気まぐれで世界最強の大賢者は弟子の娘と旅をする。

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第二章

2話「ヒルデに入国と昼食」

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 武装国家ヒルデは空かの入国を原則として禁止していて、空から入国すると即座に犯罪者認定を受けて投獄されてしまうのだ。ゆえに関所から順番に入るしか手はなく、ジェラードとアナスタシアはやっと巡ってきた順番に足を進める。

「そこで止まれ!」
「今から入国検査を行う! 今持っている荷物を全て見せろッ!」

 ジェラード達が騎士の格好をした恐らく入国警備をしている者達に近づくと、突如としてその二人の騎士が手に持っている槍を交差させて彼らの行動を無理やり止めてきた。

「ああ、分かっている。さっさと検査してヒルデに入れてくれ」
「さあどうぞ! この私は美しく可憐な美少女なだけで何も怪しい物は持っていませんよ!」

 ジェラードとアナスタシアはこうなる事を前の列に並んでいた冒険者達を見て既に把握済みであり、手早く検査を終わらせる為にも二人はローブを広げて騎士達の前に悠々と荷物を晒す。

「ふむ、話の分かる者達で助かるな。さっきまでは文句ばかりを言ってくる、ならず者達ばかりで困っていたのだ」

 そう言ってジェラードの左に立っている警備の騎士が愚痴を零すと、その間に右に立っていた騎士がアナスタシアへと近づいて荷物検査を行い始めていた。
 すると彼女の荷物検査をしていた騎士が突如として目を丸くさせると、

「お、おい!! この女は魔女だぞ!」

 と言いながら人差し指を向けなが後退りしていた。だが何を思ったのか、その騎士は数歩後ろに下がったあと両手で槍を構え始めると何故か目付きを尖らせていた。

「なんだと? ……ああ、通りでその陰気な格好。という事はそこの妙に偉そうな態度をしている男も魔法使いって訳か。チッ、魔術師共が一体この国に何の用があるってんだ?」

 隣の騎士の様子を見てかもう一人の警備騎士がアナスタシアの方へと視線を向けると、険しい表情を浮かべて舌打ちをしながら先程の態度とは一転して大柄な態度へとなっていた。
 
「まあ色々とあるのだよ。それよりも検査は終わったのか? 終わったのなら俺達はもう行くぞ」

 ジェラードが態度を変えてきた騎士に顔を向けて肩を竦めながら言う。

「ふんっ勝手にしろ。だがくれぐれも街の中では気をつける事だな。それも魔術師なら尚の事」

 その騎士は彼と顔を合わせたくないのか一瞬だけ顔を逸らすと最後の方は含みのある笑みを見せながら忠告らしき言葉を口にしていた。
 
「ああ、無論理解しているとも。だがお前はあれだな……。その態度とは裏腹に意外と優しいのだな」

 忠告らしき言葉をくれた騎士は意外にも優しい人物なのかも知れないと思うと、ジェラードは頬を上げて慣れない笑みを作って返した。けれどその騎士は何故か彼の笑みを目の当たりにすると、口を一の字にして槍を持つ手に力が入っているようであった。

「さあ、行くぞアナスタシア。そこの騎士と戯れていても腹は満たされんぞ」

 警備騎士達が横に退いてヒルデの街へと続く道を開けると、ジェラードは隣でもう一人の騎士に拳を見せながらにじり寄っていく彼女へと声を掛けて街の中へと足を進めた。

 恐らくだがアナスタシアは自らの容姿に誇りを持っていて、それを騎士に指を差されて大声で叫ばれた挙句に露骨に避けられた事で何かしら思う事があったのだろうと、彼は短くも状況を推測して呆れた。

「あ、ちょっと! 待って下さいよ先生!」

 彼の背後からアナスタシアが慌てて駆け寄って来ているのか段々と足音が近づいてくる。

「もぉ、先にずかずかと歩いて行かないで下さいよ! 私は先生と違ってこの国は初めて来たんですからね! まったく……迷ったらどうするんですか」

 彼女がジェラードに追い付くと隣を歩きながら頬を膨らませて小言を言い放ってくる。

「どうもしないだろ。迷う方が悪いのだからな」

 それに対してはっきりとした口調で彼は言い返す。

 何故なら迷った当の本人が悪いのであり、迷いたくなければしっかりと自分に付いてくればいいだけの話であるとジェラードは思っているからだ。

「はぁ……やめましょう。これ以上の会話は不毛な気がします」

 アナスタシアが顔を逸らして会話を無理やり終わらせてくる。

「同感だな。それよりもどうだ? このヒルデの街の様子は?」

 ジェラードもそれに賛同して話を一旦区切ると矢継ぎ早に彼女にヒルデの様子の感想を訊ねた。

「ん~、そうですねぇ。こう……何と言いますか王都と違って皆さん闘気のようなものを全身に漲らせているように伺えますね。あと行き交う人達の表情も強面な方が多い気がします!」

 手を自身のでこに当てながら周囲に顔を向けると、彼女はそう言いながら擦れ違う人達の顔や体型を凝視していた。

 けれどアナスタシアが言っていることは意外と的を得ていて、ヒルデはとある事情で魔術師が居ない代わりに剣術や武術が扱える者が大半であり、多くの者達は闘気を練り上げることで魔法のような技が扱えて強面の持ち主が多い傾向にあるのだ。

「うむ、お前にしては中々に良いところを突いたな」

 彼女の洞察力を一応素直に褒めるジェラードであるが、それは彼としては気がついて欲しい所の全体の二割ほどである。

「ふふんっ、そうでしょう! 私のこの魔眼のような艶麗な瞳をもってすれば見抜けない事はないのです!」

 アナスタシアは褒められた事で調子に乗っているのか、両手を腰に添えながら自身の髪色と同じ色の瞳を主張するかのように顔を近づけてきた。

「ほう、魔眼か……。まあ何でも良いが、あまり魔法に関する事は口にしない方がいいぞ」

 彼女が顔を近づけてきた際にその顔が僅かながらも母親のシャロンの若き頃の面影と重なって、ジェラードは心の何処かで懐かしさのようなものを感じつつアナスタシアに注意を言い放った。

「むぅー、ノリが悪いですね先生は。そこはもっと『おお、なんて綺麗な瞳だ! 是非舐めてみたい!』ぐらい言わないと駄目ですよ」
「お前は俺をなんだと思っているんだ。そんな趣味を持っているのはアイツぐら……」

 急にアナスタシアが彼の声真似をしながら身振り手振りを使って演劇のような事を始めると、ジェラードはそれを見て呆れた声色が出て行くが途中で言葉を止めた。

「ん、どうかしたんですか?」

 突然止まった言葉に彼女は不思議そうな表情を浮かべている様子。

「いや、何でもない。忘れてくれ」

 彼は淡白とした口調で返すとアナスタシアから視線を外した。それはまだ幼い彼女にとって精神教育上よろしくなく、旅をしていればいずれ会う事にもなるだろうと思い黙ったのだ。

「そ、そうですか。……あ、そうだ先生! あのお店で昼食を取りませんか? なんか今なら限定で”サラマンダー”の”ゆで卵が二十個”ほどサービスで付いてくるようですよ」

 ジェラードの急な冷たい対応にアナスタシアは若干戸惑っていたようだが運良く店を見つけると、そんな事はどうでもよくなったのか彼のローブを引っ張りながら特定の言葉を強調していた。

「そんなには要らんだろ……。だが腹が減っているのもまた事実。よし、その店に入るぞ」

 空腹を確かめるようにして彼は自身の腹を摩ると、サラマンダーのゆで卵好評につき限定増量中と書かれた旗が掲げられている店へと向かって二人は歩き出した。

 そして二人がそのまま店の中へと足を踏み入れると、店内の広さはそこそこと言った感じであった。しかし店の中へと入った途端にジェラードの鼻腔には肉の焼ける香ばしい匂いが一気に突き抜けていき、厨房らしき場所からは肉が鉄板の上で踊っているのか弾けるような音が聞こえてくる。

「うむ、良いかも知れんな」

 この店は意外と当たりなのかも知れないとジェラードは思うと何気なく周囲を見渡した。
 すると時間帯は既に昼頃を過ぎている事も影響しているのか、席は結構空いているようで食事をしている客は数人の冒険者パーティだけであった。

「へい、らっしゃい! ご注文はお決まりでしょうか? オススメはヒルデ産名物ピギーのステーキにマンドラゴラ添えとなっております!」

 ジェラード達が店へと入って周りの様子を伺っていると何かを察したのか店員らしき男が近づいてくると、それは最早恒例の売り文句なのだろかと思えるほどに早口でオススメのメニューを伝えてきた。

 ――そしてジェラードとアナスタシアは店に入ったばかりでメニュー表に目を通してなく、他に何があるのかも分からなかったが店内に充満する肉の焼ける匂いが全ての答えであった。
 ほどなくして二人は互いに短く顔を合わせて頷くと、

「それで頼む!」
「それでお願いします!」

 店員に顔を近づけながら同じ言葉を同時に語気を強めながら言い放った。
 けれどその際に店員の男性が二人の勢いに若干仰け反った状態で苦笑いしていたが、それは今のジェラードにとって毛ほども気になることではなかった。
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