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三章 婚約破棄と革命組織
5話
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神殿騎士たちはおろか、剣を振るって戦っていたはずの反乱軍のメンツも、彼女の出現で動きを止めてしまった。
下水道の空気は籠もっていてよどんでいるにもかかわらず、彼女がたったひと言発しただけで、そこは湧き水が無限に湧き出す泉のほとりのようにすら思えた。
レニーは一瞬呆けていたが、我に返った。
彼女は自分と一緒に、魔王の灼熱に焼かれて死んだはずなんだ……その彼女とそっくりそのままの姿をして、この大陸全土に監視の網を敷いたのは、他ならぬ彼女の率いるミイルズ教団のはずだ。
周りが黙ってしまった中、エデルは再び声を放つ。
「……私は、皆さんと戦うことを望んではいません。あなた方が魔王の因子を受け継いでいるとは思っていませんから。神の試練を乗り越え、理不尽に耐えて生きるあなた方の尊い生き方に私は感動しています」
「……神の試練? 尊い生き方に感動?」
レニー以外に、ルイーサも我に返ったようだ……それは清廉な音で放たれる、上から目線の感嘆の声によるものだった。
「誰が神の試練を受けているって? その生き方に感動している? ……いったいどう生きたらそんなに上から目線でそんな感想が言えるんだい?」
ルイーサの怒りに打ち震えた声に、ひとり、またひとりと正気に返っていく。彼女は振るっている棒を強く握る。
「そんな生き方に感動しているんだったら、交代してくれたらいいんじゃないかい? しないだろう? できないだろう? 口ではどれだけ綺麗ごとを言ったところで、その生き方を真似したいなんて思わないだろう? この大陸を支配している聖女様はさあ……!」
そのまま床を大きく踏み、エデルに向かって棒を振るった。
そのルイーサの言動に、エデルは心底悲しげな眼差しを向ける。それに気が付いたレニーは自身の足に強化を重ね掛けして、そのまま飛び出し、ルイーサの肩を掴んで自身の背後に引っ張った。
ルイーサが棒を振りかぶった先には、ヴェアナーが大剣を振り下ろしていた。目は爛々とし、歯を剥いている。
「この貧民風情が……! 聖女エデルに凶器を向けるとはどういう了見だ!?」
「……ルイーサが向けたのは棒だし、俺が下げなかったら、威嚇どころか首を落とす気だったろう?」
「当たり前だ……! 聖女エデルの言葉を否定する者を、生かす道理などどこにある!?」
お見合いという名の乱取りで薄々感じていたことだが、ここでようやくレニーは確信を得た。ヴェアナーは明らかに狂信者だ、それも重度の。
レニーはルイーサを下げると、ルイーサは気味の悪いものを見る目線をヴェアナーに送る。
「……あの女の言葉の、どこにそんなに信頼できる要素があるっていうのさ」
「残念だけど、お前の声は狂信者には届きはしないよ。それより、こいつらを一気に押し出すぞ。このまんまいったら、聖女エデルの言葉に取り込まれる」
「わかったよ」
「ティオボルド」
レニーは念のためにティオボルドにも声をかける。神殿騎士のほとんどは、ヴェアナーほどでもないが、彼女の言葉に心酔している。神殿騎士を辞めたとはいえども、自分付きの騎士まで取り込まれたら正気に返す前にやらなければいけないと考えていたが。
ティオボルドは苦笑してレニーの傍で剣を構えていた。
「厄介ですな、聖女エデルの言葉を妄信する輩というのは」
「お前はなんにも変わらないんだな、反乱軍の奴らまで、コロリと信じかけていたのに」
「ええ。彼女の言葉は綺麗ですから。ですけど俺は、同じ綺麗ごとならまだレニー様の言葉のほうが信頼におけますよ」
それにレニーは半眼になる。こんなところでなにを言っているんだという顔になったが。とりあえずティオボルドを殴る必要がなくなったことにはほっとする。
ヴェアナーは笑いながら、大剣を振り上げてきた。
「それではレニー嬢、今日いま、このときをもって婚約を破棄させていただこうか……!」
「……まっ、近いうちにこうなることは目に見えてたしなあ。いいぜ。それじゃ、元婚約者様、やり合おうじゃねえか」
レニーも剣を向ける。
しかしあまりにも出来過ぎの光景に、レニーはヴェアナーの背後に立っている聖女エデルを見る。自分の記憶の中にいる彼女とそっくりそのままの彼女。もし聖女として、かつての恋人と全く同じ力を持っているとしたら……これらを全部予言していたということか、とレニーは唇を噛む。
予言。
それは魔力量が膨大過ぎる上に、一年という長くて曖昧過ぎる情報しか得ることのできない魔法だ。
しかし勇者アビーは、これは使い方によってはおそろしい魔法だということを知っている。曖昧過ぎる情報を、味方の持つ情報と照合し、選別し、更に情報を精査すれば、最適解の情報が得られるということを。
それはかつて魔王との戦いの際に、教会の情報を総動員して、確実な予言を行った聖女エデルと同じことだ。
今まで聖女エデルが精神干渉により、大量に情報を得ていたのは、魔王の因子を選別するためだけではない。大量の情報の照合、選別、精査の末に、確実な予言を行うために、大陸全土を彼女のチェス盤へと変える作業だったのだ。
つまりは、レニーとヴェアナーの婚約とその破棄を仕組んだのも、今まで反乱軍を泳がせていたのも、全ては予言に基づく行動だったという訳だ。
気に食わないと思ったものの、ひとまずレニーは気を鎮めてヴェアナーを睨んだ。そしてルイーサとティオボルドに声をかける。
「……ここから先は、俺と元婚約者様の戦いだ。他の奴らを巻き込まないように気を配ってやってほしい」
「多数対一で戦うというのは?」
ティオボルドのその提案は、おそらくは彼の実力を知っているから出た言葉だろうが。下手に大勢で向かったところで、ヴェアナーは女子供にすら容赦しない性格だ。聖女エデルを狙うような真似をしたら、それこそ部下の神殿騎士すら躊躇せず巻き込んで殺しにかかるだろう。
厄介極まりない性格だ。
「……やめておく。巻き込まれて死なないようにな」
「ああ……レニー嬢も気を付けるんだよ?」
「ルイーサもありがとうな」
そこで会話は打ち切った。
短期予知で入ってきた情報を元に、床を大きく蹴ると、そのままヴェアナーに斬りかかった。首を狙おうとしても、それより先にヴェアナーの大剣がレニーの頭をかち割ろうと振り下ろされる。レニーはそれを剣で受け止める。
ギリギリギリ……と鍔競り合いの音が響く。
「ははははははは……! 細腕とは思えないほどの力ですなあ、レニー嬢!」
「そりゃどうも! あんたもずいぶんと剛腕じゃねえか」
「なにぶん、聖女エデルをお守りしなければなりませんからなあ!」
ふたりの戦いながらの会話は物々しい。何度も何度も響く金属音は、互いの得物をへし折ろうとするものだし、床を踏んで飛ぶ音は全て重い。
それにしても。レニーはヴェアナーの剣を捌きながら、彼の背後に守られている聖女エデルを見る。彼女が直接反乱軍の元に現れた理由はなんなんだろうと考える。
わざわざこんなところにやってきたのは、反乱軍の心を折るためだけとは考えづらい。
ミイルズ教団の聖女が貧民街にいる人間に恨まれていない訳がなく、ルイーサのように殴りかかろうとする人間だって出てくるだろうし。でもその割にはルイーサの狂信者であるヴェアナーを護衛に据えているのだから、ただの綺麗ごとを言いに来た訳ではないだろう。
なによりも。彼女が勇者アビーの恋人である聖女エデルに限りなく近い。もし彼女の使えた魔法を聖女エデルもまた使えるとしたら、それは厄介だ……とレニーは冷や汗を掻く。
勇者アビーが最期に聞いた魔王の呪いの言葉を思い出す。
魔王は勇者アビーに、聖女エデルそっくりの聖女を宛がって、それと殺し合えと言いたかったのではないか。
本当に、いい趣味だと思いながら、ヴェアナーに剣を振るう。ヴェアナーは笑いながら、剛腕でレニーの細腕で振るう剣を払う。強化で補強しているとはいえど、筋力の差は歴然だ。本当に細やかな目のやすりで削られていくように、少しずつだが確実に体力を奪われいっているのがわかる。
「はっはっはっはっは……! レニー嬢、戦いは目の前の人間と行うもんですぞ!」
「……はっ、あんたにそういう細やかな気配りができたというのは驚きだよ」
「いえいえ。なにぶん麗しい女性がふたりもいるのですから、騎士としては張り切るもんでして」
「へえ……俺とあんたは既に婚約破棄したから、これからは敵同士として会うのだとばかり思ったが」
「もちろん、レニー嬢が麗しいのはもちろんですが! 聖女エデル! 彼女をお守りするとなったら、背筋も伸びるもんですからなあ……!」
そう言ってガンッガンッと大剣を振り下ろしてくる。
短期予知を駆使して回避をしているものの、細やかなやすりが削ってくるのは、なにも体力だけではない。だんだん魔力も削れてきて、これ以上短期予知に魔力が回せなくなってきていた。
長期戦じゃ不利だ。どこかで一発逆転を目指さないといけない。そう考え、レニーはちらりと聖女エデルを見る。彼女は手を組んで祈りを捧げているように見えた。その光景を、勇者アビーには見覚えがあった。
聖女が祈りを捧げるのは戦いに勝利するためではない……魔力を練り込んで、魔法を行使しようとしているときだ。
──まずい。
気付いたレニーは、ヴェアナーの肩を大きく踏んで飛んだ。ヴェアナーを倒すためじゃない。聖女エデルのほうに飛ぶためだ。
魔法を発動させる訳には、いかない。
「お前は、ここで止める……!」
そのとき、今まで人形のように無機質だった聖女エデルの顔が、はじめて人間の感情が露わになった。
その表情に浮かんでいるのは、懇願と焦燥。そして……恋心。彼女の瞳は潤んで、唇が動いた。
「……アビー?」
鈴のように可憐な声が震える。 まさか。レニーは完全に止まってしまった。
死んで生まれ変わるまでに、何百年もかかっているのだ。それだというのに。目の前でたしかに死んだというのに。
どうして、恋人のエデルが、聖女エデルのまま年も取らずに生きている?
下水道の空気は籠もっていてよどんでいるにもかかわらず、彼女がたったひと言発しただけで、そこは湧き水が無限に湧き出す泉のほとりのようにすら思えた。
レニーは一瞬呆けていたが、我に返った。
彼女は自分と一緒に、魔王の灼熱に焼かれて死んだはずなんだ……その彼女とそっくりそのままの姿をして、この大陸全土に監視の網を敷いたのは、他ならぬ彼女の率いるミイルズ教団のはずだ。
周りが黙ってしまった中、エデルは再び声を放つ。
「……私は、皆さんと戦うことを望んではいません。あなた方が魔王の因子を受け継いでいるとは思っていませんから。神の試練を乗り越え、理不尽に耐えて生きるあなた方の尊い生き方に私は感動しています」
「……神の試練? 尊い生き方に感動?」
レニー以外に、ルイーサも我に返ったようだ……それは清廉な音で放たれる、上から目線の感嘆の声によるものだった。
「誰が神の試練を受けているって? その生き方に感動している? ……いったいどう生きたらそんなに上から目線でそんな感想が言えるんだい?」
ルイーサの怒りに打ち震えた声に、ひとり、またひとりと正気に返っていく。彼女は振るっている棒を強く握る。
「そんな生き方に感動しているんだったら、交代してくれたらいいんじゃないかい? しないだろう? できないだろう? 口ではどれだけ綺麗ごとを言ったところで、その生き方を真似したいなんて思わないだろう? この大陸を支配している聖女様はさあ……!」
そのまま床を大きく踏み、エデルに向かって棒を振るった。
そのルイーサの言動に、エデルは心底悲しげな眼差しを向ける。それに気が付いたレニーは自身の足に強化を重ね掛けして、そのまま飛び出し、ルイーサの肩を掴んで自身の背後に引っ張った。
ルイーサが棒を振りかぶった先には、ヴェアナーが大剣を振り下ろしていた。目は爛々とし、歯を剥いている。
「この貧民風情が……! 聖女エデルに凶器を向けるとはどういう了見だ!?」
「……ルイーサが向けたのは棒だし、俺が下げなかったら、威嚇どころか首を落とす気だったろう?」
「当たり前だ……! 聖女エデルの言葉を否定する者を、生かす道理などどこにある!?」
お見合いという名の乱取りで薄々感じていたことだが、ここでようやくレニーは確信を得た。ヴェアナーは明らかに狂信者だ、それも重度の。
レニーはルイーサを下げると、ルイーサは気味の悪いものを見る目線をヴェアナーに送る。
「……あの女の言葉の、どこにそんなに信頼できる要素があるっていうのさ」
「残念だけど、お前の声は狂信者には届きはしないよ。それより、こいつらを一気に押し出すぞ。このまんまいったら、聖女エデルの言葉に取り込まれる」
「わかったよ」
「ティオボルド」
レニーは念のためにティオボルドにも声をかける。神殿騎士のほとんどは、ヴェアナーほどでもないが、彼女の言葉に心酔している。神殿騎士を辞めたとはいえども、自分付きの騎士まで取り込まれたら正気に返す前にやらなければいけないと考えていたが。
ティオボルドは苦笑してレニーの傍で剣を構えていた。
「厄介ですな、聖女エデルの言葉を妄信する輩というのは」
「お前はなんにも変わらないんだな、反乱軍の奴らまで、コロリと信じかけていたのに」
「ええ。彼女の言葉は綺麗ですから。ですけど俺は、同じ綺麗ごとならまだレニー様の言葉のほうが信頼におけますよ」
それにレニーは半眼になる。こんなところでなにを言っているんだという顔になったが。とりあえずティオボルドを殴る必要がなくなったことにはほっとする。
ヴェアナーは笑いながら、大剣を振り上げてきた。
「それではレニー嬢、今日いま、このときをもって婚約を破棄させていただこうか……!」
「……まっ、近いうちにこうなることは目に見えてたしなあ。いいぜ。それじゃ、元婚約者様、やり合おうじゃねえか」
レニーも剣を向ける。
しかしあまりにも出来過ぎの光景に、レニーはヴェアナーの背後に立っている聖女エデルを見る。自分の記憶の中にいる彼女とそっくりそのままの彼女。もし聖女として、かつての恋人と全く同じ力を持っているとしたら……これらを全部予言していたということか、とレニーは唇を噛む。
予言。
それは魔力量が膨大過ぎる上に、一年という長くて曖昧過ぎる情報しか得ることのできない魔法だ。
しかし勇者アビーは、これは使い方によってはおそろしい魔法だということを知っている。曖昧過ぎる情報を、味方の持つ情報と照合し、選別し、更に情報を精査すれば、最適解の情報が得られるということを。
それはかつて魔王との戦いの際に、教会の情報を総動員して、確実な予言を行った聖女エデルと同じことだ。
今まで聖女エデルが精神干渉により、大量に情報を得ていたのは、魔王の因子を選別するためだけではない。大量の情報の照合、選別、精査の末に、確実な予言を行うために、大陸全土を彼女のチェス盤へと変える作業だったのだ。
つまりは、レニーとヴェアナーの婚約とその破棄を仕組んだのも、今まで反乱軍を泳がせていたのも、全ては予言に基づく行動だったという訳だ。
気に食わないと思ったものの、ひとまずレニーは気を鎮めてヴェアナーを睨んだ。そしてルイーサとティオボルドに声をかける。
「……ここから先は、俺と元婚約者様の戦いだ。他の奴らを巻き込まないように気を配ってやってほしい」
「多数対一で戦うというのは?」
ティオボルドのその提案は、おそらくは彼の実力を知っているから出た言葉だろうが。下手に大勢で向かったところで、ヴェアナーは女子供にすら容赦しない性格だ。聖女エデルを狙うような真似をしたら、それこそ部下の神殿騎士すら躊躇せず巻き込んで殺しにかかるだろう。
厄介極まりない性格だ。
「……やめておく。巻き込まれて死なないようにな」
「ああ……レニー嬢も気を付けるんだよ?」
「ルイーサもありがとうな」
そこで会話は打ち切った。
短期予知で入ってきた情報を元に、床を大きく蹴ると、そのままヴェアナーに斬りかかった。首を狙おうとしても、それより先にヴェアナーの大剣がレニーの頭をかち割ろうと振り下ろされる。レニーはそれを剣で受け止める。
ギリギリギリ……と鍔競り合いの音が響く。
「ははははははは……! 細腕とは思えないほどの力ですなあ、レニー嬢!」
「そりゃどうも! あんたもずいぶんと剛腕じゃねえか」
「なにぶん、聖女エデルをお守りしなければなりませんからなあ!」
ふたりの戦いながらの会話は物々しい。何度も何度も響く金属音は、互いの得物をへし折ろうとするものだし、床を踏んで飛ぶ音は全て重い。
それにしても。レニーはヴェアナーの剣を捌きながら、彼の背後に守られている聖女エデルを見る。彼女が直接反乱軍の元に現れた理由はなんなんだろうと考える。
わざわざこんなところにやってきたのは、反乱軍の心を折るためだけとは考えづらい。
ミイルズ教団の聖女が貧民街にいる人間に恨まれていない訳がなく、ルイーサのように殴りかかろうとする人間だって出てくるだろうし。でもその割にはルイーサの狂信者であるヴェアナーを護衛に据えているのだから、ただの綺麗ごとを言いに来た訳ではないだろう。
なによりも。彼女が勇者アビーの恋人である聖女エデルに限りなく近い。もし彼女の使えた魔法を聖女エデルもまた使えるとしたら、それは厄介だ……とレニーは冷や汗を掻く。
勇者アビーが最期に聞いた魔王の呪いの言葉を思い出す。
魔王は勇者アビーに、聖女エデルそっくりの聖女を宛がって、それと殺し合えと言いたかったのではないか。
本当に、いい趣味だと思いながら、ヴェアナーに剣を振るう。ヴェアナーは笑いながら、剛腕でレニーの細腕で振るう剣を払う。強化で補強しているとはいえど、筋力の差は歴然だ。本当に細やかな目のやすりで削られていくように、少しずつだが確実に体力を奪われいっているのがわかる。
「はっはっはっはっは……! レニー嬢、戦いは目の前の人間と行うもんですぞ!」
「……はっ、あんたにそういう細やかな気配りができたというのは驚きだよ」
「いえいえ。なにぶん麗しい女性がふたりもいるのですから、騎士としては張り切るもんでして」
「へえ……俺とあんたは既に婚約破棄したから、これからは敵同士として会うのだとばかり思ったが」
「もちろん、レニー嬢が麗しいのはもちろんですが! 聖女エデル! 彼女をお守りするとなったら、背筋も伸びるもんですからなあ……!」
そう言ってガンッガンッと大剣を振り下ろしてくる。
短期予知を駆使して回避をしているものの、細やかなやすりが削ってくるのは、なにも体力だけではない。だんだん魔力も削れてきて、これ以上短期予知に魔力が回せなくなってきていた。
長期戦じゃ不利だ。どこかで一発逆転を目指さないといけない。そう考え、レニーはちらりと聖女エデルを見る。彼女は手を組んで祈りを捧げているように見えた。その光景を、勇者アビーには見覚えがあった。
聖女が祈りを捧げるのは戦いに勝利するためではない……魔力を練り込んで、魔法を行使しようとしているときだ。
──まずい。
気付いたレニーは、ヴェアナーの肩を大きく踏んで飛んだ。ヴェアナーを倒すためじゃない。聖女エデルのほうに飛ぶためだ。
魔法を発動させる訳には、いかない。
「お前は、ここで止める……!」
そのとき、今まで人形のように無機質だった聖女エデルの顔が、はじめて人間の感情が露わになった。
その表情に浮かんでいるのは、懇願と焦燥。そして……恋心。彼女の瞳は潤んで、唇が動いた。
「……アビー?」
鈴のように可憐な声が震える。 まさか。レニーは完全に止まってしまった。
死んで生まれ変わるまでに、何百年もかかっているのだ。それだというのに。目の前でたしかに死んだというのに。
どうして、恋人のエデルが、聖女エデルのまま年も取らずに生きている?
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