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第3章 魔術覚醒編
第149話 オレの世界ではそれを『再生《ルネッサンス》』と言う。
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「だったら……だったら、何がいけないんだ? 何がこの国の進歩を止めているんだ?」
「わかっているだろう? それが『魔術』だ」
「それは貴族が魔術の利益を独占するからだろう?」
お前はまだそこにいるのか? ヨシズミの目に憐れみを見出し、ドイルは震えた。
「そんなら魔術がねかッたとしても同じことでねェか」
貴族が科学進歩の利益を独占したら、社会は発展しないのか?
「個人が社会を止めることはできねェの。少なくとも長期的にはナ」
なぜなら人は死ぬものであるから。
「ならばこの世界を止めているのは……」
「魔術という『体系』そのものだ」
「人々の欲求を絶妙に満たし、技術開発や分業化を不要とさせる。魔力保有者は少数に限られ、社会全体の生産性に蓋をする。人から人へ伝承することができない。魔術師の再生産は世代交代に頼るしかなく、最低でも15年の期間を要する」
「魔術という体系こそ、この世界に設けられた袋小路なのだ」
「うぷっ、う、うぼっ……」
顔面蒼白となり立ち上がったドイルは、急いで窓を開け、体を乗り出して……吐いた。
急いで駆け寄ったステファノはドイルの背中をさすり、心配そうに声を掛けた。
「先生、大丈夫ですか?」
「す、すまん。はあ、はあ……」
胃が落ちつくのを待ってからドイルは窓際を離れ、ハンカチで口元をぬぐった。
ソファーに戻ると、ステファノが差しだすグラスの水をゆっくりと飲み下す。
「失礼した。見苦しいところを見せて申し訳ない」
「無理もねェ。まだ、続けるかネ?」
「もちろんだ。君の意見が知りたい。600年前、この世界に魔術という呪いを掛けたのは誰だと思うね?」
ヨシズミはテーブルに目を伏せた。
「オレは歴史の勉強もしてねェし、この国の今がどうなってンのかもよく知らねぇ。ただはっきりしてンのは、『聖人』って人が表に立って魔術を世に広めたってことだけダ」
「聖スノーデン」
ドイルがぎりっと奥歯を噛みしめた。
「聖スノーデンが魔術を体系化し、聖教会をその管理者に置いた」
「だったら、まず聖教会ってもンを疑わねばなンねエな」
「聖スノーデンは現王家の祖でもある」
「どうだッペな? 王家は今も魔術のお守りをしてンのか……」
「聖スノーデンが作ったものがもう1つある」
「それが魔術に関係サしてるッて?」
「王立アカデミーだ」
ヨシズミはテーブルから眼を上げた。
「魔術と科学を手元に置いて監視するためには、良い仕掛けだと思わないかい?」
「ステファノはそこで勉強すんでねェノ?」
「はい。来月面接を受けます」
「それは……危なくねェッペか?」
「えっ?」
「ステファノが魔法を使うってことがばれたら、裏を探られるんでねェか?」
「魔術を使ってごまかすことはできないのか?」
「魔術に見えるように魔法を使うことはできる」
ドイルとヨシズミの会話はステファノに関することでありながら、当の本人を置き去りにして進んでいた。
「先生、師匠、在学中は魔法を使わないようにしますよ。それなら疑われることはないでしょう?」
ヨシズミはじろりと弟子を見た。
「おめェはそそっかしくて当てになンねェからナ」
「目の前に病人でもいたら、無理をしそうだ。えっ?」
ドイルがそう言うと、ステファノだけでなく、なぜかヨシズミまでが目をそらせた。
「そういうことはアレだ。ぜ、全部先生様やらお医者様やらに任せばいいことだッペ?」
「そ、そうですよ。オレが手を出す必要はありませんよね?」
どうもそぶりが怪しいが、言っていることは正しい。ドイルは深く追求しないことにした。
「とにかく『魔術で再現できない魔法』の行使は禁止。そういうことでいいな、ステファノ?」
「はい。もちろん大丈夫です」
今度はヨシズミがドイルに聞かねばならないことがあった。
「それでおめェさんはどうする気だ?」
「どうとは?」
「決まってるでねェか? この国の未来だ」
袋小路に捕らわれたこの国を、そこから解放して科学の進歩を促すつもりなのか?
「僕は科学者だ。科学とは常に進歩し続ける体系であるべきだと信じている」
「なら、魔術サぶっ壊す覚悟があンだナ?」
「やる!」
ドイルはその顔に決意をみなぎらせた。
「たとえ王家を敵に回そうとも僕が引くことはない」
「相手が神であってもか?」
「そうだ」
「そうか」
ヨシズミは姿勢を改めた。
「それなら2つやるべきことがある」
「1つは身内と縁を切れ。事破れた時に、あんたの身内が罪に問われる恐れがある」
「もう1つ。ギルモア家とネルソン商会がどう動くかを見極めろ。敵に回るようなら、こちらも縁を切る必要がある」
「魔術が国の発展を止めていると知ったら、ギルモア家とて魔術廃止の味方をするはず……」
「スノーデン王家と敵対しても、か?」
「ぐっ」
「ギルモアは『国』すなわち『民』の味方をするのか、『王家』の味方をするのか、立場を見極めろ」
「……わかった。僕の研究成果という形を取って魔術の問題点をネルソンに伝えてみる。それを見て彼らが研究を指示するのか、止めようとするのかで去就を考えよう」
「くれぐれも慎重にな。オレとステファノの名前は出さないでくれ」
「師匠!」
「ステファノ、ヨシズミの言うことが正しい。これは為政者と魔術師協会、そして科学者の間の問題だ」
「先生……」
ステファノは2人の師の間で揺れ動いていた。
「それにしても敵が多いナ」
「貴族と魔術師協会を敵に回すのは今まで通りだが、聖教会と事によれば王家まで敵になるか?」
「おめェさんに味方する奴はいねェのケ?」
「学者の中に、それだけ気骨のある奴がいたかどうか……」
人と交わらずに生きて来たドイルの弱みであった。信じられる仲間が彼にはいない。
「1人で世界を変えることはできねェド」
「わかっている。これからは味方を作らなければならないと……」
「冷てェようだが、オレとステファノは数に入れねェでくれ」
「師匠!」
「わかってる」
ステファノは不満の色を示したが、ドイルが割って入った。
「ステファノ。これは社会の根幹に関する戦いだ。容易に殺し合いに発展するだろう。君を血なまぐさい殺し合いに巻き込むつもりはない」
「俺にできることはないんですか?」
「知識を提供することはできる。オレの世界のものを含めてな。だが、そこまでだ。それ以上は命に関わる」
「ああ。それで十分だ。正しい魔法の知識は革命の武器になってくれるだろう」
「革命か……。オレはもっといい言葉を知っている」
ヨシズミの口角がピクリと上がった。
「オレの世界ではそれを『再生』と言う」
「ルネッサンス……」
「社会をつなぎとめるくびきからの解放を、人々はそう呼んだんだ」
「君たちはそれを成し遂げたんだな?」
ドイルが目を輝かせた。
「そうだ。ルネッサンスの担い手は富裕階級だ。権力に対する財力が時代を変える力となる」
「ネルソン……?」
「うむ。ネルソンが貴族の側に身を置くのか、富裕階級の側に立つのか? それによって敵味方が変わるぞ」
「旦那様は……平民を見捨てません! 100万の民を救うために魔術と戦って下さるでしょう」
「僕もそう信じたい。魔術界と敵対した僕を拾ってくれた男だ。だが、私情は捨てねばならん」
自らに言い聞かせるように、ドイルはそう語った。
「オレは裏方にならついてもいい。身を守ることぐらいはできるのでな」
「それはありがたい話だ」
「だが、いずれ武力は必要になるぞ。最後は武力衝突で雌雄を決することになる」
「この国に内戦が起きるのか……」
「血は流れるだろう。無辜の民が血を流すのか、既得権益にしがみつく権力者が血を流すかだ」
「腹をくくれということか」
「武力の面で味方にすべきは、下級士族……この国で言えば騎士階級から下の軍人だな」
「アランやネロのような、か」
「ルネッサンスは1日ではならん。1人の天才がなす業でもない。もっとも大切なのは教育だ。種をまくことだ。下級軍人と平民を教育しろ。知識こそが最大の武器なのだ」
ヨシズミの言葉に、ドイルは大きく目を見開いた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第150話 それは宇宙開発によって発見された。」
「そうか。では、魔法教育では先ず初めに何を教えるんだ?」
「先ずはイドを認識するところから始める」
「それはどうやる?」
「装置を使う」
「装置だと?」
「600年の科学が創り出したからくりのことだ。我々はそれを『魔視鏡』と呼んでいた」
……
◆お楽しみに。
「わかっているだろう? それが『魔術』だ」
「それは貴族が魔術の利益を独占するからだろう?」
お前はまだそこにいるのか? ヨシズミの目に憐れみを見出し、ドイルは震えた。
「そんなら魔術がねかッたとしても同じことでねェか」
貴族が科学進歩の利益を独占したら、社会は発展しないのか?
「個人が社会を止めることはできねェの。少なくとも長期的にはナ」
なぜなら人は死ぬものであるから。
「ならばこの世界を止めているのは……」
「魔術という『体系』そのものだ」
「人々の欲求を絶妙に満たし、技術開発や分業化を不要とさせる。魔力保有者は少数に限られ、社会全体の生産性に蓋をする。人から人へ伝承することができない。魔術師の再生産は世代交代に頼るしかなく、最低でも15年の期間を要する」
「魔術という体系こそ、この世界に設けられた袋小路なのだ」
「うぷっ、う、うぼっ……」
顔面蒼白となり立ち上がったドイルは、急いで窓を開け、体を乗り出して……吐いた。
急いで駆け寄ったステファノはドイルの背中をさすり、心配そうに声を掛けた。
「先生、大丈夫ですか?」
「す、すまん。はあ、はあ……」
胃が落ちつくのを待ってからドイルは窓際を離れ、ハンカチで口元をぬぐった。
ソファーに戻ると、ステファノが差しだすグラスの水をゆっくりと飲み下す。
「失礼した。見苦しいところを見せて申し訳ない」
「無理もねェ。まだ、続けるかネ?」
「もちろんだ。君の意見が知りたい。600年前、この世界に魔術という呪いを掛けたのは誰だと思うね?」
ヨシズミはテーブルに目を伏せた。
「オレは歴史の勉強もしてねェし、この国の今がどうなってンのかもよく知らねぇ。ただはっきりしてンのは、『聖人』って人が表に立って魔術を世に広めたってことだけダ」
「聖スノーデン」
ドイルがぎりっと奥歯を噛みしめた。
「聖スノーデンが魔術を体系化し、聖教会をその管理者に置いた」
「だったら、まず聖教会ってもンを疑わねばなンねエな」
「聖スノーデンは現王家の祖でもある」
「どうだッペな? 王家は今も魔術のお守りをしてンのか……」
「聖スノーデンが作ったものがもう1つある」
「それが魔術に関係サしてるッて?」
「王立アカデミーだ」
ヨシズミはテーブルから眼を上げた。
「魔術と科学を手元に置いて監視するためには、良い仕掛けだと思わないかい?」
「ステファノはそこで勉強すんでねェノ?」
「はい。来月面接を受けます」
「それは……危なくねェッペか?」
「えっ?」
「ステファノが魔法を使うってことがばれたら、裏を探られるんでねェか?」
「魔術を使ってごまかすことはできないのか?」
「魔術に見えるように魔法を使うことはできる」
ドイルとヨシズミの会話はステファノに関することでありながら、当の本人を置き去りにして進んでいた。
「先生、師匠、在学中は魔法を使わないようにしますよ。それなら疑われることはないでしょう?」
ヨシズミはじろりと弟子を見た。
「おめェはそそっかしくて当てになンねェからナ」
「目の前に病人でもいたら、無理をしそうだ。えっ?」
ドイルがそう言うと、ステファノだけでなく、なぜかヨシズミまでが目をそらせた。
「そういうことはアレだ。ぜ、全部先生様やらお医者様やらに任せばいいことだッペ?」
「そ、そうですよ。オレが手を出す必要はありませんよね?」
どうもそぶりが怪しいが、言っていることは正しい。ドイルは深く追求しないことにした。
「とにかく『魔術で再現できない魔法』の行使は禁止。そういうことでいいな、ステファノ?」
「はい。もちろん大丈夫です」
今度はヨシズミがドイルに聞かねばならないことがあった。
「それでおめェさんはどうする気だ?」
「どうとは?」
「決まってるでねェか? この国の未来だ」
袋小路に捕らわれたこの国を、そこから解放して科学の進歩を促すつもりなのか?
「僕は科学者だ。科学とは常に進歩し続ける体系であるべきだと信じている」
「なら、魔術サぶっ壊す覚悟があンだナ?」
「やる!」
ドイルはその顔に決意をみなぎらせた。
「たとえ王家を敵に回そうとも僕が引くことはない」
「相手が神であってもか?」
「そうだ」
「そうか」
ヨシズミは姿勢を改めた。
「それなら2つやるべきことがある」
「1つは身内と縁を切れ。事破れた時に、あんたの身内が罪に問われる恐れがある」
「もう1つ。ギルモア家とネルソン商会がどう動くかを見極めろ。敵に回るようなら、こちらも縁を切る必要がある」
「魔術が国の発展を止めていると知ったら、ギルモア家とて魔術廃止の味方をするはず……」
「スノーデン王家と敵対しても、か?」
「ぐっ」
「ギルモアは『国』すなわち『民』の味方をするのか、『王家』の味方をするのか、立場を見極めろ」
「……わかった。僕の研究成果という形を取って魔術の問題点をネルソンに伝えてみる。それを見て彼らが研究を指示するのか、止めようとするのかで去就を考えよう」
「くれぐれも慎重にな。オレとステファノの名前は出さないでくれ」
「師匠!」
「ステファノ、ヨシズミの言うことが正しい。これは為政者と魔術師協会、そして科学者の間の問題だ」
「先生……」
ステファノは2人の師の間で揺れ動いていた。
「それにしても敵が多いナ」
「貴族と魔術師協会を敵に回すのは今まで通りだが、聖教会と事によれば王家まで敵になるか?」
「おめェさんに味方する奴はいねェのケ?」
「学者の中に、それだけ気骨のある奴がいたかどうか……」
人と交わらずに生きて来たドイルの弱みであった。信じられる仲間が彼にはいない。
「1人で世界を変えることはできねェド」
「わかっている。これからは味方を作らなければならないと……」
「冷てェようだが、オレとステファノは数に入れねェでくれ」
「師匠!」
「わかってる」
ステファノは不満の色を示したが、ドイルが割って入った。
「ステファノ。これは社会の根幹に関する戦いだ。容易に殺し合いに発展するだろう。君を血なまぐさい殺し合いに巻き込むつもりはない」
「俺にできることはないんですか?」
「知識を提供することはできる。オレの世界のものを含めてな。だが、そこまでだ。それ以上は命に関わる」
「ああ。それで十分だ。正しい魔法の知識は革命の武器になってくれるだろう」
「革命か……。オレはもっといい言葉を知っている」
ヨシズミの口角がピクリと上がった。
「オレの世界ではそれを『再生』と言う」
「ルネッサンス……」
「社会をつなぎとめるくびきからの解放を、人々はそう呼んだんだ」
「君たちはそれを成し遂げたんだな?」
ドイルが目を輝かせた。
「そうだ。ルネッサンスの担い手は富裕階級だ。権力に対する財力が時代を変える力となる」
「ネルソン……?」
「うむ。ネルソンが貴族の側に身を置くのか、富裕階級の側に立つのか? それによって敵味方が変わるぞ」
「旦那様は……平民を見捨てません! 100万の民を救うために魔術と戦って下さるでしょう」
「僕もそう信じたい。魔術界と敵対した僕を拾ってくれた男だ。だが、私情は捨てねばならん」
自らに言い聞かせるように、ドイルはそう語った。
「オレは裏方にならついてもいい。身を守ることぐらいはできるのでな」
「それはありがたい話だ」
「だが、いずれ武力は必要になるぞ。最後は武力衝突で雌雄を決することになる」
「この国に内戦が起きるのか……」
「血は流れるだろう。無辜の民が血を流すのか、既得権益にしがみつく権力者が血を流すかだ」
「腹をくくれということか」
「武力の面で味方にすべきは、下級士族……この国で言えば騎士階級から下の軍人だな」
「アランやネロのような、か」
「ルネッサンスは1日ではならん。1人の天才がなす業でもない。もっとも大切なのは教育だ。種をまくことだ。下級軍人と平民を教育しろ。知識こそが最大の武器なのだ」
ヨシズミの言葉に、ドイルは大きく目を見開いた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第150話 それは宇宙開発によって発見された。」
「そうか。では、魔法教育では先ず初めに何を教えるんだ?」
「先ずはイドを認識するところから始める」
「それはどうやる?」
「装置を使う」
「装置だと?」
「600年の科学が創り出したからくりのことだ。我々はそれを『魔視鏡』と呼んでいた」
……
◆お楽しみに。
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