追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空

文字の大きさ
1 / 2

クビになって見合いする

しおりを挟む
「ミーナ今までありがとう、新しい聖女が決まったんだよ」

 神官長さんに言われて、私は思わず「なんでちと」と口走っていた。
 周りは心底気の毒な顔で私を見つめていた。

****

 かつて空はドラゴンが、地上は魔族が跋扈し、人々の安全を脅かしていた。
 その中、土地を失ってしまった一般人や、魔族に占領されてしまった領地の貴族令嬢の避難先として受け入れられていたのが神殿だった。
 神殿には様々な加護を与える祝福を持つ聖女がいて、以降彼女を見習うようにと、貴族令嬢は聖地巡礼として一定期間神殿での行儀見習いが行われるようになったけれど。
 平和になった途端、信仰心はすっかりと形骸化し、神殿だって利権化が進んでしまった。
 私、ミーナが聖女をやっていたのはなんてことはない。
 平和だと、あちこちに祝福を与えて回り、生まれた子供に加護を与えるような役割を持つ役割、魔力の強い貴族たちは「なんでそんな無銭でやらなきゃいけないんだ」とボイコットするようになってしまったため、特に後ろ盾もなくて、働き先も神殿以外になかった一般人から聖女が探されるようになってしまったからだ。
 私も元々はただの一般人であり、神殿にいたのは他でもない。家族が多過ぎる実家にずっといる訳にもいかなく、だからと言って働き先がなかったから、ここで洗濯婦として仕事をしていたら、「あんた思ってるより魔力あるから聖女やれ」と言われて、そのまま連行されてしまったからだ。
 こうして私は、なけなしのお金と引き換えに、祝福、加護、祝福加護、祈祷の生活を送るようになったのだった。
 そして今、私のなけなしのお金の得られる仕事が奪われようとしている。
 ちなみに貴族令嬢が喜んで聖女をやってくれる理由がひとつだけある。
 いいところに結婚するための箔付けだ。一年適当に聖女ごっこして箔を付けたら、そのまま結婚していくのだ。
 貴族令嬢は聖女を務めたというブランドを手に入れられ、見合い相手は聖女を妻に迎えられたというステータスを手に入れられる。まさしくWINWIN。
 ほんっとうにクソッたれだなあ!?
 でもなあ! それが田舎貴族だったら、私も泣いてごねて今までの成果をアピールしたらなんとかなったかもしれないけど、相手は公爵令嬢だった。いくら聖女だからと言っても聖女の座を剥奪されたあとだったら簡単に首と胴が泣き別れしてもおかしくない身分の相手だった。
 そんな人がステータス手に入れる必要なくない??

「私、他に行くところがないんですけど!? お仕事ないんですか!? 実家にも帰れませんし! ほんっとうに困るんですけど!」

 六人兄妹の四番目。実家に帰っても行くところない。
 既に一番上の兄ちゃんが結婚して畑やってるのに、今更妹帰ってきたところでお嫁さんと揉めるのが目に見えている。だからと言って豪農でもない農家の四番目が聖女やってたからというステータスで嫁入りなんてしようものなら。
 加護。加護。加護。祝福。加護。祈祷。祝福……。
 ……嫁ぎ先で肥料としてこき使われて、祈祷死なんて魔力枯渇理由ナンバーワンの死因で死にかねない。そんなのこちらも困る。
 それに神官長様は「そうですね」と唸った。

「実は聖女様のお見合いの打診がいくつか来ているのですが」
「農家は嫌です! 魔法を生業にしている家も嫌です!」
「たしかに加護を膨大に行使しようとするような家系はミーナも嫌でしょうね。実は侯爵家から来ているんですよ」

 それならば。領地経営して頑張っているような侯爵家ならば、さすがに私に祈祷死させようなんてしないはず。

「なら行きます! 行かせてください! ああ、見合いの服なんて持ってませんけど……」
「それは普通に神官装束でよろしいでしょ。それでは予定を決めますから」
「はいっ!」

 私はその人に会う段取りを決めたのち、いそいそと服を見繕いに出かけた。
 貴族令嬢なら、神殿で見合いをするにしてもドレスの一枚や二枚持ってきているだろうけれど、一般庶民は着の身着のままで洗濯しに神殿に入ったんだから、そんなもの持っている訳ない。神官装束の中でもトゥニカのような黒いワンピースを選んだ。
 普段はベールで隠している赤い癖毛をブラシで一生懸命とく。背中まで伸びた癖毛もまあまあチャームポイントになるだろう。
 あと、折角来てくださるんだからと、お茶菓子を用意することにした。
 神殿にいたら、加護、祈祷、祝福、祈祷、加護の日々で、本当に魔力が消耗する。その中で唯一の楽しみがお茶の時間だった。
 神殿の中庭ではブドウが植えられていて、それでワインをつくっている。ワインをつくるときに卵白を使うのだけれど、そこで卵黄が残ってしまうのだから、もったいないからお菓子をつくろうと、卵黄を使ったお菓子もいろいろつくるようになり、お茶菓子として出されている。
 そういえば。当日は卵黄を使ったケーキを焼いて、孤児院に配る予定だった。ついでにひと切れ見合い相手にいただこうか。
 その人とお菓子を食べてお茶を飲みながらお話をすれば、悪いことにはならないだろう。
 そのときの私は脳天気にそう思っていたんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

処理中です...