飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

文字の大きさ
218 / 694
第4章 魔術学園奮闘編

第218話 神の認識は初代法王聖スノーデンが聖教会を開いた時に始まりました。

しおりを挟む
 土曜日は午前中に2つの講座を取っていた。
 2限めは「神学入門」である。

 実はステファノは、この学科を一番気にしていた。
 何も知らないからである。

 知らない以上、信仰心もない。それは神に対する「不敬」と言われないだろうか。

 神に触れる機会のない庶民でありながら、ステファノがこの講座に登録したのには理由がある。
 近い将来「神を知っておく必要」が生まれるのではないかと考えたからだ。

「神のごとき者」。

 それがこの世界の法則を歪ませ、文明を停滞させているとすれば、いずれネルソンやドイルはそれ・・と向き合うことになる。
 それ・・は神そのものなのか、それとも神に敵対する何かなのか?

「神」とは何かを知ることが、「神のごとき者」を知ることに繋がるのではないかと、ステファノは考えた。

(俺にわかるものであるならば、だけど)

 何とたったの3人しか生徒がいない教室に座りながら、ステファノは考えていた。

「私が神学入門を担当するマイスナーです」

 神学というので、神父というのだろうか神職の人が担当するのかと思っていたら、ごく普通の服装をした男性が講師であった。年齢は40歳前後であろうか。

「ちなみに私は宗教者ではありません。神を信じてはおりますけれどね。それを広める立場ではないということです」

 マイスナー先生はそう言って優し気に微笑んだ。

「しからば私はこの講座で何を教えるのか? それは1つの真実ではありません。『神』が存在することに疑いはありませんが、『神』とは一体何なのか? その問いにいろんな賢人たちが答えようとしてきました。中にはうまく答えられていないものもありますが、この講座ではそれらの『答え』を皆さんに知ってもらいます」

 マイスナー先生は自分の胸に手を置いた。

「私には私の信じる神がおります。皆さんにそれを押しつけるつもりはありません。この講座では様々な考え方に触れることで、皆さんがそれぞれの『答え』を見つけるお手伝いをしたいと思っております」

「神はいないという答えを得た人に対しても、私は何ら差別をいたしません。それもその人にとっての『神』の在り方であろうと考えるからです。私の信じる『神』を誰も否定できないように、皆さんの信じる『神』を私が否定することはできません」

 3人の生徒、その一人一人の前に立ってマイスナーは語りかけた。

 自分の言葉が伝わったことに満足したのであろう。マイスナーは教壇に戻ると椅子に腰かけた。

「さて、皆さん方3名は魔術学科の1年生ですね。ご想像の通り、『神』の存在は魔術師にとって極めて現実的な意味を持っています」

「それは魔力の存在であり、魔術の使用ですね。魔術師でなくとも、ギフト持ちであればやはり『神』と向き合う日がいつかやって来るでしょう」

 ギフトも魔力も、教会で与えられる。神の恩恵という形で。
 ギフト持ちも神について学ぶべき立場にあるように、ステファノには思えた。

(なぜ、この講座には一般学科の生徒がいないのだろう?)

「この国での神学は聖教会抜きには存在しません。神の認識は初代法王聖スノーデンが聖教会を開いた時に始まりました」

(それにしても初代法王にして初代国王、聖スノーデンて多才過ぎじゃないのか? 超絶魔術師にして、神と対話できるギフト持ち、それに恐らく政治力もあったのだろう)

 政治力がなければ王室や聖教会を600年続く盤石のシステムにすることはできなかったろう。

「当初神の声を聞くことができるのは聖スノーデンただ1人だったそうです。その後法王の座を譲る際に後継者に贈られた聖しゃくが、神の声を聞く道具とされています」

(うん? それは「魔道具」じゃないのか? そしておそらくは魔力を必要としないタイプの)

「先生、質問しても良いでしょうか?」
「ああ、君はステファノ君だね。4人しかいない教室だからね。良いとも、どんな質問だね?」

「聖スノーデンが後継者に授けた聖しゃくとは、魔道具ではありませんか?」
「ふむ。魔術師らしい質問だね。聖笏はいわば秘物であって一般には公開されていない。したがって学者が手を触れることもできません。本当のところはわからないのです。但し、血統的にギフトを持たない貴族からも法王が出ているところを見ると、聖笏とは魔道具である可能性が高いというのが通説になっています」

「仮に魔道具だとすると、それは聖スノーデンが作ったということになりますか?」
「それも仮説の一部ですね。可能性はあると思います」
「そうすると魔力を要しない魔道具はアーティファクトだけでなく、現代でも製作可能だということになりませんか?」

「ふふ」と楽しそうにマイスナーは笑った。

「仮説の上に仮説を重ねることになりますが、可能性としてはあり得ますね。面白いと思いますよ」

 ことによったら「不敬だ」と叱られることを覚悟していたが、マイスナーは純粋に質疑を楽しんでいるようだった。
 
「さて、聖スノーデンは火薬を戦場から駆逐しました。それだけでなく、やがて成立したスノーデン王国では火薬を禁制品として厳しく取り締まったのです」

 マイスナーによれば取り締まりは苛烈であり、火薬を製造、貯蔵、販売、使用した者は死罪に処されたと言う。取り締まりは火薬の使用目的を問わなかった。

 たとえ、「平和利用」を目的としていても一切の例外を認めなかったのだ。

「なぜ、そこまで厳しく、徹底的に火薬を弾圧したのでしょうね? あなた、ローデシア君ですか? どう思います?」
「えっ? あの……」

 ローデシアと呼ばれた女生徒は、答えが思い浮かばなかったのだろう。顔を真っ赤にしてうろたえた。

「慌てなくても結構ですよ。これは試験でもないし、評価のためのドリルでもありませんからね? あくまでも会話を進めるための思考実験です。思いついたことを自由に言って構いませんよ」

「君はどうですか、サイト君?」
「危険、だからじゃありませんか?」

 サイトと呼ばれた男子生徒が、おずおずと答えた。

「はい。殺人兵器ですからね。危険であることに間違いはありませんね。その意味では、剣や、槍、弓矢も危険ということになります」
「で、ですが、火薬は一度に大量の人間を殺すことができたのでは?」

 先程の失態を取り戻そうと考えたのか。ローデシアが自分の意見を述べた。

(少人数の教室だと、1人ずつ意見を言いやすいな。これはこれで良い点があるかも)

 ステファノはこのやり取りがどういう方向に向かうのか、興味を持って聞いていた。

「一度に複数の人間を殺傷することができたのは事実です。ですが、『大量の』とまで言えるかどうか。学者の研究によると、威力を上げるためには大量の火薬を必要としたそうです。それを運搬し、埋設する手間暇を掛けたとして、そこに運良く大量の敵が現れてくれるとは限りません」

「戦国時代最末期には鉄の筒に鉛の玉を籠め、火薬の爆発力で飛ばす『鉄砲』という武器が開発されたそうです。これは遠距離攻撃に類まれな威力を発揮しましたが、それにしても一度に倒せるのは1人の敵に過ぎません。大量の敵を倒すためには、大量の兵士に大量の鉄砲を使わせる必要がありました」

(だとすれば弓と大きくは違わないか? 差が出るとすると、威力とか、射程距離だろうか)

「殺人兵器としての性能は、圧倒的に魔術の方が上でした。にもかかわらず、スノーデン王国において魔術が取り締まりの対象となったことは一度もありません」

 アカデミー構内での使用禁止など、「安全上のルール」が設けられることはあった。しかし、魔術そのものが禁止の対象になったことはない。

「誤解を招かぬように言いますと、『魔術を使用した犯罪』はもちろん厳しく取り締まられました。しかし、それは『刃物を用いた犯罪』と同じ取り扱いであって、魔術そのものを取り締まるものではありません」

 聖スノーデンは明らかに魔術を優遇し、火薬を敵視していた。それは一体なぜなのか?

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第219話 聖教会によれば『神』は2つの恩寵を人間に与えました。『ギフト』と『魔力』です。」

「ごくまれにギフトと魔力の両方に恵まれる人がいますが、それは例外です。通常、ギフト持ちに魔力は発現せず、魔力持ちはギフトを持ちません」

 ドリー、ディオールは数少ない例外であった。王立アカデミーであればこそ、それだけの人材を集められたのである。

「それは『神』がお作りになった秩序であると言われています。だとしたら、それはなぜなのか? なぜ、ギフトと魔力は分かたれたのか? そして、『両持ち』と呼ばれる人たちは、なぜ『ギフト』と『魔力』の両方を恵まれているのか?」

「『神』が見落としをされたとは思えません。分けるにはその理由があり、『両持ち』を許すにもその理由があるのではないでしょうか?」
  
 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。 まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。 しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。 一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。 突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。 しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。 魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。 英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。

処理中です...