーを睨みつけるレニーのルビー色の瞳には、爛々と怒りが滲み出ていた。
 前世の恋人の名を騙る、強硬な大陸の支配者を、レニーは許せそうもなかった。

「……ずいぶんと、我らが聖女も、貴公に嫌われたものですなあ」
「うるさい……っ! とにかく」

 最後にレニーは髪をざっとかき上げて、ようやく怒りを鎮めると、ビリビリと暴発していた魔力も鎮まり、お茶会の席を蔓延していた力も薄れた。

「……あんたの言う、聖女エデルに伝えておけ。俺はあんたを認めないと。それと俺を洗脳して従順な信者にしようとしても無駄だってな……だからと言って、俺の知人から外堀を埋めようとしても無駄だからな。そんなことしたら、宣戦布告として取る」
「おやおやおや……レニー様はまさか、ミイルズ教団に本気で反逆の意があると?」
「お嬢様……!」

 これ以上は、勝手に言ったことを偽造されかねないと、慌ててハンナが口を挟もうとするが、レニーは「ハンナ、大丈夫だ」と制する。

「狙うなら、直接俺を狙え。お前と婚約させた上で動きを封じようとか、俺の知人友人をとっ捕まえて人質なんてまどろっこしいことせず、直接俺に襲い掛かればいい。そのほうが、俺もそちらも手っ取り早いだろうが」
「おやおやおやおや……勇敢な方ですなあ、レニー嬢は誠に! 本気で、自分で全てを守れるとお思いで?」

 ヴェアナーの言葉は、明らかに侮蔑が含まれていた。それにレニーはフン、と鼻息を立てる。

「あんたたちのやり口のまどろっこしさに、ずっとイライラしているだけだ」
「それはそれは……ひとまずは、お話しできてよかったですよ、レニー嬢。それでは、私と婚約をしていただけますか?」

 これは単純な求愛行動ではない。
 互いに監視下に置くということ、これで互いの動きを制限しつつ、不審な点を見つければいつでも攻め落とせるという意味だ。
 ハンナが考えていたような、年頃の令嬢の嫁ぎ先を見繕うというものとは大きくかけ離れているが。レニーはヴェアナーのその言葉を待っていた様子だ。

「ああ、してもかまわない。ただし、あんたたちを攻められると判断したら、いつだって破棄して襲いかかる。それはあんたもおんなじで、こちらを攻め落とせるとした段階で、いつでも破棄してもかまわねえ……もしそうなったときは、こちらも日傘が済まねえがなあ」
「はっはっはっは……それはそれは。こちらも正装でダンスに誘いましょう……剣舞、しか踊れませんがなあ!」
「奇遇だな、俺も一緒だ」

 こうして、お見合いと呼ぶにはあまりにも外れた交流の席で、婚約と呼ぶにはあまりにも殺伐とした関係を結び終えたレニーは、馬車で屋敷へと帰っていく。
 ハンナはヴェアナーの言動やら物々しいお見合いの席やらで、疲労困憊でティオボルドに支えられなかったらもはや立てる状態ではなかった。

「お嬢様ぁ……あれは正気ですかぁ……」
「正気って? 俺は冗談なんか言っちゃいないけど」
「ヴェアナー様との一件です! どうするんですかぁ……敵に回しちゃいけないものを相手取る気なんですか……」

 ミイルズ教団の名前は出さないものの、言い方からしてわかる人間にはわかる。ティオボルドは「こらハンナ」と彼女を支えながら馬車へと向かう。

「いつかはそうなるって予想はできただろうさ。レニー様がパトロンな以上は、いずれはな」
「そうかもしれませんけど! でもこれ、お見合いなんですか? これじゃあ宣戦布告を受けたようなもんじゃないですかあ!」
「いや、これでよかったんだよ、ハンナ」

 レニーは笑う。
 下手に逮捕されるような大義名分を与えるよりは、宣戦布告を受けて受領したほうが、まだマシだったというだけだ。

「してもいねえ罪を捏造されて逮捕されてみろ。そっちのほうが大変なことになる。下手したら町に配属されている騎士団まで巻き込むから、ミイルズ教団を敵に回しちゃいけねえ民間人だって巻き込まれるところだったけれど。これだったら反乱軍と神殿騎士だけで済むからな」
「ですけど! 公爵令嬢がそんなことをしたら、お父上はどうなるんですかあ……」
「そんなの決まってるだろ」

 レニーは公爵家の末娘だ。そして政略結婚の価値がないからこそ、格下の家にほいほいとお見合い結婚の話が回される程度には、扱いが雑だ。

「俺のことは、きっと賢い父上は切り捨ててくださるさ。公爵家は無傷だ」
「もう、お嬢様ってば……!」

 ハンナの悲鳴を受け流しつつ、レニーはティオボルドに告げる。

「とりあえず、使用人たちの次の奉公先を探すのが先だろうな。お前はどうする? 金のためにうちで働いてたんだろ」
「レニー様、さすがにそれはないですよ」

 ティオボルドは苦笑して悲鳴を上げているハンナをなだめつつ、涼しげな顔で告げる。

「俺も他の使用人も。レニー様についていきますよ。もう宣戦布告を受けている以上、公爵家から切り捨てられた俺たちは、どのみち戦うしかないでしょう。ミイルズ教団と。その前に、せいぜい抗いましょう」
「俺、お前のそういうところが好きだよ」

 馬車は揺れて、だんだん屋敷が見えてきた。
 ミイルズ教団がいつ仕掛けてくるかはわからないが、今は英気を養えればと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

召喚聖女の結論

こうやさい
ファンタジー
 あたしは異世界に聖女として召喚された。  ある日、王子様の婚約者を見た途端――。  分かりづらい。説明しても理解される気がしない(おい)。  殿下が婚約破棄して結構なざまぁを受けてるのに描写かない。婚約破棄しなくても無事かどうかは謎だけど。  続きは冒頭の需要の少なさから判断して予約を取り消しました。今後投稿作業が出来ない時等用に待機させます。よって追加日時は未定です。詳しくは近況ボード(https://www.alphapolis.co.jp/diary/view/96929)で。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。 URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/937590458

処理中です...