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イチャイチャin Hawaii ※
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〈倉知編〉
挙式を終え、チャペルを出た。
よく晴れた日だ。
透き通るハワイの海を背景に、二人でナイフを持って、ケーキ入刀。
お互いにケーキを食べさせるファーストバイトのあとは、砂浜に家族が並んで「乾杯」と声を揃える。
こういう、一般的な挙式を体験できるとは思わなかった。
嬉しくて、楽しくて、幸せで、ずっと笑っていた。
波打ち際を、手を繋いで歩く。
シャッター音が鳴る。
ハルさんが、カメラを構えてずっとついてきている。
アルバム作成のための写真撮影タイムだ。家族はひっそりと、遠巻きにこちらを見守っている。
海をバックに見つめ合う写真をこれでもかと撮ったあとで、ファインダーを覗いていたハルさんが、「よし、じゃあ次、お姫様だっこいってみようか」とニヤニヤした声で言った。
「出たー、くると思った」
加賀さんが、はい、と両手両足をまっすぐ伸ばして直立し、抱っこ待ちをする。
可愛い。
「失礼します」
タキシードの加賀さんを、丁寧に抱え上げた。俺の首に手を回した加賀さんが、顎のあたりに鼻をすり寄せてくる。
「くすぐったいです」
「ごめん、匂い嗅ぎたくなっちゃって」
至近距離に、加賀さんの顔がある。ほぼ無意識に、キスをする。キャー、と遠くで六花の悲鳴が聞こえた。
「こらこら」
加賀さんが笑って俺の頬を押す。
「いいよ、もう、なんでもしちゃって。二人、めちゃくちゃ画《え》になる。最高の被写体」
ハルさんは楽しそうだった。何度もフィルムを交換し、後半は砂まみれで汗だくになっていた。
写真撮影が終わると、チャペル併設のパーティ会場で食事会が始まった。
タキシードを脱ぐと、肩の力が抜けた。無事に終わった。心からホッとした。
ホッとすると同時に、内側から湧き出てくるものがあった。
それは、性欲だ。
急に、加賀さんをなんとかしたくてたまらなくなり、みんなが和やかに談笑しているというのに、俺はひたすら耐えていた。
キスがいけない。
中途半端なキスを、何度もするから。
もっと欲しくなる。
もっと深くて、甘くて、濃厚なキスが、したい。
加賀さんの横顔を見た。ステーキ肉を、口に運んでいる。ステーキになりたい。とさえ思う。その上品な口元を下心丸出しで見つめたが、加賀さんは気づかずに、正面に座った父の映画談議に付き合っている。
家族は大好きだし、みんなが楽しそうなのが嬉しい。
この時間がいかに尊くて大切か。
噛み締めたい。
父、母、二人の姉、光太郎さんにハルさん、ついでに大月君の顔を順番に見ているうちに、性欲はなりをひそめた。
消えたわけじゃない。すぐそこにうずくまっている気配を感じていた。隙を見て出てこようとするのを、押さえつける。
ようやく二人きりになれたのは、その日の夜。
もう我慢できなかった。
激しくしないし、声を出さないように、布団を被って静かにまぐわいましょうと懇願すると、加賀さんは「わかったよ」と笑っていた。
わかったよ、と言ったのに。
浴室は音が響く。欲情しないよう、順番にシャワーを浴びた。それがいけなかった。先に済ませた加賀さんが、眠ってしまったのだ。
絶望した。
ショックで気絶したのか、気づくと朝だった。
家族たちの声で目が覚め、玄関のドアの音で覚醒した。早朝から行動を開始するとは聞いていた。ベッドを下り、カーテンを開け、外を見た。タクシーが停まっている。みんなが乗り込んで、走り出すのを見届けると、ハッとした。
「加賀さん」
隣のベッドに加賀さんがいない。慌てて部屋を出て、階段を駆け下りた。
「おはよ」
爽やかな笑顔の加賀さんが、テーブルに二人分の朝食を並べていた。
「見てこれ、五月ちゃんが作った目玉焼き」
白身が縮んで小さくなっていて周辺を焦げが縁取っている。明らかに焼きすぎて、失敗している。
「これはちょっと……、なんかすいません。加賀さんの分だけでも作り直しますか?」
「いいよ。めっちゃ張り切って作ってくれたから。あ、このパン、お母さんの手作りだって。食べよっか」
「はい、食べましょう」
五脚ずつ向かい合って並んでいる長いテーブル。対面に座ると、なんだか遠い。
「いただきます」
手を合わせて、声を揃える。加賀さんが母の手作りロールパンをちぎりながら、思い出したように言った。
「昨日ごめんな。寝ちゃってた」
「仕方ないです、疲れましたもんね。いいんです。よくないけど」
「はは、よくないけど」
「みんな、出かけました?」
「うん」
「二人っきり?」
「うん」
加賀さんがバターを塗ったパンを口に放り込んで、俺を見る。目が合った。
「みんなと一緒もいいけど、二人っきり、嬉しいな」
「……はいもう、はい……、嬉しいです」
ニヤニヤしてしまうのを、パンをたくさん口に詰め込んで、ごまかした。
今日は一段と別荘が広く感じる。二人きりだからだと気づいて、落ち着かなくなった。
二人きり。
なんでもできる。
食べたら、まず、抱きしめよう。キスをしよう。いっぱい触って、ああしてこうして。
「俺らの今日の予定、ロコモコだよな」
加賀さんが言った。我に返り、口の中のものを飲み込んでからうなずいた。
「はい。ロコモコ食べて、海岸沿いとか街中ブラブラしましょう」
「昼前に出る?」
「ですね。年越しそばの準備もあるし、ゆっくりもしてられませんけど」
「午前中はだいぶ時間あるよな。イチャイチャする時間」
イチャイチャ、という単語が、股間に的中した。
「う……っ」
前屈みになる俺を、加賀さんが笑う。
「式のあと限界ぽかったのに、よく我慢してるよな」
「気づいてたんですか?」
「気づくよそりゃ。チラッチラッて音聞こえてたもん」
「ふふ、聞こえちゃいましたか」
「倉知君」
加賀さんが俺を呼ぶ。パンをもぐもぐしながら加賀さんを見る。
「はい?」
「好き」
キュン、と高鳴ったのは、胸ではなく、股間だった。
「か、がさん」
手からパンが零れ落ち、皿の上に転がった。もう駄目だ、もう、本当に、限界だ。
食事中だというのに、勃起してしまった。
でも大丈夫。
二人きりだから、心置きなく勃起できる。
「俺も、大好き。触りたい。触ってもいい?」
「いいよ。はい」
加賀さんが人差し指を伸ばしてくる。指先をちょんとくっつけ合い、笑う。
「早く食おう」
「はい」
高速で朝食を終え、食器をそのままに、立ち上がる。加賀さんが俺の股間に気づくと、逃げ出した。階段を駆け上る後姿を、追う。手首を捕まえ、部屋になだれ込み、抱き合って、キスをする。舌先が絡み合うと、情けない声が漏れた。体がびくついて、危うく精を放つところだった。
「イッた?」
「少し、漏れたかも」
「ははっ」
加賀さんが、可愛い顔で笑う。
急いでベッドの上に押し倒す。キスをしながら服を脱がせ、素肌に触れる。手のひらにぬくもりを感じた瞬間、泣きそうになる。
「倉知君、脱いで」
加賀さんが、俺の服をむしり取る。
裸で、密着する。
一旦、はあ、と二人で息をつく。お互いの体温と匂いを確かめてから、頬をすり寄せ、唇を合わせ、体中を撫でる。首、鎖骨、胸、腹、と順番にキスをして、すでに硬いペニスの先端を、舌でくすぐった。
「う……、はあっ、やばい、めっちゃ気持ちいい」
すごく、反応がいい。加賀さんも我慢していたのだなと思うと、愛しくて抱きしめずにいられなかった。腰にしがみつき、ペニスに頬ずりをすると、加賀さんの腹が痙攣したみたいに小刻みに揺れた。笑っている。
「何してんの?」
「大好きだなって思って」
「俺も大好き。もう挿れていいよ。さっき朝一でめっちゃほぐしたから」
「え」
「ほら、柔らかいだろ」
手を下腹部に導かれ、喉を鳴らした。指が、加賀さんの中に潜り込んでいく。きゅ、と締め付けられる感覚に、俺のペニスは硬度を増す。
加賀さんがあおむけのままで枕の下に手を差し入れて、コンドームの箱を引っ張り出した。すごい、準備万端だ。
「早く挿れて? 繋がりたい」
鼻息を荒くしながらコンドームを開封し、手早く装着し、突入する。
「あっ……」
「あっ!」
二人で恍惚の声を上げる。俺の声のほうが、ボリュームが大きかった。加賀さんが腕で顔を覆って、笑いを堪えている。
「すいません、声が」
「ふ……はは、うん、可愛い、好き」
ふう、と息を吐いてから、加賀さんが俺の顔を両手で挟んで、もう一度言った。
「好き」
カーッと顔が熱くなり、股間も同様に熱くなる。
「加賀さん……!」
太ももをつかんで、腰を打ちつけた。奥を突いて、小刻みに揺すって、しつこく「好き」と繰り返す。
「好き、加賀さん、大好き」
「んっ……、うん、あ、あっ、七世、もっと……」
しがみついてくる加賀さんの体を抱きしめて、激しく腰を振る。
ベッドのスプリングが、軋む。体が、弾む。
体を動かすたびに、声が出た。気持ちよかった。まるで俺が抱かれているみたいに、喘いでしまう。
「気持ちいい、加賀さん、どうしよう」
「可愛い」
加賀さんの手が、俺の後頭部を優しく撫でる。
いい子、七世、と甘く囁く声。
先に達したのは俺だった。
動きを止めて、荒い呼吸のまま、キスをする。
息をつき、腰を引いて加賀さんの中から出た。コンドームの先に精液が溜まっていた。むしり取る。口を縛って、ティッシュにくるみ、シーツに転がして、二つ目のコンドームを流れるように自身に着ける。
「窓」
加賀さんが言った。
「え?」
「窓開いてる」
カーテンが全開で、窓が開いている。
でも別に、どうということはない。
ここら一帯は別荘地だが、日本の都会とは全然違う。土地が広く、敷地が離れていて、室内の声が聞こえるとは考えにくい。ちょっと小高い場所に建っていて、眼前は海だし、誰かに見られる心配もない。
「閉めて」
「大丈夫ですよ」
「まあ、手遅れかもな。つうか、絶対お前の喘ぎ声のほうが」
「見てください」
加賀さんの科白に被せて、窓の外を指差した。
「素晴らしいオーシャンビュー……、そうだ」
「あー、無理、無理だって」
ベッドから降りて、素っ裸で窓際に立つと、加賀さんを手招いた。
「加賀さん、ちょっと、ここに立って、窓に手をついて。後ろから、したい」
「ほとんど青姦じゃねえか」
「だってこんなこと、日本じゃ絶対にできませんよ」
加賀さんが頭を掻いて、俺の股間を見ながら小さくため息をついた。
「それもそうだ」
ハワイの、朝早く。海を見ながら、後ろから、穿つ。
加賀さんは、声を殺していた。すごく、我慢している。その堪えた様がさらに俺の情欲を煽る。
揺するたび、加賀さんのうなじが赤く染まっていく。羞恥と快感に震える様子が可愛くて仕方がない。
「加賀さん、海、綺麗です。加賀さんのうなじも、綺麗」
噛みつくと、小さく声を上げた。
背中が、波打つ。
「イ……ク……ッ」
加賀さんの体がびく、と震え、窓についていた手がずり落ちた。全身が、脱力していく。繋がったまま、腹に手を添えてベッドに運び、うつ伏せの体をシーツに押しつけた。
「……待って、拭かないと」
「精液、飛んでますね」
窓ガラスを振り返る。精液が飛んで、垂れている。加賀さんが出したものだと思うと、それだけで愛しくて、心なしか輝いて見えた。
「親父に殺される」
殺すわけがないし、比喩というか言葉の綾だとわかってはいるが、股間がヒュンとなり、加賀さんの中の俺が、元気をなくしてしまった。
「あー……、なんかごめん」
「いえ、これも思い出です」
「はは、前向き」
「気持ちよかったですか?」
「うん。めっちゃよかった」
「俺もです。掃除しましょう」
飛び散った精液を二人で黙々と掃除して、シャワーを浴びて、タクシーを呼び、予定より早く外に出た。
雲は多いし風も強いが、相変わらずのいい天気だ。
海沿いを歩く。
ヤシの木の隙間からパラソルがたくさん見えた。水着の人も多い。
多種多様な人種が集まっているが、日本人もやけに目についた。日本人がハワイ好きというのは本当らしい。
街中を、手を繋いで歩く。
たまに人の視線を感じたが、別に、どうでもよかった。視線の主も、どうでもいい、という顔をしている。いろんな人種の人がいて、いろんな関係性の人がいる。自分のものさしでは測りようがない。だから誰にも、咎められない。
下調べしていた店でロコモコ食べながら、
「天気に恵まれてよかったですね」
「日頃の行いかな」
と会話していると、窓の外が急に土砂降りになった。一月のハワイは雨季だから、驚くことじゃない。
「挙式は晴れててよかったよな」
「日頃の行いがいいからですね」
窓の外を眺めながら、そんなことを言っていたが、食事を終えても雨は止まない。横殴りの雨が窓ガラスを叩いている。
「通りに出ればタクシー捕まると思いますけど、どうします? 止むまで待ちます?」
「うーん」
加賀さんが腕時計に目を落とし、腰を上げる。
「走るか」
「走りましょう」
これも、旅の醍醐味だ。
〈おわり〉
挙式を終え、チャペルを出た。
よく晴れた日だ。
透き通るハワイの海を背景に、二人でナイフを持って、ケーキ入刀。
お互いにケーキを食べさせるファーストバイトのあとは、砂浜に家族が並んで「乾杯」と声を揃える。
こういう、一般的な挙式を体験できるとは思わなかった。
嬉しくて、楽しくて、幸せで、ずっと笑っていた。
波打ち際を、手を繋いで歩く。
シャッター音が鳴る。
ハルさんが、カメラを構えてずっとついてきている。
アルバム作成のための写真撮影タイムだ。家族はひっそりと、遠巻きにこちらを見守っている。
海をバックに見つめ合う写真をこれでもかと撮ったあとで、ファインダーを覗いていたハルさんが、「よし、じゃあ次、お姫様だっこいってみようか」とニヤニヤした声で言った。
「出たー、くると思った」
加賀さんが、はい、と両手両足をまっすぐ伸ばして直立し、抱っこ待ちをする。
可愛い。
「失礼します」
タキシードの加賀さんを、丁寧に抱え上げた。俺の首に手を回した加賀さんが、顎のあたりに鼻をすり寄せてくる。
「くすぐったいです」
「ごめん、匂い嗅ぎたくなっちゃって」
至近距離に、加賀さんの顔がある。ほぼ無意識に、キスをする。キャー、と遠くで六花の悲鳴が聞こえた。
「こらこら」
加賀さんが笑って俺の頬を押す。
「いいよ、もう、なんでもしちゃって。二人、めちゃくちゃ画《え》になる。最高の被写体」
ハルさんは楽しそうだった。何度もフィルムを交換し、後半は砂まみれで汗だくになっていた。
写真撮影が終わると、チャペル併設のパーティ会場で食事会が始まった。
タキシードを脱ぐと、肩の力が抜けた。無事に終わった。心からホッとした。
ホッとすると同時に、内側から湧き出てくるものがあった。
それは、性欲だ。
急に、加賀さんをなんとかしたくてたまらなくなり、みんなが和やかに談笑しているというのに、俺はひたすら耐えていた。
キスがいけない。
中途半端なキスを、何度もするから。
もっと欲しくなる。
もっと深くて、甘くて、濃厚なキスが、したい。
加賀さんの横顔を見た。ステーキ肉を、口に運んでいる。ステーキになりたい。とさえ思う。その上品な口元を下心丸出しで見つめたが、加賀さんは気づかずに、正面に座った父の映画談議に付き合っている。
家族は大好きだし、みんなが楽しそうなのが嬉しい。
この時間がいかに尊くて大切か。
噛み締めたい。
父、母、二人の姉、光太郎さんにハルさん、ついでに大月君の顔を順番に見ているうちに、性欲はなりをひそめた。
消えたわけじゃない。すぐそこにうずくまっている気配を感じていた。隙を見て出てこようとするのを、押さえつける。
ようやく二人きりになれたのは、その日の夜。
もう我慢できなかった。
激しくしないし、声を出さないように、布団を被って静かにまぐわいましょうと懇願すると、加賀さんは「わかったよ」と笑っていた。
わかったよ、と言ったのに。
浴室は音が響く。欲情しないよう、順番にシャワーを浴びた。それがいけなかった。先に済ませた加賀さんが、眠ってしまったのだ。
絶望した。
ショックで気絶したのか、気づくと朝だった。
家族たちの声で目が覚め、玄関のドアの音で覚醒した。早朝から行動を開始するとは聞いていた。ベッドを下り、カーテンを開け、外を見た。タクシーが停まっている。みんなが乗り込んで、走り出すのを見届けると、ハッとした。
「加賀さん」
隣のベッドに加賀さんがいない。慌てて部屋を出て、階段を駆け下りた。
「おはよ」
爽やかな笑顔の加賀さんが、テーブルに二人分の朝食を並べていた。
「見てこれ、五月ちゃんが作った目玉焼き」
白身が縮んで小さくなっていて周辺を焦げが縁取っている。明らかに焼きすぎて、失敗している。
「これはちょっと……、なんかすいません。加賀さんの分だけでも作り直しますか?」
「いいよ。めっちゃ張り切って作ってくれたから。あ、このパン、お母さんの手作りだって。食べよっか」
「はい、食べましょう」
五脚ずつ向かい合って並んでいる長いテーブル。対面に座ると、なんだか遠い。
「いただきます」
手を合わせて、声を揃える。加賀さんが母の手作りロールパンをちぎりながら、思い出したように言った。
「昨日ごめんな。寝ちゃってた」
「仕方ないです、疲れましたもんね。いいんです。よくないけど」
「はは、よくないけど」
「みんな、出かけました?」
「うん」
「二人っきり?」
「うん」
加賀さんがバターを塗ったパンを口に放り込んで、俺を見る。目が合った。
「みんなと一緒もいいけど、二人っきり、嬉しいな」
「……はいもう、はい……、嬉しいです」
ニヤニヤしてしまうのを、パンをたくさん口に詰め込んで、ごまかした。
今日は一段と別荘が広く感じる。二人きりだからだと気づいて、落ち着かなくなった。
二人きり。
なんでもできる。
食べたら、まず、抱きしめよう。キスをしよう。いっぱい触って、ああしてこうして。
「俺らの今日の予定、ロコモコだよな」
加賀さんが言った。我に返り、口の中のものを飲み込んでからうなずいた。
「はい。ロコモコ食べて、海岸沿いとか街中ブラブラしましょう」
「昼前に出る?」
「ですね。年越しそばの準備もあるし、ゆっくりもしてられませんけど」
「午前中はだいぶ時間あるよな。イチャイチャする時間」
イチャイチャ、という単語が、股間に的中した。
「う……っ」
前屈みになる俺を、加賀さんが笑う。
「式のあと限界ぽかったのに、よく我慢してるよな」
「気づいてたんですか?」
「気づくよそりゃ。チラッチラッて音聞こえてたもん」
「ふふ、聞こえちゃいましたか」
「倉知君」
加賀さんが俺を呼ぶ。パンをもぐもぐしながら加賀さんを見る。
「はい?」
「好き」
キュン、と高鳴ったのは、胸ではなく、股間だった。
「か、がさん」
手からパンが零れ落ち、皿の上に転がった。もう駄目だ、もう、本当に、限界だ。
食事中だというのに、勃起してしまった。
でも大丈夫。
二人きりだから、心置きなく勃起できる。
「俺も、大好き。触りたい。触ってもいい?」
「いいよ。はい」
加賀さんが人差し指を伸ばしてくる。指先をちょんとくっつけ合い、笑う。
「早く食おう」
「はい」
高速で朝食を終え、食器をそのままに、立ち上がる。加賀さんが俺の股間に気づくと、逃げ出した。階段を駆け上る後姿を、追う。手首を捕まえ、部屋になだれ込み、抱き合って、キスをする。舌先が絡み合うと、情けない声が漏れた。体がびくついて、危うく精を放つところだった。
「イッた?」
「少し、漏れたかも」
「ははっ」
加賀さんが、可愛い顔で笑う。
急いでベッドの上に押し倒す。キスをしながら服を脱がせ、素肌に触れる。手のひらにぬくもりを感じた瞬間、泣きそうになる。
「倉知君、脱いで」
加賀さんが、俺の服をむしり取る。
裸で、密着する。
一旦、はあ、と二人で息をつく。お互いの体温と匂いを確かめてから、頬をすり寄せ、唇を合わせ、体中を撫でる。首、鎖骨、胸、腹、と順番にキスをして、すでに硬いペニスの先端を、舌でくすぐった。
「う……、はあっ、やばい、めっちゃ気持ちいい」
すごく、反応がいい。加賀さんも我慢していたのだなと思うと、愛しくて抱きしめずにいられなかった。腰にしがみつき、ペニスに頬ずりをすると、加賀さんの腹が痙攣したみたいに小刻みに揺れた。笑っている。
「何してんの?」
「大好きだなって思って」
「俺も大好き。もう挿れていいよ。さっき朝一でめっちゃほぐしたから」
「え」
「ほら、柔らかいだろ」
手を下腹部に導かれ、喉を鳴らした。指が、加賀さんの中に潜り込んでいく。きゅ、と締め付けられる感覚に、俺のペニスは硬度を増す。
加賀さんがあおむけのままで枕の下に手を差し入れて、コンドームの箱を引っ張り出した。すごい、準備万端だ。
「早く挿れて? 繋がりたい」
鼻息を荒くしながらコンドームを開封し、手早く装着し、突入する。
「あっ……」
「あっ!」
二人で恍惚の声を上げる。俺の声のほうが、ボリュームが大きかった。加賀さんが腕で顔を覆って、笑いを堪えている。
「すいません、声が」
「ふ……はは、うん、可愛い、好き」
ふう、と息を吐いてから、加賀さんが俺の顔を両手で挟んで、もう一度言った。
「好き」
カーッと顔が熱くなり、股間も同様に熱くなる。
「加賀さん……!」
太ももをつかんで、腰を打ちつけた。奥を突いて、小刻みに揺すって、しつこく「好き」と繰り返す。
「好き、加賀さん、大好き」
「んっ……、うん、あ、あっ、七世、もっと……」
しがみついてくる加賀さんの体を抱きしめて、激しく腰を振る。
ベッドのスプリングが、軋む。体が、弾む。
体を動かすたびに、声が出た。気持ちよかった。まるで俺が抱かれているみたいに、喘いでしまう。
「気持ちいい、加賀さん、どうしよう」
「可愛い」
加賀さんの手が、俺の後頭部を優しく撫でる。
いい子、七世、と甘く囁く声。
先に達したのは俺だった。
動きを止めて、荒い呼吸のまま、キスをする。
息をつき、腰を引いて加賀さんの中から出た。コンドームの先に精液が溜まっていた。むしり取る。口を縛って、ティッシュにくるみ、シーツに転がして、二つ目のコンドームを流れるように自身に着ける。
「窓」
加賀さんが言った。
「え?」
「窓開いてる」
カーテンが全開で、窓が開いている。
でも別に、どうということはない。
ここら一帯は別荘地だが、日本の都会とは全然違う。土地が広く、敷地が離れていて、室内の声が聞こえるとは考えにくい。ちょっと小高い場所に建っていて、眼前は海だし、誰かに見られる心配もない。
「閉めて」
「大丈夫ですよ」
「まあ、手遅れかもな。つうか、絶対お前の喘ぎ声のほうが」
「見てください」
加賀さんの科白に被せて、窓の外を指差した。
「素晴らしいオーシャンビュー……、そうだ」
「あー、無理、無理だって」
ベッドから降りて、素っ裸で窓際に立つと、加賀さんを手招いた。
「加賀さん、ちょっと、ここに立って、窓に手をついて。後ろから、したい」
「ほとんど青姦じゃねえか」
「だってこんなこと、日本じゃ絶対にできませんよ」
加賀さんが頭を掻いて、俺の股間を見ながら小さくため息をついた。
「それもそうだ」
ハワイの、朝早く。海を見ながら、後ろから、穿つ。
加賀さんは、声を殺していた。すごく、我慢している。その堪えた様がさらに俺の情欲を煽る。
揺するたび、加賀さんのうなじが赤く染まっていく。羞恥と快感に震える様子が可愛くて仕方がない。
「加賀さん、海、綺麗です。加賀さんのうなじも、綺麗」
噛みつくと、小さく声を上げた。
背中が、波打つ。
「イ……ク……ッ」
加賀さんの体がびく、と震え、窓についていた手がずり落ちた。全身が、脱力していく。繋がったまま、腹に手を添えてベッドに運び、うつ伏せの体をシーツに押しつけた。
「……待って、拭かないと」
「精液、飛んでますね」
窓ガラスを振り返る。精液が飛んで、垂れている。加賀さんが出したものだと思うと、それだけで愛しくて、心なしか輝いて見えた。
「親父に殺される」
殺すわけがないし、比喩というか言葉の綾だとわかってはいるが、股間がヒュンとなり、加賀さんの中の俺が、元気をなくしてしまった。
「あー……、なんかごめん」
「いえ、これも思い出です」
「はは、前向き」
「気持ちよかったですか?」
「うん。めっちゃよかった」
「俺もです。掃除しましょう」
飛び散った精液を二人で黙々と掃除して、シャワーを浴びて、タクシーを呼び、予定より早く外に出た。
雲は多いし風も強いが、相変わらずのいい天気だ。
海沿いを歩く。
ヤシの木の隙間からパラソルがたくさん見えた。水着の人も多い。
多種多様な人種が集まっているが、日本人もやけに目についた。日本人がハワイ好きというのは本当らしい。
街中を、手を繋いで歩く。
たまに人の視線を感じたが、別に、どうでもよかった。視線の主も、どうでもいい、という顔をしている。いろんな人種の人がいて、いろんな関係性の人がいる。自分のものさしでは測りようがない。だから誰にも、咎められない。
下調べしていた店でロコモコ食べながら、
「天気に恵まれてよかったですね」
「日頃の行いかな」
と会話していると、窓の外が急に土砂降りになった。一月のハワイは雨季だから、驚くことじゃない。
「挙式は晴れててよかったよな」
「日頃の行いがいいからですね」
窓の外を眺めながら、そんなことを言っていたが、食事を終えても雨は止まない。横殴りの雨が窓ガラスを叩いている。
「通りに出ればタクシー捕まると思いますけど、どうします? 止むまで待ちます?」
「うーん」
加賀さんが腕時計に目を落とし、腰を上げる。
「走るか」
「走りましょう」
これも、旅の醍醐味だ。
〈おわり〉
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どろどろに愛されているけれど―――。
〔攻め〕市川 陽介(いちかわ ようすけ)34歳
〔受け〕大野 誠也(おおの せいや)26歳
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
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