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加賀邸にて おまけ ※
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〈加賀編〉
「加賀さん、待って」
上に乗ったまま、キスを続ける俺の肩を、倉知が軽く押した。
「何?」
「や、やっぱり、無理です。いつハルさんが戻ってくるかわからないし」
「大丈夫だよ、部屋の鍵かけたし」
「そういう問題じゃなくて」
煮え切らない。倉知の硬くなった股間を脚で撫でながら、黙って上から見下ろした。体をびくつかせて反応するのが可愛い。調子に乗ってぐりぐりしていると、「駄目です」と涙目で訴えた。
「コンドームも、ないじゃないですか」
俺から目を逸らして、恥ずかしそうに言う倉知の顔の前に、コンドームを突きつけて見せた。
「あるよ」
「えっ、なんで」
「こんなこともあろうかと、ポケットにそっと忍ばせてあったんだよ」
倉知がなんとも言えない顔で俺を見てくる。呆れ半分、期待半分。
「時間ないから時短プレイでいくか」
倉知の上で、ベルトを外してズボンのファスナーを下ろした。何か言いたげにじっと俺の手元を見ている。
「何?」
「あの、もしかして、俺、また……、抱かれる側ですか?」
そんなつもりはなかったが、恥ずかしそうに訊かれると、俄然やる気がみなぎった。
「俺はどっちでもいいよ。何、挿れられたい?」
「そっ、そういうわけじゃ」
「よし、じゃあジャンケンするか。はい、最初はグー」
倉知が「えっ、えっ」と慌ててグーを出してくる。俺がチョキで倉知がグー。
「あー、負けた。倉知君の勝ち」
「えっと……、勝ったほうが挿れるほうですよね?」
逡巡しながら確認する。
「その質問可愛いな」
にやける俺を見て、しまった、という顔をする。挿れたい一心なら、勝ったらどっちをするのか、訊くまでもない。
「選んでいいよ、好きなほう」
「挿れます」
唇を尖らせて、即答する。俺の腰にタックルすると、そのまま後ろに押し倒された。
「挿れて欲しいなら、いつでも言ってよ?」
「ちょっと黙っててください」
照れ隠しなのか、いつ誰が来るかわからないからか、倉知は性急だった。急いで俺の服をひんむいて、愛撫もそこそこに突っ込んできた。
キスをしながら体を揺すり、俺のペニスを手のひらに擦りつけて、十秒ほどで勝手に果てた。
治りかけてきた早漏が簡単に再発するのは、若いからなのだろうか。早かったことを悔やんでいるのか、なかなか出ていかない。俺から顔を背けて、呼吸を整えてから言った。
「すいません」
「時短プレイにもほどがあるな」
「だって、なんか、落ち着かなくて」
ようやく俺の中から出ていくと、ゴムを外して口を縛りながら「あの」と言いにくそうに口を開く。
「一個しか持ってこなかったんですか?」
「うん、だって、ホントにすると思わなかったし」
「う、すいません」
謝ってばかりだ。上半身を起こして、倉知の頭を撫でる。
「いいよ、口でして」
何故か嬉しそうに、颯爽と俺の股間に顔をうずめた。上気した頬で、うっとりと、夢見るような表情で、しゃぶっている。
「倉知君って、フェラ好きだよね」
舌を這わせながら俺を上目遣いで見る。
「好きなのは加賀さんのだから、ですよ」
「うん、わかってる。美味しい?」
あまりに美味しそうに口に含むので、ついそう訊いていた。こんなものが美味しいわけがないのに、倉知は笑いながら「はい」と素直に答えた。
それから無言になり、唾液の音だけが響いていた。まとわりつくような粘膜の感覚。目眩がした。
「イキそう」
「加賀さん」
倉知がペニスから口を離して、もぞもぞと身じろいだ。
「あの、俺もまた」
倉知が一回で終わるはずがない。恥ずかしそうに、勃起した股間を持てあましている。何も言わずに倉知の体を押した。重なり合い、お互いのペニスを擦り合わせた。倉知の手に密着したペニスを握らせて、腰を動かす。
「う、あ、イク……っ」
倉知が俺の下で喘ぐ。それを見ながら、俺も絶頂を迎えた。
しばらく、折り重なった状態で目を閉じていると、突然睡魔が襲ってきた。
「やべえ、寝る」
慌てて体を起こしたときには遅かった。倉知が寝息を立てて、微笑みながら眠っている。
「倉知君」
これは起きないパターンかもしれない。
「ご飯だよー」
耳元で叫んでみても、効果はない。精液で汚れた股間と手のひらを綺麗にして、隣に寝転んだ。このベッドに倉知が寝ているのが変な感じだ。
大学に進学するまで、この部屋で過ごしてきた。
家を出るとき、もう戻ることはないから部屋の物は全部処分して構わない、と言ったのに、父はかたくなに拒んだ。部屋の数は余っているし、二人暮らしだからここを空けたところで使い道はない。このままにしておくから、いつでも帰ってこい、とむしろそうなることを望んでいるようだった。
父は厳しかったが、溺愛されている自覚があった。そばにいて欲しいと、口では言わなかったが、気持ちは理解していた。それでもこの家を出たのは、父の再婚がきっかけ、というのもあるが、自立したかったからだ。
早く大人になって一人で生きていきたい、と思っていた。
俺は、あの頃思い描いていたような大人になれたのだろうか。よくわからない。
わからないが、一人で生きていくのは無理だということだけはわかる。
倉知を見る。寝顔が、可愛い。
これから先、俺はこいつと二人で、生きていく。
〈おわり〉
「加賀さん、待って」
上に乗ったまま、キスを続ける俺の肩を、倉知が軽く押した。
「何?」
「や、やっぱり、無理です。いつハルさんが戻ってくるかわからないし」
「大丈夫だよ、部屋の鍵かけたし」
「そういう問題じゃなくて」
煮え切らない。倉知の硬くなった股間を脚で撫でながら、黙って上から見下ろした。体をびくつかせて反応するのが可愛い。調子に乗ってぐりぐりしていると、「駄目です」と涙目で訴えた。
「コンドームも、ないじゃないですか」
俺から目を逸らして、恥ずかしそうに言う倉知の顔の前に、コンドームを突きつけて見せた。
「あるよ」
「えっ、なんで」
「こんなこともあろうかと、ポケットにそっと忍ばせてあったんだよ」
倉知がなんとも言えない顔で俺を見てくる。呆れ半分、期待半分。
「時間ないから時短プレイでいくか」
倉知の上で、ベルトを外してズボンのファスナーを下ろした。何か言いたげにじっと俺の手元を見ている。
「何?」
「あの、もしかして、俺、また……、抱かれる側ですか?」
そんなつもりはなかったが、恥ずかしそうに訊かれると、俄然やる気がみなぎった。
「俺はどっちでもいいよ。何、挿れられたい?」
「そっ、そういうわけじゃ」
「よし、じゃあジャンケンするか。はい、最初はグー」
倉知が「えっ、えっ」と慌ててグーを出してくる。俺がチョキで倉知がグー。
「あー、負けた。倉知君の勝ち」
「えっと……、勝ったほうが挿れるほうですよね?」
逡巡しながら確認する。
「その質問可愛いな」
にやける俺を見て、しまった、という顔をする。挿れたい一心なら、勝ったらどっちをするのか、訊くまでもない。
「選んでいいよ、好きなほう」
「挿れます」
唇を尖らせて、即答する。俺の腰にタックルすると、そのまま後ろに押し倒された。
「挿れて欲しいなら、いつでも言ってよ?」
「ちょっと黙っててください」
照れ隠しなのか、いつ誰が来るかわからないからか、倉知は性急だった。急いで俺の服をひんむいて、愛撫もそこそこに突っ込んできた。
キスをしながら体を揺すり、俺のペニスを手のひらに擦りつけて、十秒ほどで勝手に果てた。
治りかけてきた早漏が簡単に再発するのは、若いからなのだろうか。早かったことを悔やんでいるのか、なかなか出ていかない。俺から顔を背けて、呼吸を整えてから言った。
「すいません」
「時短プレイにもほどがあるな」
「だって、なんか、落ち着かなくて」
ようやく俺の中から出ていくと、ゴムを外して口を縛りながら「あの」と言いにくそうに口を開く。
「一個しか持ってこなかったんですか?」
「うん、だって、ホントにすると思わなかったし」
「う、すいません」
謝ってばかりだ。上半身を起こして、倉知の頭を撫でる。
「いいよ、口でして」
何故か嬉しそうに、颯爽と俺の股間に顔をうずめた。上気した頬で、うっとりと、夢見るような表情で、しゃぶっている。
「倉知君って、フェラ好きだよね」
舌を這わせながら俺を上目遣いで見る。
「好きなのは加賀さんのだから、ですよ」
「うん、わかってる。美味しい?」
あまりに美味しそうに口に含むので、ついそう訊いていた。こんなものが美味しいわけがないのに、倉知は笑いながら「はい」と素直に答えた。
それから無言になり、唾液の音だけが響いていた。まとわりつくような粘膜の感覚。目眩がした。
「イキそう」
「加賀さん」
倉知がペニスから口を離して、もぞもぞと身じろいだ。
「あの、俺もまた」
倉知が一回で終わるはずがない。恥ずかしそうに、勃起した股間を持てあましている。何も言わずに倉知の体を押した。重なり合い、お互いのペニスを擦り合わせた。倉知の手に密着したペニスを握らせて、腰を動かす。
「う、あ、イク……っ」
倉知が俺の下で喘ぐ。それを見ながら、俺も絶頂を迎えた。
しばらく、折り重なった状態で目を閉じていると、突然睡魔が襲ってきた。
「やべえ、寝る」
慌てて体を起こしたときには遅かった。倉知が寝息を立てて、微笑みながら眠っている。
「倉知君」
これは起きないパターンかもしれない。
「ご飯だよー」
耳元で叫んでみても、効果はない。精液で汚れた股間と手のひらを綺麗にして、隣に寝転んだ。このベッドに倉知が寝ているのが変な感じだ。
大学に進学するまで、この部屋で過ごしてきた。
家を出るとき、もう戻ることはないから部屋の物は全部処分して構わない、と言ったのに、父はかたくなに拒んだ。部屋の数は余っているし、二人暮らしだからここを空けたところで使い道はない。このままにしておくから、いつでも帰ってこい、とむしろそうなることを望んでいるようだった。
父は厳しかったが、溺愛されている自覚があった。そばにいて欲しいと、口では言わなかったが、気持ちは理解していた。それでもこの家を出たのは、父の再婚がきっかけ、というのもあるが、自立したかったからだ。
早く大人になって一人で生きていきたい、と思っていた。
俺は、あの頃思い描いていたような大人になれたのだろうか。よくわからない。
わからないが、一人で生きていくのは無理だということだけはわかる。
倉知を見る。寝顔が、可愛い。
これから先、俺はこいつと二人で、生きていく。
〈おわり〉
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