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ライム先輩とのお出掛け
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「えー、それでお前ら付いてくのかよ?」
和室で丸めた座布団を抱えごろごろと転がりながら、アーロンの三番目の兄、ケビンがタイスケを咎める。
タイスケは丁度、出汁の入った鍋を囲炉裏に運んで来た所だ。味噌汁の用意をしている最中である。
今日がちゃんこではないのは、ケビンがごねたせいだ。
☆
「もうちゃんこは飽きた、別のもんが食いてえ」
いつの間にかアーロンが土日は火の国の寮で過ごす事は当たり前の様になっていたのだが、そこに当然の顔して割り込んで来たのがケビンだ。
「お好み焼きか、もんじゃがいいな。イチロウ頼んだ!」
「お好み焼きか、もんじゃ、ですか?」
「兄上我儘言わないでよ」
この兄はいつの間にか学院の教師になって居たくせに相変わらず子供の様だ。一応教師の寮はあるのだが、普段の日もちょくちょく火の国の寮にやって来ては、客間で寝たり、食事を強請ったりしているそうだ。手ぶらではなく、食材を持ち込んだりする上に、一応二人の言葉の師匠でもあったらしいので大きな顔をして居座っているが、アーロンは時々我が兄ながら情けなくなる。
でも、それを言うならアーロンも同じだ。「材料は伯爵家の寮から貰っているので寮費に含まれていると思います」とイチロウが言うので、すっかり火の国の二人の親切に甘えてしまっている。
(ただ、僕は兄上みたいにあれが食べたい、これが食べたいとか我儘言った事無いけど!)
「お好み焼きは生憎作り方を存じ上げなくて、それにもんじゃは鉄板が無くては……」
「なんだイチロウ作れないのかよー」
「お好み焼きは火の国でも西の方の食べ物んすから」
「ええー」
ごろごろと駄々をこねるように転がる兄を見下ろしながら、ため息を吐いてアーロンは立ち上がった。
「お好み焼きなら僕が出来ます。家で手伝ってましたのでフライパンで焼けます。材料があれば、ですけど」
「うわん! アーロンちゃん、好き!」
足首にしがみついてくる兄を蹴り飛ばして、アーロンはイチロウと厨房へ向かった。
出汁は丁度取ってあったし、小麦粉、豚肉、キャベツもあった。ネギも卵もある。
「とろろ芋は無いですね」
「山芋ですか?」
イチロウと野菜の籠を漁っていると、申し訳無さそうな顔のタイスケがやって来た。
「師匠が、明太餅チーズと豚玉が食いたいって言ってるっす」
「えー。イチロウ様、明太子とチーズとお餅ありますか?」
「餅はありますが、明太子とチーズは無いですね」
「タイスケ様、兄上に、豚玉にお餅入れてあげるからそれで我慢して!って言っておいて」
「了解っす」
「後は、海老とか烏賊もあると良いです」
アーロンの言葉に、イチロウが冷蔵庫の魔道具を覗く。
「両方ともありました、あ、たらこはあります」
「粉唐辛子はありますか?」
「あります」
「じゃあ、粉唐辛子と出汁にたらこを漬けて、明太子にしましょう」
アーロンはイチロウに作り方を教えていく。イチロウは手際が良く一度で理解するので、するすると作業が進む。
「師匠が、なめこと豆腐の味噌汁が食いたいって言ってるっす」
「えー」
とアーロンが顔を顰めると、タイスケが「それ位はおいらと師匠で出来るっす」と動き出したので、任せる事にした。
「あ、ソースとマヨネーズ。どうしようかな」
「無いですね」
「うーん、じゃあソースは醤油とポン酢で我慢して貰って。ポン酢ありましたよね?」
「はい」
「マヨネーズは作りましょう」
「作れるんですか!」
イチロウの目がきらきらと輝く。そうだ、イチロウ様はまよらーとか言うのだった、とアーロンは思い出した。
☆
結局、明太餅、海老と烏賊、豚玉の三種類のお好み焼きが出来た。勿論一人全種類の三枚ずつだ。山芋は無かったし、色々足りない物はあるが美味しく焼けた。味噌汁はタイスケが作った。ケビンは寝転がって居ただけで何もしていない。家でもそうで、あれが食いたいこれが食いたいと急に言い出しては、母と二番目の兄の手を煩わせていたのだった。
「ソースう」
とケビンは文句を言いながらももりもりと食べている。不意に、
「なあ、俺がお前ら連れてってやるから、明日はよしとけよ」
とケビンがイチロウとタイスケに話し出した。
明日とは、ライム先輩に王都に買い物に連れて行って貰う予定の事だ。
「な、アーロンだって、お邪魔虫二人が居ない方がいいだろ?」
二人が応えないので、今度はアーロンに話し掛けて来た。
「別に」
「別にって、アーロンちゃん」
「先輩も良いって仰ってるし」
「いや、でもさ」
アーロンはケビンが食べ切れない分を食べながら、もう一回お好み焼き焼いて来ようかな、火の国の二人も食べるよねと考えていた。
「そもそも、何しに行くんだよ。観光なら俺とでもいいだろ?」
とケビンがタイスケに聞く。
「魔道具を見に行きたいっす」
「うん」
とアーロンも頷く。
「え? 魔道具って、『銀鼠』か?」
「ううん」
『銀鼠』とは、この国で一番大きな商会だ。主に魔道具と食品を扱っていて、アーロンの領地にも支店があった。安さと商品の幅広さが自慢で、平民も魔道具が買えるようになったのは『銀鼠』のお陰だと言われている。アーロンの家にあった魔道具も『銀鼠』の物だった。
「せっかくライム先輩に連れて行っていただけるから、貴族向けに受注生産しているような小さな工房に連れて行って貰おうと思って」
「ああ、そうか」
「うん」
ケビンも納得したようだ。
「でもさ、お前らは別にアーロンみたいに魔道具に興味ある訳じゃないだろ?」
納得していなかった。
「おいら達、髪色を変える魔道具が欲しいっす」
「いや、それなら『銀鼠』にもあるだろ?」
「装身具型の魔道具を購入したいと思いまして」
「ああ、そういうのかあ」
「おいら達、学院の三年間で髪の長さを元に戻したいっす。『銀鼠』のは鬘型なんで、三年間ずっとは辛いっす」
「確かになあ、夏は蒸れそうだな。うーん、そういうとこかー。高いけど、金はあるか。うーん。ま、ライムのが、じゃない息子が一緒なら大丈夫かな。分かった、気を付けて行って来い」
何やら、ケビンはまだ気になる事がある様だったが、お許し?が出た。
和室で丸めた座布団を抱えごろごろと転がりながら、アーロンの三番目の兄、ケビンがタイスケを咎める。
タイスケは丁度、出汁の入った鍋を囲炉裏に運んで来た所だ。味噌汁の用意をしている最中である。
今日がちゃんこではないのは、ケビンがごねたせいだ。
☆
「もうちゃんこは飽きた、別のもんが食いてえ」
いつの間にかアーロンが土日は火の国の寮で過ごす事は当たり前の様になっていたのだが、そこに当然の顔して割り込んで来たのがケビンだ。
「お好み焼きか、もんじゃがいいな。イチロウ頼んだ!」
「お好み焼きか、もんじゃ、ですか?」
「兄上我儘言わないでよ」
この兄はいつの間にか学院の教師になって居たくせに相変わらず子供の様だ。一応教師の寮はあるのだが、普段の日もちょくちょく火の国の寮にやって来ては、客間で寝たり、食事を強請ったりしているそうだ。手ぶらではなく、食材を持ち込んだりする上に、一応二人の言葉の師匠でもあったらしいので大きな顔をして居座っているが、アーロンは時々我が兄ながら情けなくなる。
でも、それを言うならアーロンも同じだ。「材料は伯爵家の寮から貰っているので寮費に含まれていると思います」とイチロウが言うので、すっかり火の国の二人の親切に甘えてしまっている。
(ただ、僕は兄上みたいにあれが食べたい、これが食べたいとか我儘言った事無いけど!)
「お好み焼きは生憎作り方を存じ上げなくて、それにもんじゃは鉄板が無くては……」
「なんだイチロウ作れないのかよー」
「お好み焼きは火の国でも西の方の食べ物んすから」
「ええー」
ごろごろと駄々をこねるように転がる兄を見下ろしながら、ため息を吐いてアーロンは立ち上がった。
「お好み焼きなら僕が出来ます。家で手伝ってましたのでフライパンで焼けます。材料があれば、ですけど」
「うわん! アーロンちゃん、好き!」
足首にしがみついてくる兄を蹴り飛ばして、アーロンはイチロウと厨房へ向かった。
出汁は丁度取ってあったし、小麦粉、豚肉、キャベツもあった。ネギも卵もある。
「とろろ芋は無いですね」
「山芋ですか?」
イチロウと野菜の籠を漁っていると、申し訳無さそうな顔のタイスケがやって来た。
「師匠が、明太餅チーズと豚玉が食いたいって言ってるっす」
「えー。イチロウ様、明太子とチーズとお餅ありますか?」
「餅はありますが、明太子とチーズは無いですね」
「タイスケ様、兄上に、豚玉にお餅入れてあげるからそれで我慢して!って言っておいて」
「了解っす」
「後は、海老とか烏賊もあると良いです」
アーロンの言葉に、イチロウが冷蔵庫の魔道具を覗く。
「両方ともありました、あ、たらこはあります」
「粉唐辛子はありますか?」
「あります」
「じゃあ、粉唐辛子と出汁にたらこを漬けて、明太子にしましょう」
アーロンはイチロウに作り方を教えていく。イチロウは手際が良く一度で理解するので、するすると作業が進む。
「師匠が、なめこと豆腐の味噌汁が食いたいって言ってるっす」
「えー」
とアーロンが顔を顰めると、タイスケが「それ位はおいらと師匠で出来るっす」と動き出したので、任せる事にした。
「あ、ソースとマヨネーズ。どうしようかな」
「無いですね」
「うーん、じゃあソースは醤油とポン酢で我慢して貰って。ポン酢ありましたよね?」
「はい」
「マヨネーズは作りましょう」
「作れるんですか!」
イチロウの目がきらきらと輝く。そうだ、イチロウ様はまよらーとか言うのだった、とアーロンは思い出した。
☆
結局、明太餅、海老と烏賊、豚玉の三種類のお好み焼きが出来た。勿論一人全種類の三枚ずつだ。山芋は無かったし、色々足りない物はあるが美味しく焼けた。味噌汁はタイスケが作った。ケビンは寝転がって居ただけで何もしていない。家でもそうで、あれが食いたいこれが食いたいと急に言い出しては、母と二番目の兄の手を煩わせていたのだった。
「ソースう」
とケビンは文句を言いながらももりもりと食べている。不意に、
「なあ、俺がお前ら連れてってやるから、明日はよしとけよ」
とケビンがイチロウとタイスケに話し出した。
明日とは、ライム先輩に王都に買い物に連れて行って貰う予定の事だ。
「な、アーロンだって、お邪魔虫二人が居ない方がいいだろ?」
二人が応えないので、今度はアーロンに話し掛けて来た。
「別に」
「別にって、アーロンちゃん」
「先輩も良いって仰ってるし」
「いや、でもさ」
アーロンはケビンが食べ切れない分を食べながら、もう一回お好み焼き焼いて来ようかな、火の国の二人も食べるよねと考えていた。
「そもそも、何しに行くんだよ。観光なら俺とでもいいだろ?」
とケビンがタイスケに聞く。
「魔道具を見に行きたいっす」
「うん」
とアーロンも頷く。
「え? 魔道具って、『銀鼠』か?」
「ううん」
『銀鼠』とは、この国で一番大きな商会だ。主に魔道具と食品を扱っていて、アーロンの領地にも支店があった。安さと商品の幅広さが自慢で、平民も魔道具が買えるようになったのは『銀鼠』のお陰だと言われている。アーロンの家にあった魔道具も『銀鼠』の物だった。
「せっかくライム先輩に連れて行っていただけるから、貴族向けに受注生産しているような小さな工房に連れて行って貰おうと思って」
「ああ、そうか」
「うん」
ケビンも納得したようだ。
「でもさ、お前らは別にアーロンみたいに魔道具に興味ある訳じゃないだろ?」
納得していなかった。
「おいら達、髪色を変える魔道具が欲しいっす」
「いや、それなら『銀鼠』にもあるだろ?」
「装身具型の魔道具を購入したいと思いまして」
「ああ、そういうのかあ」
「おいら達、学院の三年間で髪の長さを元に戻したいっす。『銀鼠』のは鬘型なんで、三年間ずっとは辛いっす」
「確かになあ、夏は蒸れそうだな。うーん、そういうとこかー。高いけど、金はあるか。うーん。ま、ライムのが、じゃない息子が一緒なら大丈夫かな。分かった、気を付けて行って来い」
何やら、ケビンはまだ気になる事がある様だったが、お許し?が出た。
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