愛が重いなんて聞いてない

音羽 藍

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駆け巡る普天率土の章

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「ユリウス、おはよ。」
「シア……会いたかった」
「ふふ、私もよ。一晩離れただけなのに。」

 ギュッと彼に抱きしめてくれた事に嬉しさがある。
 私も彼の背に手を回し、番の匂いに包まれて安心感が浸透していく。

「やはり、君が一番だ。」
「ん?どういう事?」
「なんでもない、少しシア不足で……」
「……うん?ならいいけど。」

 私はごほんと後ろで咳をしたシルベスターの事を気がついて、私は離れようとしたが、ユリウスが少し名残惜しそうにしてジッとみつめてきて、私は夜にね?とウィンクをした。

「とりあえず、中へ入りましょ……」
「どうかしたのか?」
「それが……いる」

 シルベスターはクンクンと顔をあげて、番の匂いに気がついたらしい。

 その動作でフードがとれて、流れる銀髪に周りの父兄がざわざわとしているのを見て、騒がしくなってきている。

「進みましょうか。周りも人手が集まってきてしまっているし。」
「そうだな。」

 私達は歩き出していたが、シルベスターはそわそわと挙動は不審になりながらも、見渡してやはり学園内部にいるらしい。

「一応着いて行こうか、入れない所もあるから気をつけて。」
「あぁ、すまないな。かなり近いんだ。こんなに近い事は中々ない。」

 この方向は、いつもの塔に向けて歩いており、彼が進む度に人混みは左右に別れて、銀髪だわと私の髪色とシルベスターの髪を見て、二度見している。

「シア、良いのか?このまま、入ってしまって。」
「ええ、連れてくる予定だったから奥の研究室等がある所はダメだろうけど、エンランスのある付近は大丈夫だと思う。それに……まさかと思っていたけれど、まさかだったのね。」
「ということは。」 

 塔の入り口に入ると本を抱えていたのを落としたコルネリアさんがぼーっと見ており、駆け寄ったシルベスターさんが跪き落とした本を拾い、コルネリアの手を取り、なにかを話していた。

 ここからだと聞こえなくて、聞こうとして近寄ろうと一歩踏み出そうとすると、後ろからフッと抱きしめられて止められた。

「……なんで」
「あのな……人の恋路に首を突っ込むな。それに俺だけを興味持って見てくれ。」
「ユリウスったら……」

 顔だけ振り向くと、彼の顔が近づいて、そっと唇を重ねられた。

「言っておくけど、愛しているのはユリウスだけよ?」
「それでも、番が他人を気にしているのは余り良い事ではないだろ。」
「それはそうだけどね。」

 私はごめんと私から顔を近づけて、唇を重ねた。
 深々と舌先を絡めている事に背中を撫でられた様なびくびくとした感触がきた。

 もっとと思ったけれど、ここが学園だという事にようやく思い出して名残惜しいけど離した。

 ちゅっと離れると少しユリウスの瞳はトロンとしており、頬を少し赤らめていて私の身体を掴んでいる手を離してくれない。
 私は嬉しさと愛おしさに、包まれ幸せだった。

 ふと、彼等の方へ向くと初々しく、手を重ねて何かを語り合っており、幸せそうでなによりだった。

「ユリウス、ほらそろそろ行きましょう。」
「もうか……まだいいだろ?」
「これ以上はダメよ?止まらないでしょ?」
「それは……そうだけど。」

 まだしたかったと顔に書いている様だった。
 ようやく離してくれて、私達に気がついた2人は喜びながら会えて良かったと喜んでいる。

「私の番シアちゃんの親族だったのね!どうりで居ないはずよっ」
「あぁ、俺は少し前まで帝国の山奥に住んでいたからな。今はシア殿の祖父のランドルフさんの所に住まわせていただいている。」
「それが私……跡取り娘なの。だから……」
「あぁ、俺の方は構わない。私は継ぐ家はないからな。コルネリア殿の父君次第……」
「それなら良いぞ、シア殿の親戚なら寧ろお釣りが来るからな。」
「父様!」
「いやはや、来るかもしれないと聞いていたがもはや、本当だったとはな。」

 フリューア先生が来て、シルベスターの肩を軽くたたいた。
 驚いて礼をした彼を止め、構わないといった。

「いつも私の番は居ないのだと嘆いていたからな。」
「それはもういいわ、こうして現れてくれたんだもの。」
「そろそろ、私達は教室の方に行きますね。」
「あぁ、そうだな。新しき出会いに感謝を。」

私とユリウスは急いで教室に向かった。







「この時間帯が担当か。」

午前のひと時が私の担当で、ユリウスも同じ時間帯になっているらしい。
垂れ幕で他の客同士が見えなくなっている為、働いている姿は見えないけど、少し覗いて見たい気はする。

「シア……シアの為ならなんだってするから、見ないでくれ。」
「そんな声に出てた?」
「出てないけど、顔に出てるからわかる。」
「見たらダメなの?」
「ダメだ。俺も見ない様にするから、我慢してくれ。」
「えーっ……」
「見たら……わかってるよな?俺の好きな様にするからな?嫌だって言っても逃れる事は許さないからな。」
「……見ない様にするわ。」

ほんとだよな?と言いたげな彼の表情に笑いつつも、私は営業に向けて裏方の手伝いに向かった。





「あ、シアちゃんのくじ引いたわね。しかも、お隣でお喋りコースだわ。」
「あら、本当だわ。行ってくるわね。」

ミレディさんに言われて、私は右手のブースのお客様に向かった。

カートを押して、お客様が頼まれた軽食と飲み物を持って行く。

全て調理済みの物で、私達が飲み物は注ぐだけになっており、楽である。


ご婦人の様で珍しく同じ同性を指定したのかと考えながらも、私はカートから机に軽食と飲み物を置いた。

「いらっしゃいませ、担当のシアと申しますわ。語りコースを選択していただからありがとうございます。」
「いえいえ、えらく可愛らしい方が当たって嬉しいわ。私、運は良いのよ。」
「お隣失礼しますね。」
「ええ、話してちょうだい。」

椅子に座ると、少し垂れ幕の向こう側から、色々な声が薄らと聞こえて、とても不思議な感覚だった。
私は少し離れた国へ行った思い出や番の彼にあげた縫い物の話題をすると、ご婦人は縫い物に興味を示して、糸にこだわりはなかったけれど、意味に関してはおざなりになっていたと少し考えながら気持ちと魔力ねと言い残し、遠い目をした。

「これからは少し縫う時は気持ちと魔力を込めてみるわ。」
「ええ、気持ちは幾らでも込められますもの。そろそろお時間ですね、ありがとうございました。」
「あぁ、そうそう私少し不思議な力があってね……なにか困った事があったら海に行きなさい。きっと解決してくれるわ。この力は自分には使えないから……助かったわ。」
「はい、ありがとうございます。海ですね、行こうと思っていたのですが、封鎖されてしまって行けなかったので楽しみです。」

私は礼をして下がる。
ブースから出ると隣の部屋からはキンキンとした声が聞こえて、入り口前には数人たむろしている。

「どうしたの?」
「あ、いや。見ない方が……」
「いや、でも番でしょ?だったら見たほうが。」
「いやぁ、ダメだろ?」
「ユリウスがどうしたの?」
「あぁ、俺はしらねぇからな。」

私は不安になりながらも、ダメだとユリウスに言われたけどそれでも気になってしまい、彼等の語る話を聞きつつ、中を少し覗き込んだ。











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