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7.回想・高校生編1
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コーヒーの香り、彼が好んでいた懐かしい曲の一節を鼻歌で彼が歌う。
そんな何気ない事が、私の最近まで忘れていた記憶の扉を静かに開けたのだった。
楓と私は、田舎の小さな高校でいつも一緒だった。
登下校も、購買でパンやデザートを買うのも、放課後の帰り道で寄り道するのも。
気づけば、いつも隣には楓がいた。
「まるで双子みたい」
クラスの誰かにそう笑われながら言われて、私は曖昧に笑った。
でも本当は、そうじゃなかった。
ただの幼なじみでもない。
でも、それ以上にもなれない。
そんな、半端な距離。
私は彼を気にしていた。
簡単な理由だ。
ある日、大雨の日傘を刺して急いで、バス停に向かっていた。
委員会の居残ってようやく終わらせた私は土砂降りの中急いだ。
しかしながら通りがかったトラックの水飛沫で制服がぐっしょりになってしまった。
えぇっ……と落ち込んでいると、バス停には楓が独りいたのだ。
大丈夫かと彼がハンカチと上からカーディガンをかけてくれた。
透けてると囁かれた時、恥ずかしさと共に居た堪れなさに包まれた。
彼の方を向けなかった。
でも、彼は大丈夫……そんなに見てないと優しく言ってくれたし隠してくれたのは大きかった。
顔を赤くして目線を逸らしている彼が、可愛いと思ったのがキッカケだった。
そう、それから私だけが意識するようになった。
二年の冬、教室の空気が少し浮ついていた。
バレンタインデーが近いからだ。
下駄箱にはラッピングされた箱が時折並び、
休み時間の廊下では「告白した」「付き合った」という声が飛び交う。
田舎だったから、誰かと誰がなんて、予想通りの組み合わせだった。
逆にフラれたという場合は察する程に簡単だ。
相手側の男子が、複数人で現れて茶化したり、馬鹿にしたりした。
速攻でごめん無理とか、やっぱり無かった事にしてとなったらしい。
周りの子たちが次々と“恋人”という関係になっていく中で、私達は変わらずだった。
でも、それが少しだけ苦しくなっていた。
放課後。
わたしはこっそり作ったチョコを手にして、校舎裏にあるいつも昼メシを食べている裏庭のガゼボへ向かった。
あそこは日陰で、裏庭も手入れされてないから雑草生えまくりで、歩きにくいけど、穴場だし、見晴らしが良くていつも好きだった。
ぎこちない赤いリボンに、包み紙が少しヨレている。
不器用な私の手でラッピングして作った、見た目は悪いけどそれでも心だけは込めた精一杯の“私の気持ち”だった。
渡すなら、今日しかない。
そう思って、勇気を振り絞って校舎を回り込んで駆け走る。
楓は既に教室には居なかった、先に行くねと足早くに購買に駆けて行ってしまった。
昼時の混雑する購買にようやく買えて、いつものお気に入りの場所へようやく辿り着いて、その時に見てしまった。
楓の前に、可愛い女子が立っていた。
可愛い笑顔。
初々しく赤く染まる顔は清楚なのに、まるで百合の様な美しささえある。
遠くからで、私も見つからない様に木の影でこっそりと見ているので遠くからだが、ラッピングも、私のよりずっと綺麗で如何にもお嬢様と言いたくなる程の出来栄えだった。
「これ、受け取ってください!」
声が風に乗って届く。
楓は少し驚いた顔をして、それでも優しく微笑んだ。
あの優しい笑顔が、自分に向けられていないことが、なんでこんなに痛いんだろうか。
ふと、手の中のチョコの入ったラッピングされたプレゼントを見下ろした。
包装の角が少し潰れていて、リボンも斜め。
さっきまで“頑張った証”だったのに、
今はただのみっともない失敗作に見えてきて、色褪せていく。
「……渡せないよ、こんなの。」
そっとカバンの中に戻した。
また2人を見ると、コッチを少し彼が見ていた様な気がしたが、直ぐに彼の視線は彼女の方へ向いていて何処かニヤけている。
胸の奥に広がるのは、チョコの甘さなんかじゃない。
焦げたみたいに苦くて汚い気持ちだった。
なんで、こんな汚い想いが恋なのか。
"初恋は叶わない"
そんな言葉を幼馴染だからと、軽く見積もっていたチョコよりも甘かった私は忘れていたのだ。
叶わない恐怖を。
そして、更にこれから始まる辛く惨めな毎日を。
その日、私はスマホのスレッズで彼に連絡する。
『ごめん、今日は一緒に食べれそうにない。』
そう打ち込みながら、ゆっくりとその場を離れていった。
あそこにいるのが私、じゃなくて彼女なのか。
彼に微笑みかけられているのは私では無い。
彼に手渡しているのが私のではなくて彼女なのか。
その後、楓は彼女と付き合ったのだろうか?
あの日から、私はずっと彼に何も“言えないまま”全てを忘れる事にした。
この"汚い"想い出はソッと心の底に沈めておく。
きっと、私と楓はよくある幼馴染。
そう、これが正しい道なのだろう。
彼が望んでいると思う道筋。
そんな何気ない事が、私の最近まで忘れていた記憶の扉を静かに開けたのだった。
楓と私は、田舎の小さな高校でいつも一緒だった。
登下校も、購買でパンやデザートを買うのも、放課後の帰り道で寄り道するのも。
気づけば、いつも隣には楓がいた。
「まるで双子みたい」
クラスの誰かにそう笑われながら言われて、私は曖昧に笑った。
でも本当は、そうじゃなかった。
ただの幼なじみでもない。
でも、それ以上にもなれない。
そんな、半端な距離。
私は彼を気にしていた。
簡単な理由だ。
ある日、大雨の日傘を刺して急いで、バス停に向かっていた。
委員会の居残ってようやく終わらせた私は土砂降りの中急いだ。
しかしながら通りがかったトラックの水飛沫で制服がぐっしょりになってしまった。
えぇっ……と落ち込んでいると、バス停には楓が独りいたのだ。
大丈夫かと彼がハンカチと上からカーディガンをかけてくれた。
透けてると囁かれた時、恥ずかしさと共に居た堪れなさに包まれた。
彼の方を向けなかった。
でも、彼は大丈夫……そんなに見てないと優しく言ってくれたし隠してくれたのは大きかった。
顔を赤くして目線を逸らしている彼が、可愛いと思ったのがキッカケだった。
そう、それから私だけが意識するようになった。
二年の冬、教室の空気が少し浮ついていた。
バレンタインデーが近いからだ。
下駄箱にはラッピングされた箱が時折並び、
休み時間の廊下では「告白した」「付き合った」という声が飛び交う。
田舎だったから、誰かと誰がなんて、予想通りの組み合わせだった。
逆にフラれたという場合は察する程に簡単だ。
相手側の男子が、複数人で現れて茶化したり、馬鹿にしたりした。
速攻でごめん無理とか、やっぱり無かった事にしてとなったらしい。
周りの子たちが次々と“恋人”という関係になっていく中で、私達は変わらずだった。
でも、それが少しだけ苦しくなっていた。
放課後。
わたしはこっそり作ったチョコを手にして、校舎裏にあるいつも昼メシを食べている裏庭のガゼボへ向かった。
あそこは日陰で、裏庭も手入れされてないから雑草生えまくりで、歩きにくいけど、穴場だし、見晴らしが良くていつも好きだった。
ぎこちない赤いリボンに、包み紙が少しヨレている。
不器用な私の手でラッピングして作った、見た目は悪いけどそれでも心だけは込めた精一杯の“私の気持ち”だった。
渡すなら、今日しかない。
そう思って、勇気を振り絞って校舎を回り込んで駆け走る。
楓は既に教室には居なかった、先に行くねと足早くに購買に駆けて行ってしまった。
昼時の混雑する購買にようやく買えて、いつものお気に入りの場所へようやく辿り着いて、その時に見てしまった。
楓の前に、可愛い女子が立っていた。
可愛い笑顔。
初々しく赤く染まる顔は清楚なのに、まるで百合の様な美しささえある。
遠くからで、私も見つからない様に木の影でこっそりと見ているので遠くからだが、ラッピングも、私のよりずっと綺麗で如何にもお嬢様と言いたくなる程の出来栄えだった。
「これ、受け取ってください!」
声が風に乗って届く。
楓は少し驚いた顔をして、それでも優しく微笑んだ。
あの優しい笑顔が、自分に向けられていないことが、なんでこんなに痛いんだろうか。
ふと、手の中のチョコの入ったラッピングされたプレゼントを見下ろした。
包装の角が少し潰れていて、リボンも斜め。
さっきまで“頑張った証”だったのに、
今はただのみっともない失敗作に見えてきて、色褪せていく。
「……渡せないよ、こんなの。」
そっとカバンの中に戻した。
また2人を見ると、コッチを少し彼が見ていた様な気がしたが、直ぐに彼の視線は彼女の方へ向いていて何処かニヤけている。
胸の奥に広がるのは、チョコの甘さなんかじゃない。
焦げたみたいに苦くて汚い気持ちだった。
なんで、こんな汚い想いが恋なのか。
"初恋は叶わない"
そんな言葉を幼馴染だからと、軽く見積もっていたチョコよりも甘かった私は忘れていたのだ。
叶わない恐怖を。
そして、更にこれから始まる辛く惨めな毎日を。
その日、私はスマホのスレッズで彼に連絡する。
『ごめん、今日は一緒に食べれそうにない。』
そう打ち込みながら、ゆっくりとその場を離れていった。
あそこにいるのが私、じゃなくて彼女なのか。
彼に微笑みかけられているのは私では無い。
彼に手渡しているのが私のではなくて彼女なのか。
その後、楓は彼女と付き合ったのだろうか?
あの日から、私はずっと彼に何も“言えないまま”全てを忘れる事にした。
この"汚い"想い出はソッと心の底に沈めておく。
きっと、私と楓はよくある幼馴染。
そう、これが正しい道なのだろう。
彼が望んでいると思う道筋。
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