初恋の幼馴染に助けてもらったと思ったらヤンデレだった

音羽 藍

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6.新しい生活

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休日の朝、段ボールの山に囲まれて、私はようやく一息ついた。

引っ越しって、最初の頃思ってた以上に大変で面倒くさい。

住所変更の手続きに、光回線の契約、家具の配置……
それに今度は同棲するから、色々変更点が多い。

それに楓の荷物も一緒だから、部屋の中はまだ落ち着かない。

でも今、格段に安心感はあった。

窓の外の景色は違うし、自分以外がいる気配があるけど、前にいたあの部屋の不気味な静けさと怖さがない。

夜、音や怖さに怯えることも、今はもうない。

「ふぅ……やっと終わったね」

私が市販のペットボトルの水を差し出すと、楓は軽く笑って受け取った。

「お疲れ……よく頑張ったな。」

その声を聞くだけで、肩の力が抜け落ちる。
やっぱり、楓がそばにいると違う。

「ねぇ、あの……ローグ君のことなんだけど……ね。」

気になっていたことを、ようやく口にした。

楓の表情が少しだけ引き締まる。

「うん。あの荷物、警察に預けたよな?」

「うん。でもね……“証拠がないから捜査はできません”って言われちゃった」

自分の声が思ったより小さく響いた。
警察署のカウンターで言われた言葉が、まだ頭の中でこだまする。

『脅迫や侵入の形跡があれば動けるんですけどねぇ……これだけでは“悪質なイタズラ”としか判断できませんね。』

……イタズラ、ね。

まるで自意識過剰な女を見るおじさんの警察官とめんどくさそうに私を見る女性警察官。

2人は奥で何かを言っていたが、近くで子供連れの女性とその旦那さんなのかが、熱を出した小さな子供を見る担当をめぐりあい中年夫婦が喧嘩していた。



その場に紺色のフードの中学生?だろうかが小さな子供の兄か姉なのかが、慌てた様子で2人の間で小さな子供をあやしている。

居合わせた中年の何処かの制服の店員さんはなぜか場違いの様にリラックスしており、時折中学生の方を睨んでいる。

喧嘩の声や中学生?の持っていたスマホから流行りのアイドルの歌声の着信が流れて、さらに聴こえない。

あの箱を思い出して、あの夜の恐怖を思い出すと、とてもそんな簡単なイタズラという言葉で片づけられない。

本来あの人形はコードを繋げると、中にある人形の充電電池が回復して、目が光りながらも『お仕事頑張ってぇ』とか『ねんねする?』とかのアニメと同じ内容の会話をするはずだった。

ローグ君はアニメ化された魔法少女をモチーフにしたダーク・ファンタジー魔法少女系のキャラクターだった。

魔法少女として戦闘するしかない元少年や少女達にローグと名乗ったマスコットのような外見の二足歩行動物だ。

ローグ君は所謂中間管理職で世知辛い役目なのだが……


「……まだ終わってない気がするな。」

気づけば、彼はそう呟いていた。

楓はそれから、しばらく黙って、ゆっくりと私の方をゆっくりと見た。

不安と恐怖、自意識過剰な面倒い女と思われた私のメンタルはズタボロだ。

きっと、警察署に二度と行けない。

「大丈夫。もう小春は一人じゃないからな。」

その言葉に、目線を合わせると胸がきゅっと締めつけられる。
ジッと真剣そうに“守る”って顔して言うから、余計に段々と苦しくなる。

やっぱり、楓のこと……

その先を考えるのが怖くて、わたしは視線をそらした。
けれどその瞬間、元々持っていたローグ君の小さなキーホルダーが、置いていたソファーから落ちて小さく揺れ動いて空中をくるくるとしていた。

偶然だよね?
そう思いながらも、心臓がまた、速くなる。

どれだけ距離を取っても、“怖さ”は、まだどこかにいる気がした。
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