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十二月二日の加賀君
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〈後藤編〉
出社した加賀君は、見るからにご機嫌だった。
昨日は確か、誕生日だ。だからだろう。
今日倉知君のカレーなんだ、と子どもみたいに目を輝かせ、定時に帰っていった。
いい大人が誕生日で浮かれるのにはわけがある。
七世君は、四月から教師になった。毎日夕飯を作って待っていてくれた学生の頃とは違い、帰宅が遅く、必然的に二人の時間も減ったのだ。
仕方ないけど寂しい。笑いながらではあるが、弱音を吐くこともあった。
そういう加賀君を見てきたから、楽しい時間を過ごせたのだと思うと、嬉しかった。加賀君が、というより加賀君と七世君が幸せそうで、私は嬉しい。
「加賀君おはよう!」
前畑がいつも通りの全力のあいさつをすると、加賀君は男前で爽やかな笑顔を見せた。
「おはよ」
何かが違う、と感じ取った前畑が「はう」と妙な声を上げて自分の頬を両手で挟んだ。
「加賀君、なんか今日、優しげっていうか、カッコイイっていうか、あっ、ううん、毎日優しくてカッコイイんだけどね?」
加賀君がデスクに通勤カバンを置いて、誇らしげに言った。
「鋭いな。今日の俺、輝いてるだろ?」
前畑の絡みにのっかる加賀君が、カッコつけた顔をして、ネクタイを締め直す仕草をした。
「そのネクタイ、初めて見る」
突っ込むと、加賀君が指を鳴らしてから私に人差し指を向けた。
「そう。正解、ネクタイです。俺の全能力を最大限に引き出す素晴らしいこのネクタイ、とくと見よ」
「何そのテンション」
聞かなくてもわかる。完全に、七世君からの誕生日プレゼントだろう。
「えー、そういう色、珍しいね」
見せて、と席を立つ前畑に加賀君が胸を張る。
「見て、めっちゃ見て」
ここぞとばかりに加賀君のふところににじり寄った前畑が、へーふーんほーんと心ここにあらずな声を出していたが、そのうち「あっ」と何かに気づいた。
「えっ、可愛い! これ、猫の肉球じゃない?」
「惜しい、犬なんだよな。俺が犬派だからって、倉知君が犬の肉球の柄を選んでくれたんだよ。このこだわり、愛を感じない?」
「感じる」
前畑がなんとも言われない顔でブルブルしている。
「犬と猫の肉球ってどう違うの?」
私が訊くと、加賀君はあっけらかんとして、「知らん」と肩をすくめた。
「あー、今日仕事頑張れるわ。っしゃー、やるぞー」
気合溢れる加賀君を眺め、私と前畑はうなずき合う。
こちらこそ、今日は仕事を頑張れる。
〈おわり〉
出社した加賀君は、見るからにご機嫌だった。
昨日は確か、誕生日だ。だからだろう。
今日倉知君のカレーなんだ、と子どもみたいに目を輝かせ、定時に帰っていった。
いい大人が誕生日で浮かれるのにはわけがある。
七世君は、四月から教師になった。毎日夕飯を作って待っていてくれた学生の頃とは違い、帰宅が遅く、必然的に二人の時間も減ったのだ。
仕方ないけど寂しい。笑いながらではあるが、弱音を吐くこともあった。
そういう加賀君を見てきたから、楽しい時間を過ごせたのだと思うと、嬉しかった。加賀君が、というより加賀君と七世君が幸せそうで、私は嬉しい。
「加賀君おはよう!」
前畑がいつも通りの全力のあいさつをすると、加賀君は男前で爽やかな笑顔を見せた。
「おはよ」
何かが違う、と感じ取った前畑が「はう」と妙な声を上げて自分の頬を両手で挟んだ。
「加賀君、なんか今日、優しげっていうか、カッコイイっていうか、あっ、ううん、毎日優しくてカッコイイんだけどね?」
加賀君がデスクに通勤カバンを置いて、誇らしげに言った。
「鋭いな。今日の俺、輝いてるだろ?」
前畑の絡みにのっかる加賀君が、カッコつけた顔をして、ネクタイを締め直す仕草をした。
「そのネクタイ、初めて見る」
突っ込むと、加賀君が指を鳴らしてから私に人差し指を向けた。
「そう。正解、ネクタイです。俺の全能力を最大限に引き出す素晴らしいこのネクタイ、とくと見よ」
「何そのテンション」
聞かなくてもわかる。完全に、七世君からの誕生日プレゼントだろう。
「えー、そういう色、珍しいね」
見せて、と席を立つ前畑に加賀君が胸を張る。
「見て、めっちゃ見て」
ここぞとばかりに加賀君のふところににじり寄った前畑が、へーふーんほーんと心ここにあらずな声を出していたが、そのうち「あっ」と何かに気づいた。
「えっ、可愛い! これ、猫の肉球じゃない?」
「惜しい、犬なんだよな。俺が犬派だからって、倉知君が犬の肉球の柄を選んでくれたんだよ。このこだわり、愛を感じない?」
「感じる」
前畑がなんとも言われない顔でブルブルしている。
「犬と猫の肉球ってどう違うの?」
私が訊くと、加賀君はあっけらかんとして、「知らん」と肩をすくめた。
「あー、今日仕事頑張れるわ。っしゃー、やるぞー」
気合溢れる加賀君を眺め、私と前畑はうなずき合う。
こちらこそ、今日は仕事を頑張れる。
〈おわり〉
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